応用問題──診断と余剰発見

余剰発見の議論等について知っている事が前提です。 福島の検診では、細胞診は確定診断ではありません。手術しないと診断に至りません。 じゃあ、 余剰発見例は必ず過剰処置される と言ったほうが良いでしょうか。だって、余剰発見の必要条件は、確定診断さ…

《過剰診断》を《誤診の意味でのみ》用いるのだとしたら

もし、題のごとく考えるのだとすれば、私は次の質問を投げかけます。 高血圧や精神疾患方面におけるoverdiagnosisはどう捉えるのか overdiagnosisの議論は、何もがん検診に限定された話ではありません。がん検診以外の方面でも、overdiagnosisを誤診の意味で…

高野徹氏による余剰発見(過剰診断)割合の《推計》について──推計になどなっていない

先日、当ブログにおいて、こどもを甲状腺がんの過剰診断から守る医師の会に質問を投げかけました。 ↓質問先の会のtwitter twitter.com ↓質問した記事 interdisciplinary.hateblo.jp そこでおこなった質問を再掲します。 福島での集団甲状腺がん検診において…

『過剰診断(overdiagnosis)の定義と過剰手術(oversurgery)/過剰治療(overtreatment)の用法:病理医と疫学者の見解の差異』についての考察

※先に書いておきますが、1万5千字近くあります 福島における甲状腺がん検診まわりの議論の流れで、2021年に日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌に、過剰診断概念に関する特別寄稿が掲載された。 当該寄稿における主張の概要は次のようなものである。 病理医は過…

《こどもを甲状腺がんの過剰診断から守る医師の会》からの反応

interdisciplinary.hateblo.jp 上記の記事にて言及したこどもを甲状腺がんの過剰診断から守る医師の会から、twitter上でリアクションがありました。内容は次のようです。 1)当会に過剰診断に関する見解を求めている方がおられますが、わたしたちは過剰診断…

再び、《甲状腺がん検診をおこなうべきで無い理由》

もう何度も、題に書いたような事は論じていますが、少しずつ表現を変えたりしながら説明していくのも重要なのだろうと思います。 さて、甲状腺がん検診の話です。これまで言ってきたように、 甲状腺がん検診をおこなうべきで無い理由 は、 甲状腺がん検診の…

《こどもを甲状腺がんの過剰診断から守る医師の会》へ質問

twitter.com こどもたちを甲状腺がんの過剰診断の害から守ることを目的に結成された甲状腺専門医を中心とした医療者の会です。 もし関係者が見たら、次の質問に応えて頂きたいです。 福島での集団甲状腺がん検診において、overdiagnosisはどのくらいの割合で…

同い年

これが若い世代にある傾向なのかは判りませんけれど、20代以下くらいの人たちが同い年と言う場合、それは、いわゆる同学年や同年度生まれを指す事があるようです。もちろん、同学年なら同年度生まれとなる訳ではありませんので、単に同年度を指す、と捉えて…

過剰診断概念の共有が進めば

名取さんが、過剰診断なる語の多義性とそれによる議論の混乱に関する記事を、アップなさいました。 「過剰診断」の定義の違いを認識しよう - NATROMのブログ 議論の大前提である用語の意味の共有が進む事を望みます。その方向性としては、同じ語でも文脈によ…

【メモ】事象とスイッチ

確率のはなし。 起こり得る複数の結果があって、結果を確定できないような実験、すなわち試行を考えます。その結果(アウトカム)を漏れなく集めた集合を全事象と言います。 全事象の要素はその定義から、着目している試行の起こり得るアウトカムです。硬貨…

ブームと交流

昨今、格闘家・武術家系のYouTuberが色々と交流して、ある種のブームになっていますね。改めてブームとは何だ、と問われると難しいですが、武術関連の動画が数十万回も再生され、武術家がテレビに出てワンインチパンチ等のパフォーマンスを披露する、という…

偽発見率?

診断学方面では、陽性者の内で正陽性である割合を、陽性適中割合と言う(他にいくつか表現がある)。これは要するに、陽性と予測して当たった割合なので、当然、その逆である陽性と予測して外した割合もある。 陽性適中割合を略すとPPVだから、予測を外した…

《死亡の保有割合》は成り立つか

小話と言うかネタ的だけど、それなりに真面目な話。 疫学等で、いわゆる有病割合という用語があります。ある時点での人口における、病気を持っている人の割合ですね。何らかの人口(地域に住む成人でも病院の患者でも学校の生徒でも)を対象に計算する割合は…

がん検診や過剰診断議論の見通しを良くするための本を紹介

元首相の5人が欧州委員会に送った書簡をきっかけに、福島における甲状腺がん検診まわりの議論が起こりました。 www.sankei.com この議論、被ばくによって甲状腺がんが多く発生しているのかとか、検診は良い効果をもたらすのかとか、検診によって起こる害はど…

似た語だけど

問題なのは、 抜き打ち では無く、 抜き取り ですね。抜き取り調査は母集団の様子を知るために一部(標本)を採っておこなうものだから、それで競技上の失格を判定するなら、不公正になるに決まっています。

がん検診に関する細野豪志氏の不正確な発言について

衆議院議員の細野豪志氏が、福島における甲状腺がん検診の問題に絡めて、次のような発言をおこないました。 現在、福島以外では(国際的にも)甲状腺検査は推奨させていません。過剰診断、過剰治療によって本来は必要のない手術をする人が出てくる可能性があ…

そこにクリティカルポイントがあるのなら

福島の甲状腺がん検診について。元首相たちの書簡送付の話題をきっかけにして議論が巻き起こっているようです。いや、ああいうのを議論と言って良いのか判りませんけれど。 それはともかくとして。ここでは検診の有効性の話をします。他の論者があまり扱わな…

母数と分母

それを混同してはいけないのは、 現代の専門用語の定義を踏まえれば、同じ語が全く異なる意味を指してしまうから です。だから、百何十年前には母数が分母の意味を表していた、みたいな話とはまた違う訳ですね。その話は数年前に知って、自分の調査不足を痛…

福島での甲状腺がん検診議論の整理

福島における甲状腺がん検診の話。 被ばくによる流行vs過剰診断という図式は成り立たない 流行とは、ある地域において対象の疾病の罹患率が、通常より大きくなる事。過剰診断とは、症状発現しない疾病を発見する事。これらはそもそも文脈の異なる議論で用い…

【書評】『新型コロナとワクチンの「本当のこと」がわかる本~【検証】新型コロナ デマ・陰謀論』を読んで

はじめに 昨年末に彩図社から、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19と表記)にまつわるデマや陰謀論を検証した本が出版されました。 新型コロナとワクチンの「本当のこと」がわかる本~【検証】新型コロナ デマ・陰謀論作者:ASIOS,桑満 おさむ,名取 宏,…

映画『マトリックス』(第1作)を観た当時の感想

『マトリックス』の衝撃的な所? はてな匿名ダイアリー(通称は増田)にこんな記事が上がっていました↓ anond.hatelabo.jp 「この世はほんとうの現実じゃない」なんてアイデアはそれこそ古代ローマのころからあるし、別に目新しいものじゃない。 日常生活に…

【リニューアル】感度特異度シミュレータ改め、検査性能シミュレーター

以前、感度や特異度の数値を入力して各指標を視覚的に把握できるように、シミュレーターを作りました↓ interdisciplinary.hateblo.jp 上の記事で紹介したのは8年以上前に作った当初のもので、それから何回かリニューアルしてきましたが、このたび、大幅なリ…

検査性能の証拠、検査と検診の違い

先日に話題になり当ブログでも採り上げた、線虫によるがん検査の一種であるN-NOSEを開発したHIROTSUバイオサイエンスが、問い合わせに対するFAQを公開していた。 HIROTSUバイオサイエンス | 線虫がん検査に関する世界最先端の線虫行動解析技術 顧客からの問…

線虫がん検査と、がん検査の性能の話

経緯 線虫がん検査(登録商標:N-NOSE)が(悪い意味で)話題になっています。 大まかな流れとしては、 株式会社HIROTSUバイオサイエンスが開発したN-NOSEが精度86%などと謳っていた 上松医師や週刊文春が、N-NOSEの開発プロセスにおいて不正行為があったと…

はてなブロガーから10の答え

blog.hatenablog.com あんたはこういう企画には乗らなそうなのにな、とか思われてそうですけど。たまたま別記事で見かけたので。 はてなブログ10周年特別お題「はてなブロガーに10の質問」 ブログ名もしくはハンドルネームの由来は? idは別のハンドルネーム…

甲状腺がんなどに対する不安を感ずる事と、検診継続の是非

www.asahi.com ※以下、引用文の強調は引用者による 東京電力福島第一原発事故後に甲状腺がんと診断された患者らを支援するNPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」は15日、患者や保護者計105人へのアンケート結果を公表した。がんの再発や妊娠、出産、就職への…

余剰発見と進行

がんが余剰発見されたならば、それは進行が緩徐、あるいは停滞するものである ↑この文は、厳密な意味で正しいでしょうか? 正しくありません。何故ならば、 進行が速く死に至るものであっても、前臨床期に発見され症状発現前に別の原因で死亡すれば、それは…

書評『世論調査の真実』

世論調査の真実 (日経プレミアシリーズ)作者:鈴木 督久日本経済新聞出版Amazon 社会調査のエキスパートである鈴木督久氏が力を入れて執筆した本という話でしたので(鈴木氏のtwitter:鈴木督久 (@pollstok) | Twitter)、読んでみました。 端的に評すると、 …

過剰診断の《程度》

福島の甲状腺検査が相当数の過剰診断を生んでいるのは間違いないだろうし、仮に過剰診断でないとしても、甲状腺癌に早期治療が有効というエビデンスはないので、有害無益な検査なのは間違いないんですよね。受診者に利益があるかのように言って検査を進めた…

大村平さんのはなし

www.jiji.com 数学や品質管理、信頼性工学などに関する普及書を多数執筆なさった大村平さんが、逝去されたそうです。 中学生・高校生の時分、私は数学がとても嫌いでした。典型的な嫌いかたと言いますか、こんな事をやって何になるのだ、と思っていたのです…