パズル解き――過剰診断が無く、検診も無効であるのに、検診群の生存割合が高くなる場合

過剰診断(将来、症状や死亡の原因とならない疾患を診断すること)がゼロであっても、「まったく無効ながん検診が生存率を改善させる」現象が起きうる。

NATROMさんが、過剰診断の議論でよく仰る事です。
思うにこれは、ある種の練習問題のようなもの、だと思います。その現象を想定出来るかどうかで、過剰診断という概念を捉えられているかどうかが解る、的な。

それで、結構複雑なものなので、やっぱり解らんなあ、という方もあると思います。
そこで、野暮ではありますが、ちょっとここで、考えてみましょうか。

と言っても、私が書いた、一連の検診関連のエントリーを読んでくださった方は、お解りの事と思います。で、そこで書いた所は前提とします。

話を整理しましょう。NATROMさんの問題を、コンパクトにします。つまり、

  • 過剰診断が無い
  • 検診無効
  • 生存割合高(無検診群に比して)

こうです。まず、

  • 過剰診断発生
  • 検診有効
  • 生存割合高

この3つの現象について、重要な条件を記すと、

過剰診断発生
DPCPが長い
進行が止まる
退縮する
検診有効
DPCPがある程度長い
それによって死亡する
クリティカルポイントがDPCP内に存在する
生存割合高
症例の生存期間が延びる
上のような症例が多い

こんな感じ。そして、上から、否定・否定・肯定、だから。

過剰診断無し
DPCPが短い
進行が止まらない
退縮しない
検診無効
DPCPが短い
それによって死亡する
クリティカルポイントが臨床期にしか存在しない
生存割合高
症例の生存期間が延びる
上のような症例が多い

こうなります。ここで、検診無効∧生存割合高 が成り立つには、

リードタイムが発生する

という条件が必要。何故なら、無検診群より延命効果が長くならない(検診無効)ので、その分をリードタイムで稼ぐしか無いから。

したがって、実際の現象に関わる程度問題を加味しつつ、これらをまとめると、

DPCPが短くて定期検診では拾えないものおよび、DPCPが長くても、それが致命的かつクリティカルポイントがDPCPに無いもの、が多く、さらに、検診によって早期発見が出来るものが多い、という場合

こんな感じになります。つまり、
まず、過剰診断が無いという事は、命に関わらない、ゆっくりと進行するようなものがあってはならない訳です(あったら検診で拾ってしまうから)。また、進行が急激なもの(DPCPが短い)は、あって構いません(検診では拾えないから)。もし、DPCPが長めのがあったとすれば、それは、致命的なもの、つまり、それが原因で死んでしまうもの、で無くてはなりません(発見しても過剰にはならない)。
次に、検診で見つかるような、DPCPが比較的長めのものは、DPCP内にクリティカルポイントがあってはなりません(あったら延命効果をもたらすから)。
そして、検診がおこなわれる集団は、一つ上のような症例が多めに含まれていなければなりません(そうすれば、リードタイムが集積されて生存割合に反映されるから)。

こういう事です。これでも複雑ですか? 頭の体操ですね。

この問題が何を教えてくれるかと言うと、3つの現象は、別のものと捉えられる、という事です。言い方を換えると、これらはそれぞれ矛盾無く成り立つし、依存関係には無いという事。つまり、過剰診断が発生しないなら検診は有効だ、みたいな関係は無い、などです。検診の有効性は、DPCPの長さおよび、クリティカルポイントの数と位置(と、治療法の有無)、に依存し、過剰診断は、DPCPの長さと、それが致命的であるか、という所に関わるのですから。

このエントリーでは、敢えて図表を描いていません。一連の記事で書いたような図を頭の中で展開出来るかどうか、もトレーニングでしょうから。