ある集団を調査対象として設定する事を考える。
その集団において、特定の病気にどのくらい罹りやすいかを考える。
集団に属する人が病気に罹る現象を、発生と表現する。発生は、より一般的な表現だから、医学的な分野に限定すると、罹患や罹病などが考えられる。前の記事で見たように、罹患が、罹る事と罹っている事の両方を指し得るので、発病などを用いる事も検討する。
集団において、時間辺りの発生数、すなわち発生の速さの事を、発生率と表現する。
一般に、発生率の真の値を知る事は不可能。なぜならば、
- 対象集団が ある程度の大きさになると、全てを調べる事が出来ない
- 調べる事が出来ても、見落としの可能性(誤陰性)、間違って病気と看做す可能性(誤診)をゼロにする事が理論的に出来ない
などの理由があるから。
従って、病気に罹っていると評価された数を、発見数や発覚数などとする。生じた数そのものでは無く、知る事の出来た数という意味合いである。そして、それの率を取れば、病気に罹った人が発覚した速さが求まる。
発覚数というのは、
- 検診つまり症状が無い時に検査する事によって判明する場合
- 症状が出てから医療機関を受診して判明する場合
がある。
病気の性質として、
- 罹ってから症状が出るまでの期間
- 症状が出た場合の危険性
などがあり、それらの性質によって、
- どのくらいの頻度で
- どのくらいの範囲に
- どのくらいの年齢層に
検診を行うか、が変わってくる。
より危険と認識される病気であれば、広い範囲にわたって詳しく調べられるだろう。加えて、病気に罹ってから症状が出るまでの期間が短いなどの条件があれば、発覚率は、真の発生率と近づくであろう。従って、より性質の良い、より大規模な検診と追跡調査が行われれば、便宜的に、発覚率をもって発生率と看做す事が出来る。
対して、命を脅かすほどでは無く、罹っても症状が出るまでに時間がかかるような病気であれば、敢えて大規模な検診は行われない。場合によっては、死んでも罹っている事に気づかれないものもあるだろう。そういった場合、統計的に現れるのは、症状が顕れた稀なケースのみになる、という可能性がある。そうすると、発覚率と発生率に乖離が生ずるであろう。
そして、発覚率と発生率に隔たりがあるにも拘らず、用語としては、発生率(罹患率)といった言葉が用いられる可能性が生ずる。すなわち、あくまでも発覚した数という事を認識するべきであるのに、あたかも発生した数であるように扱う危険性を孕む。
であるから、大規模スクリーニングおよび追跡調査、などの方法によって得られた数値のみに発生率(や罹患率)の語を充て、そうで無い場合には、敢えて発見率や発覚率などの語を用いるに留める、などの工夫をおこなう事が肝腎なように思われる。