ありえない

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いわゆるニセ科学でも、「ありえない」と一言で切って捨てるのは、科学を知っているように見せかけて科学的でない態度だと思う。まずは検証、できれば実験してみるのが科学的な態度だと思う。

ちょっと誤解してるんですね。誤解が重なっている。

○まず、「いわゆるニセ科学」って所

ニセ科学」とは、科学のようで科学でないもの、という意味だから、それ自体が「ありえない」という意味を含んでいる訳ではありません。科学ではここまで分かってるけど「それ以上」のことを言っている、そういうものを「ニセ科学」と呼んでいますから、ニセ科学って「ありえないこと」じゃなくて、「逸脱している」もの、という感じでしょうね。尤も、逸脱しているだけだと「非科学」。なので、逸脱していてかつ科学的な装いを纏っているものを「ニセ科学」と呼んでいる、と理解してもらえればいいでしょう。

そもそも科学って、常にアップデートの可能性を持った知識です。だから、その立場から、ある現象が厳密に「ありえない」だろうと主張することは出来ないんですね。

○それに関連して、「ありえない」の意味の多義性と解釈のされ方

でも実際、「ニセ科学」の語とセットにして「ありえない」と言う人はいるじゃないか、という声が聞こえてきそうです。それは実際、その通りでしょうね。

その場合、次の二つの可能性を考える必要があります。
1:その発言者が本当に、「文字通りに」ありえないと考えている。別の言い方をすれば、「現象し得ない」と考えている。
2:そもそも、「ありえない」の語に含ませている意味が違う。

1については、そういう人はいるかも知れない、という感じでしょうか。尤も、私は実際に見たことはほぼありません(挙げろと言われてすぐには思いつけないくらいには稀)。上で書いたように、科学は常にアップデートし得るから、文字通りに「ありえない」と主張するのは不可能だから、その発言者は科学を誤解しているのでしょう。

次に2です。言葉遣いとしては確かに、それはニセ科学だ、ありえない、という風な言い回しで批判するのは見かけます。ただその場合は、「ありえない」の語へ持たせている意味がちょっと違うのですね。この場合の「ありえない」とは、
 ・それまで分かってきた、積み重ねられた、自然の振る舞いについての知識(ここでは自然科学に限定)と照らし合わせれば、恐らくそういう現象は起こらないと言っても良かろう・・・・・・
というような意味合いです。これは、何がなんでも、絶対に起こり得ない、という主張とはちょっと違います。詳しく書けば、
 ・科学では厳密にはありえないとは言えないけれど、これまで蓄えられてきた知識では相当のことが分かってきた。その観点からすれば、厳密ではないが「ありえない」と言っても良いだろう・・・・・・
そういう意味です。
たとえば、「ヒトが道具を使わずに150m跳躍した」、なんて主張があったとしましょう。皆さんは、これをどのように見ますか? 「いやそんなのありえないよ」と判断するあるいは発言するのは、「科学的な態度ではない」のでしょうか?
確かに厳密に言えば、「絶対にありえないとは言えない」ものです(ややこしいですね)。かといって、バイオメカニクスの知識からすれば可能性は排除出来ない、といった類のもの「ではない」。その見方だと、言い回しとしては、「ありえない」と表現するのもありでしょう。私見ですが、「ありえない」の語を用いる背景には、「自然科学は”かなりのこと”が分かっている」という部分への理解があるのではないか、と思っています。今は相当のことが分かってきていて、だからこそ応用科学的な、工学や技術の産が私達の周りに溢れ、生活に役立っているのです。科学知を無駄に相対化させないという意図で「ありえない」と表現する場合もあるのでしょう。

「科学的でない」言明にも色々ある訳です。全部が同じように扱われるのではないんです。「水が言葉を解する(そして言葉に応じた結晶を形作る)」、「血液型と性格に強い関連がある」、「コンピュータゲームが脳に回復困難なダメージを与える」・・・といった様々の主張について、「どのくらいありえそうか」が、色々の分野の知識を参照した上で判断されます。血液型性格判断ゲーム脳については「あっても構わない」が、水伝は「到底ないだろう」と判断されるように思います。前者二つは、生理学や心理学の知識に必ずしも相反しないですが、水伝の場合には、それまで積み重ねられたあらゆる科学の知識を引っくり返さなければ成り立たない現象だからです。

もちろん、上でも書いたように、既存の科学の体系から「絶対にありえない」と判断する人というのは、多分存在はするんでしょう。そういう人は遠慮なく批判しましょう。ただし、「ありえない」の語を用いているからといってそれが全部同じ意味合いとは限らないよ、ということも押さえておいた方が良さそうです。

私個人としては、「ありえない」と言うこと自体をあまりしません。仮に言うとしたら、上のような説明をセットで行うでしょう。

○まずは実験・検証するのが科学的な態度・・・

うん、全くその通りです。だから、「言い出しっぺ」に対して、「まずは実験・観察・調査 等の方法を用いてきちんと確かめて下さい」と指摘してあげましょう。「それをしていない」のに恰も事実かのごとく主張すれば、「ニセ科学」と指摘される場合があるよ、ってことです。「それはニセ科学だ」=「それは現象し得ない」ではないのですから。