検定の意義――『伝えるための心理統計: 効果量・信頼区間・検定力』

伝えるための心理統計: 効果量・信頼区間・検定力

伝えるための心理統計: 効果量・信頼区間・検定力

先日コメント欄でYJSZKさんに教えて頂いた本です。書店に寄って、中身を確認してみました。

細かい評価は精読していないのでまたの機会にするとして、書の傾向・性質を考えれば、これぞまさに、私が「求めていた」本だと思います。

統計の勉強をしていて多くの人が悩む所として、
統計的検定の意義、「有意」とはどういう概念か、もし具体的な科学研究において「有意」となった場合に、どこまでの事が言えるのか。また、有意である事が、差の「大きさ」などの、科学において最も関心ある事柄について、一体どれくらいの情報を与えてくれるのか。
これらの事が挙げられると思います。
この種の疑問は、統計の初学者でも充分に気付けるものであり、しかも本質的に重要なものであるにも拘わらず、入門書などで触れているのをあまり見ません。数理統計学の本でも、統計学の数学的な体系を理論的に解説するものが多く、実際への応用に関して詳細な説明を行なっているのは、私はほとんど見た事がありません。
心理統計や医療統計などの気の利いたテキストでは、それらの問題に触れられている場合がありますが、それでも、断片的な言及に留まっています。

本書は、まさにそこの所にクローズアップした構成となっています。それは、副題に「効果量・信頼区間・検定力」とある事からも明らかです。ここで、公式サイトより、目次を紹介しておきましょう。

まえがき

第I部 背景と歴史

第1章 心理統計における新展開:統計改革がはじまった
 1.1 Cohen(1994)
 1.2 心理学における統計改革
 1.3 さまざまな分野における統計改革
 1.4 日本における統計改革
 1.5 統計改革の現状と将来
 1.6 まとめ

第2章 帰無仮説検定:その論理と問題点
 2.1 「有意」の誕生
 2.2 帰無仮説検定の論理
 2.3 帰無仮説検定の問題点
 2.4 帰無仮説検定を擁護する
 2.5 まとめ

第II部 理論と実践

第3章 効果量:効果の大きさを表現する
 3.1 効果量とは
 3.2 d族の効果量
 3.3 r族の効果量
 3.4 効果量の解釈
 3.5 ノンパラメトリックな効果量
 3.6 元の測定単位での効果量
 3.7 効果量を求める(実践編)
 3.8 まとめ

第4章 信頼区間:区間推定と図の力
 4.1 検定と推定
 4.2 母平均の信頼区間
 4.3 頻度の信頼区間
 4.4 相関係数の信頼区間
 4.5 回帰分析の信頼区間
 4.6 効果量の信頼区間
 4.7 図の力
 4.8 まとめ

第5章 検定力:研究の信頼性と経済性を高めるために
 5.1 検定力とは何か?
 5.2 なぜ検定力を分析するか?
 5.3 検定力と標本サイズ
 5.4 高すぎる検定力・低すぎる検定力
 5.5 適切な検定力
 5.6 さまざまな検定力分析
 5.7 まとめ

第6章 さらなる改革に向けて
 6.1 メタ分析
 6.2 ベイズ統計学によるアプローチ
 6.3 prep

付録:R プログラム
 第3章のRプログラム
 第4章のRプログラム
 第5章のRプログラム
 第6章のRプログラム

あとがき
参考文献
索引

コラム
 コラム1:統計的有意性と臨床的意義
 コラム2:Fisher vs. Neyman & Pearson
 コラム3:有意水準ではなく,正確なp値を報告しよう
 コラム4:Stiglerの法則
 コラム5:標準偏差と標準誤差
 コラム6:白衣の天使と円グラフ
 コラム7:マジカルナンバー20±10
 コラム8:Fisherの抱えていた矛盾
伝えるための心理統計 - 株式会社 勁草書房

いかがでしょう。「そこをちゃんと解説して欲しかったんだよ」と感じられる方も多いのではないでしょうか。何しろ、最初に目に入るのがCohenの名です。また、帰無仮説とはそもそも成り立つのか、という所へのテューキーの皮肉めいた発言も紹介されています。コラムのトピックも、とても重要なものが採り上げられており、大変興味を惹きます。効果量、検定力、データ図示の重要さ、統計的に「有意」である事と臨床的な意義(一般的に言えば、「実質科学的」な意義となるでしょうか)との関係、など、統計における大切な概念が押さえられています。
先程書いたように、これらは、初学者でも直観的に気付けるけれど、きちんと解説される事があまり無い(著者自身が、ちゃんと教わらなかった、と書いている)、というものですから、そこに焦点を合わせた本というのは、心理統計のみならず、科学一般に関係する論理に関心を持つ人の参考書として、あるいは統計に関心があり、研究や業務に役立てたい、と考える人々にとって、大変価値のある物と言えるのではないでしょうか。今後、日本における基本文献として位置づけられるのではないか、と予想しますし、本書に触発されて、他にも同様の良書が出てくる事に期待します。