平均有病期間2

前エントリーの続きです。

そもそも甲状腺がんは日本において、広くスクリーニングが行われるような対象では無かったので、正確な有病や発生の程度が解らなかった、というものですね。だから、剖検の結果などから、今考えられているよりもずっと多いのではないか、と推測されてきたと。

それで、ここ数年、福島県で全数検診が企図されて、存在割合が明らかになった。

で、今の文脈ではその他に、これまでの同年代での発生率が出されており、平均有病期間にも着目出来する必要があります。そして、先に書いた理由により、ここで、最も正確な数値というのは、福島における存在割合のはずです。全数調査によって得られた値なのだから。

津田氏は、この存在割合をもとに、

  • 平均有病期間に、自分の見た胃がんの例である 7 年を代入して発生率を推測した
  • それで算出された発生率の数値と、鈴木氏が提出した 100 万人に 1 人なる数値とを比較した

このような評価を行いました。しかし、この設定には問題があるように思われます。まず、有病期間に、胃がんの例を入れている所です。最初に書いたように、甲状腺がんは、それほど多く見つからず、がんの中では命に関わる場合が少なく、死んだ後に見つかる例も結構ある、という性質を持っていて、かつ、(命に関わるようなものでは無いので)頻繁に検診が行われるようなものでは無く、今把握されている数よりずっと多いと思われているのですから、発見されている数発生している数とに乖離がある、と考える必要があります。罹ったらすぐに症状が出る、というような類ならば、発生と発見(発覚)にそれほど違いは無いと見て良いでしょうが、甲状腺がんでその見方をして良いのか、という疑問が出る訳です。

そこを考える必要があるので、鈴木氏の言う 100 万人に 1 人というのを発生率としてはならないと考えます。その数値は、発見もしくは発覚した数であって、発生した数では無いはずなのだから。

このような観点があるので、NATROMさんのご指摘のように、最も正確に判った有病(存在)割合を、胃がんの例から仮定した期間で割るのは妥当では無い、と考えられるのです。実際に、福島の人々の平均有病期間を調べるには、福島の人々を追跡調査して発生率を求める事をおこなって、その上で計算する必要があるでしょう。尤も、リスクである発生率を調べるのが目的で、直接それを確かめたのだから、もう目的は達せられた、と言えますが。

そして、福島と他地域との比較を行うなら、他地域で同じような調査を行う必要があります。存在割合にしても発生率にしても、他地域の全数を調べ、より正確な値を確かめる。もちろんその場合には、全数調査にかかるコストと、見つけなくても良い病気を見つける(過剰診断)虞を考える必要があるので、じゃあ調べれば良い、と軽く言える事ではありません。

ここまでを踏まえて、津田氏の主張を再び見ます。

今回の場合は、検診による早期発見が長引き、通常は病気の状態と認識されない人も病気があるとして検出された可能性があります。潜伏期間と呼ばれる状態で病気と認識されるわけです。従って、この問題を考慮に入れるために、以下の式で表される考え方を利用します。
http://www.kinyobi.co.jp/blog/wp-content/uploads/2013/03/fefc48e1bcaef4b4191bb12c61f176731.pdf【PDF】

解せませんね。なにゆえ、潜伏期間と呼ばれる状態で病気と認識されると言いつつ式を出し、胃がんの例に基づいて代入したのでしょう。潜伏期間を考慮するのならば、有病期間を診断から消退までの期間と考えてはならないとするのが整合的ではないでしょうか。病気があるのに症状が出ていない期間、を考えるのですから、胃がんの発生と症状が出るまでの期間と、甲状腺がんにおけるそれ、とをきちんと評価しないと、代替とはならないように思います。よく検診がおこなわれる胃がんと、症状が出にくく死ぬまで見つからない場合もある甲状腺がん、の有病期間の始まりを、診断によって見つける時として、胃がんのそれを代入すると、甲状腺がんの有病期間を短く見積もり過ぎるでしょう(なにしろ、津田氏自身が、潜伏期間を考慮する、と言っているのですから)。