円グラフのマジック
この件に関して⇒【速報】 フジテレビが不思議なグラフを作って印象操作、若者叩きを誘導
私は番組を直接観ていないので、こういうグラフが確かに出された、と前提します。
いくつか資料をあたったので、それを紹介しつつちょこっと考えてみます。
まず、一般的に円グラフというのは、あるものの構成比を、扇形の面積に対応させて表す視覚表現なので、番組での表示はおかしいですね。中心が上に偏っています。どう見ても、50代より10-20代の方の面積が過剰に大きい。
で、下の方に陰がありますから、これは3Dグラフと言えると思うのですが、別に、3Dにしたからああいう風に「ズレているように見える」というのでは無く、明らかに中心そのものの位置がズレている、と言えます。ちなみに、同じ風に3D円グラフを作ってみると、こんな感じですか*1。
思うに、中心位置をずらしたのを誤魔化すように陰をつけたのではないか、という気がします。でももちろん、円柱を回転させても、円の中心位置が変わるはずがありません。試しに、思いっきり回転させてみましょうか。
これは余談ですが、3Dグラフはあまり用いない方が良い、という指摘がしばしばなされます。私もそう思います。たとえば、奥村晴彦氏のエントリーをご覧下さい⇒3D円グラフを使うのはやめよう | Okumura's Blog
それから、色分けもポイントのように感じます。10-20代では赤色ですが、その他は全部青系です。赤が注意喚起を促す時にしばしば用いられるのは周知の所でしょうが、その事がインパクトを与えているというようにも見えます。作成者からすれば、「一番多い」から強調した、という事かも知れませんが、実数の差はたったの3人です。
ところで、グラフのタイトルを「警察職員懲戒処分者年代構成比」としていますが、これは、平成23年中の懲戒処分者数について(PDF)を参照しました。この資料では、懲戒処分者数は367人となっていますが、番組のグラフでは347人です。これは多分、監督責任20人を除いた数でしょう。こちらの産経記事にもあります⇒昨年の懲戒処分は367人 高止まり傾向 警察庁まとめ+(1/2ページ) - MSN産経ニュース 恐らく、番組内では説明があったのだろうと思います。
最初に書いたように、円グラフというのは、ある全体の構成比を示すものです。ですからこの場合には、各年代の扇形は、監督責任を除いた347人を全体として、それぞれの割合に従って配分されています。
ここで重要なのは、「全体」が「懲戒処分者の数」であるという所。その内で、10-20代の数が一番多かったのでそれが問題である、と番組は主張している訳ですよね? それはあのグラフの描き方からも明らかだと思います。
でも、そこには問題があります。つまり、考慮しなければならない次のような点がある。
- 10代と20代を合計している。
- 10代と20代を合わせた数は、50代の数と3人しか違わない。
- 「懲戒処分者の数」を全体として割合を調べるだけでは意味が無い。
要するに、これだと、「警察職員全体*2の内懲戒処分を受けた者を全体とした」それぞれの年代の割合な訳です。だから、その内で、ある年代の割合が一番大きいからといって、その年代が「問題を起こしやすい」とは必ずしも言えない、となります。つまり、「それぞれの年代の全体の数」が判らないと、ちゃんと比較が出来ないという訳です。年代ごとの「分母*3」が重要という事。
たとえば、20代で150人、50代では100人だった、という場合を考えます。ぱっと見たら、「20代の方が50人も多いのか」となりそうですが、極端な話、もし20代全体の数が、50代全体の数の2倍の人数だったとすれば、解釈は変わってきます。この場合、20代と50代を合わせたものを全体と考えると、20代の割合は3/5、50代は2/5となって、確かに20代の方が大きい。しかし、そもそも20代の人と50代の人との全体の数は同じなのか、と考える必要があるという事です。
番組のグラフでは、10代と20代とを合わせています。という事は、分母の違いは一応考えているのかな、と思われます。10代は10-19歳まで、ではありませんから、必然的に全体の数は他の年代に較べて著しく小さくなると言えます。だから合わせて、50代の分母に揃えたのか?と推測は出来ます。私は番組を観ていないので、そこの所がどう説明されたか(あるいは説明されなかったか)は判りません。
しかし、仮にそう考慮されていたとしても、やはり疑問が出ます。と言うのは、そもそも、警察職員というのは、全体で数十万人いる訳です。ここに、警察白書の資料があります⇒第2節 警察活動の支え
これを見ると、平成23年度の警察職員は大体29万人です。という事は、年代で分ければ、単純に考えて、それぞれの層で数万人が分母になると言えます。それを考慮すれば、年代ごとに分母がきっちり揃うのは考えにくい。そして、懲戒処分者数を見れば、各年代ごとに100人弱です。だから、割合にすれば、それぞれ 100/数万 程度にしかならない。にも拘わらず、10代と20代を合わせグラフを描き、実数*4にしてたった3人の違いに着目して強調している訳です。果たしてこのような操作と報道が妥当か、と考えれば、ちょっと疑問に思わざるを得ません。
ちなみに、警察白書を調べましたが、警察職員の年代別の構成は、数十年前のもの以外が見当たりませんでした。それがあれば、もっとはっきりとものが言えると思います。
さて、次にはこれをご覧下さい⇒FNNニュース: 2011年に懲戒処分...
これもFNNの報道です。ここでは、全体が367人とされています*5。そして、いかにも警察の不祥事が高い率で起こっている、というように主張しています。
実際、
過去10年間を見ても、依然として、高いままの水準となっている。
と言っています(引用部はリンク先のテキストより)。ここで、「高い水準」とある訳ですね。これは、何をもって高いといえるのでしょう。映像を見ても、他の集団との割合や率の比較は無いようです。そして、「件数」しか見ていない。先ほど分母の話をしましたが、全警察職員は数十万人規模なのですから、数十人から数百人の変動がどれほど意味があるのか、というのは、これだけでは解りません。
このように細かく見ていくと、色々と安易な報道をしているな、と感じます。特に最初に触れたグラフは、ちょっと好意的に解釈しようが無いのではないでしょうか。