ホメオパシーの問題とイケダハヤトさんの問題

先日書いた記事で、プロブロガーのイケダハヤトさんが、ホメオパシーレメディに効果があるかのように記事で紹介なさった、という事を採り上げました。

interdisciplinary.hateblo.jp

この、イケダハヤトさん周りの議論関連で、バズフィード・ジャパンに記事が上がりました。

https://www.buzzfeed.com/satoruishido/homeopathy-mondai(『繰り返されるホメオパシー騒動と「ニセ科学」 本当の問題はどこに?』)

記者は石戸諭さんで、内科医のNATROMさんのコメントも紹介しつつ、ホメオパシーについての問題点を洗い出しています。

そして、こういった流れを受けてのイケダハヤトさんの反応は、以下のようなものでした。

このイケダハヤトさんの つぶやきの要点を書き出すと、

  • ホメオパシーが標準的医療を忌避させ、医療行為を受ける機会を奪う事があるのを知っている(知っていた or 直近に知った)
  • イケダハヤトさんは上記を踏まえ、自分はそのようにならないと認識している
  • イケダハヤトさんご自身のお子さんについても、標準的医療を受けさせないような事をしない、と考えている

このようになるでしょう。

ここでイケダハヤトさんは、

この2つが区別出来ていません。今回、イケダハヤトさんの記事が問題であったのは、

ホメオパシーレメディに効果があると思わせるように誘導している

という所です。それからもう一つ、

現在明らかになっている事を紹介していない

のも挙げられます。明らかになっているのは、私が前回の記事でも書いたように、レメディ自体は効かない事が判っているという所や、実際に日本のホメオパシー関連団体が、標準的な医療を忌避させる事がある、という部分です。つまり、イケダハヤトさんは、

レメディが効かず、しかも、ホメオパシーに関係する団体が問題を孕んでいる、という事実を知らせず、レメディが効くかも知れないというメッセージを発した

訳です。ここに、イケダハヤトさんご自身がどうするかは関係ありません。お子さんに対してどうするか、という事もです。また、イケダハヤトさんが、日本のホメオパシー団体の問題をご存知だったかどうかも関係ありません。むしろ、知らなかったとすれば、調べておくべきだった、となるでしょう。

イケダハヤトさんは、批判を受けて、

www.ikedahayato.com

このような記事をアップなさいました。ここでは、

「現代医療を否定!薬は一切飲まないし子どもにも与えない!」とか「すべてホメオパシーで治す!」みたいな話ではありません。何かあったら普通に病院にかかって薬飲みますよ、そりゃ。

このような意見が書かれています。上で紹介したtwitterの投稿と同じような内容です。けれどこれは、後で書かれたものです。発端の記事では、ホメオパシー絡みで重大な問題が起こった事になど、触れられてすらいません。そのような記事に対して批判が起こった結果、2つ目の記事が上げられた訳です。
ホメオパシー(レメディ)って何だか怪しげだけど、周りに効くと言っている人もいるし、体験談もあるから、もしかしたら効くかも――というのは当然、ホメオパシーをよく知らない人に向けられたもののはずです。そういう対象に対して誤ったメッセージを発信した事が、イケダハヤトさんの行為の問題点だったのです。再び言えば、ここに、イケダハヤトさんご自身のホメオパシーへの対し方は関係ありません。

私が前回書いた記事では、ホメオパシー関連団体がどうした、とか、イケダハヤトさんがどのような動機で記事をアップなさったか、という事には一切触れていません。そのような動機などはひとまず措いて、その時に、代替療法に関する不正確な知識が伝達されつつあったので、レメディが効かない事と、効き目を確かめる方法などについて現在までに判っている事を知らせよう、と思ったのです。良い物を紹介しようという心がけからであるにしても、と書いたのは、たとえそれが善意に基づいたものであっても、不正確な情報を書いた事に変わりは無い、からです。

ホメオパシーに内在する問題に関しては、バズフィード・ジャパンの記事にある通りですが、改めて私がピックアップして書くと、

  • レメディの効果を高く喧伝するほど、相対的に標準的医療に対して忌避感や不信感を形成させる
  • レメディは医薬品では無いため、原理を守り、かつ品質管理が杜撰だった場合、レメディ自体が危険になる可能性がある

こういった所です。前者は、レメディが良い物、適用範囲が広い物、と喧伝するのは、現代の標準的な医療の価値を相対的に下げる事に繋がります。現代医療西洋医学といった、それっぽい表現を用いて欠点をあげつらい、ホメオパシーの利点を強調する事などがそうです。標準的医療と変わらないのなら、標準的医療を受ければ良い、となりますからね。そうなると、安価である事くらいしかアピールする点が無くなります。もちろん、そういう方向を行く団体などもあるでしょう。その場合には、比較的穏当な組織、と評価される訳ですね。そして、標準的な医療を忌避させてホメオパシーの優位さを主張する先鋭的な考えを持った人たちが起こしたのが、ケイツーシロップ事件です。

後者に関して。ホメオパシーは、レメディの材料として有害な物質を用いる場合があります。もし、自分たちの信じる原理に忠実であろうとすると、レメディのには有害物質が入っています。次に、もう一つの原理である、極度に薄めるという工程が失敗した場合、ほんとうに有害なレメディが製造される可能性があります。薄め方が足りなかった、という場合です。
もちろん、品質管理が甘くて低品質の物が製造されるというのは、工業製品一般で起こり得る事ですが、レメディは医薬品では無く食品ですから、医薬品のように薬機法の規制を受けない、にも拘らず有害な物を材料に使う可能性がある、という事を念頭に置くべきでしょう。今のところ、日本ではそのような事例は無いようですが、海外では注目すべき、いくつかの事例があります(参照: インドで起きたホメオパシー製品による死亡事故: 忘却からの帰還

)。

こういった、ホメオパシーに関する注意点を紹介する事無く、レメディに効き目がある可能性のみを書いたイケダハヤトさんは、やはり不用意であったと考えます。

イケダハヤトさんのホメオパシー紹介記事について

プロブロガーのイケダハヤトさんが、次のような記事を上げておられました。

www.ikedahayato.com

これは、虫刺されや蕁麻疹などが、ホメオパシーで治るらしい、と紹介している記事です。イケダハヤトさんは自ら試してはおられないようですが、twitter上のつぶやきにある、それが効いたという体験談にリンクしてあります。

こちらで紹介されているホメオパシーというのは、18世紀末の医師であるハーネマンを源流とする療法で、同種の法則などの原理に基づいて構築されています。それは、何らかの症状をもたらす物質は、その症状を無くすためにも用いる事が出来る、というような考え方で、治療には、物質を水やアルコールで薄めて(希釈)よく振った(振盪)物を与えます。その薄めた物を、ホメオパシー・レメディ(以下、単にレメディと表現します)と呼びます。レメディは、砂糖玉に染み込ませるなどして与えます。狭い意味では、この砂糖玉の事をレメディと言います。
これだけ見ると、何となくもっともらしいと思われるかも知れませんが、実は、そのレメディの薄め方が問題で、ホメオパシーでは、元の物質が残らないほどに薄められる場合があります。ですので、それが効くのかどうか、という事が、医学界も巻き込んだ論争を呼びました。

ところで、ホメオパシーが効くという記事をイケダハヤトさんは書いておられますが、このホメオパシーは、実際はレメディの事を指していると言えます。ホメオパシーは、同種の法則やレメディの選び方や作り方与え方、相手との相談の仕方、なども含めた療法全体を指す言葉で、より広い意味合いですので、ここでは、その療法の中心となる物であり、イケダハヤトさんも商品を紹介しておられるレメディについて考える事とします。

さて、このレメディが効くかどうかですが、実は、既に効かない事が判っています。と言ってもこれは、元の物質が残っていないくらい薄められているからそう結論した、というのでは無く、レメディを実際に与えて効き目を確かめた、というものです。
もう少し詳しく説明すると、こういう、何らかの薬物や療法の効果を確かめる場合には、実験に協力してくれる人々を、いくつかの集団に分けて、それを与える集団と与えない集団に分け、症状の変化を比較します。
その時、実験をおこなう側は、何かを与えているという心が、相手への接し方に変化を及ぼし、協力者は、何かを与えられているという心が、実際に症状を軽減する可能性があります。もしその療法や薬物に効き目が無いのに、心の働きが症状を良くすると、誤って療法や薬物そのものの効果としてしまう場合があるので、一方には見た目やにおいや味がそっくりだが効かない物を与えて、もう一方には本物を与えて比較するのです。そして、与える側にも、どちらを与えているかが判らないようにしておきます。
そうすると、実験協力者は、自分が、本物と偽物のどちらを与えられているか判りませんし、与える側も、どちらを与えているかが判りませんから、心の働きを揃える事が出来、それを差し引いて残った所の、療法や薬物そのものの効果が判明する、という寸法です。

そして、レメディに関して、このような方法によって、複数の研究が実施されてきました。その内、きちんとデザインされた研究を篩い分け、結果を総合して評価する方法(これを専門用語で、メタ解析と呼びます)をおこなった所、レメディの効果は小さすぎて、偽薬による作用であるという見方と矛盾しない、との結論が得られました。これはつまり、レメディそのものに効果が無いという見方に当てはまる、といった意味合いです。
もちろん、ホメオパシーを推進する側は、このメタ解析に対して批判をおこなっています。しかしそれは、メタ解析に不備がある、というような指摘であり、レメディが効く積極的な証拠を提出出来てはいません。また、レメディが効かない、あるいは効果が得られなかった、効く証拠が不充分である、というのは、他の研究でも見出されている知見です(たとえば、コクラン・ライブラリ)。仮に、ホメオパシー支持側に寄せるとしても、少なくとも効くという証拠は得られていないと言う事は出来ます。

ここまでを踏まえて、改めてイケダハヤトさんの記事を見てみますと、まずタイトルで、「エイピス」を飲むと治るらしい。と書かれています。そして本文で体験談を紹介してありますので、らしいと留保しているとは言え、かなり効く事を示唆していると評価出来るでしょう。つまり、自分で試した訳でも無いし、信じ切っているのでも無いけれど、信頼している人が効いていると言っているし、twitterでも効くという体験談があるから、効くのかも、と誘導していると言えます。これは、イケダハヤトさんが善意に基づいて紹介しているにしても、少々不用意に思えます。特に、ムカデや蜂に刺された場合にも治るらしい、と言うのは頂けません。そういう場合には、針を抜き毒を吸い出す(はてなブックマークでの指摘を受けて追記-2016年10月12日:口では無く、 傷口をつまむ、吸引器を使うなどの方法で毒を出す。(参考資料より)という事です)、水で洗い冷やす、ステロイド軟膏を塗る、などの処置(追記-2016年10月13日:コメントでご指摘いただきましたが、ここに記述しているのは、あくまで蜂に刺された場合という具体例であり、虫や毒の性質によって処置は変わってきますので、それぞれに適した処置をおこなおう、というように読み取ってください。)をきちんとおこなって、出来れば皮膚科を受診して医師の判断を仰ぐべきです。

しかし、そうは言っても、twitterでは効くと言っている人がいるのだから、レメディにも効果があるのではないか、と思われる方もあるかも知れません。ここでは、実際に症状が出て、その後にレメディを使ったら症状が改善した、というのが事実であったと仮定して話を進めます。

以下、いくつかの資料を御覧ください(強調は引用者によります)。

ハチ毒にアレルギーがなければ,痛みやかゆみを伴う発赤や腫脹などの局所症状のみで通常3日間ほどで治りますが、
蜂刺傷 | 事故防止と対策 | 岡山大学保健管理センター
※先ほどの、蜂に刺された際の対処については、こちらを参照しました
初めてハチに刺された人なら通常 1 日以内で症状は治まります。
http://www.hoken.gifu-u.ac.jp/pdf/200907171.pdf【PDF】
追記-2016年10月16日:この部分、初めてハチに刺された場合は重症化しないかのように読まれる可能性があるので、追記します。
ハチ刺されによる短時間での激しいアレルギー症状(アナフィラキシー・ショック)は、1回目でも起こる事があり、死に至るケースもあるので、注意を要します。参照⇒ 蜂毒アレルギーの症状|蜂毒アレルギー|アナフィラキシーってなあに.jp
かゆみはとても強く、一つの盛り上がりが数時間(長くても48時間以内)に跡形もなく消えてしまうのが特徴です(このとき、体のどこかにかゆい盛り上がりがあってもかまいません)。
蕁麻疹|慶應義塾大学病院 KOMPAS
数時間で消える赤い発疹(紅斑)やみみずばれ(膨疹)がみられます。短期間の治療で治る場合もありますが、
http://www.kmu.ac.jp/takii/visit/search/sikkansyousai/d18-018.html

いま示した資料にあるように、そもそも、虫刺されや蕁麻疹は、軽症であれば、数時間から数日で治るものなのです。ですから、イケダハヤトさんが紹介しておられるようなtwitter上の事例は、単に時間が経って治ったものの可能性があります。言い方を換えれば、何もしなくても治ったかも知れない、という訳です。そこに、レメディを与えたという行為を加えたために、レメディを与えたら治ったと考えてしまった、のかも知れません。

雨乞い三た論法というものがあります。これは、

  • 雨乞いをした
  • たまたま雨が降った

という事実から、

  • 雨乞いをしたから雨が降った

と考えてしまう、という心の働きを表したものです(参照:http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~utdpm/poster/2007/ngssanta.pdf【PDF】)。これと同じように、

  • レメディを与えた
  • たまたま症状がおさまった

という経験を、

  • レメディを与えたから症状がおさまった

と考えてしまったという可能性を考える必要がある訳なのです。こういう可能性があるので、薬の効果を確かめる場合には、複数の人を集めて、偽薬と本物を与える集団に分けて評価する、という方法が重要になってきます。それが、前の方で紹介したやり方だったのです。

このように、レメディは効かないと判っています。ホメオパシー側の言い分に寄ったとしても、効くという証拠が無いとは言えます。それであるのに、虫刺されや蕁麻疹に効くかも、と仄めかすのは、良い物を紹介しようという心がけからであるにしても、やはり不用意であるように思います。ムカデや蜂に刺されるというのは毒を受けるのを意味しますし、蕁麻疹の場合には、何らかのアレルギーなどの原因があって、きちんと皮膚科やアレルギー科で治療をおこなう必要があるものの可能性もありますから、まず速やかに、医療機関を受診するのが良いでしょう。プロフェッショナルの医師と看護師による処置・治療と、ケア後のアドバイスも貰えるのですから、効かないと判っている(効くか判らない)物を試すよりも確実ですし、安心も出来るというものです。

参考文献:

代替医療解剖 (新潮文庫)

代替医療解剖 (新潮文庫)

「ニセ医学」に騙されないために   危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!

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