ゲームと歩数
2012/02/13追記:町田さんが参考になる記事を上げておられるのでご紹介⇒小学生の歩数を探して - 火薬と鋼
あまり纏めないまま、メモ的に書きます。
歩かない小学生、歩数3割減…ゲーム機の影響? : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
はてなブックマークやtwitterなどで相当批判されている。いわゆるまとめサイトが採り上げているのも関係しているだろう。
↓私が考える、この記事の問題点を列挙
- 特に詳しく分析していないのに、「ゲーム機の影響?」とわざわざ書いている。
- ”専門家は「ゲーム機などの影響で”とあり、「などの」と言っている。それがタイトルでは省略されている。
- 今回が「初の大規模な歩数調査」なのに、「1979年には1万7120歩という大学の研究」と比較している。下に紹介があるが、その研究は、「1979年に都内の公立小学校4年生計18人に実施」だそう。数千人を調べた結果と十数人の結果とをそのまま比較するのは無理がある*1。
- 過去の研究結果からの推定に触れられているが、「1980年代の小学生は、」とあって、これは全国平均だろう(資料見つけ出せず)。広い空間における平均値を問題にする場合、地域差と時間経過による変化を考える必要がある。
別にゲームを悪者にしてる訳じゃ無いだろ、と言って過剰反応を戒める向きもある。一理ある。が、敢えてゲームという部分を強調し、わざわざタイトルでも強調(誰がタイトルをつけたとしても)するのは不用意とは言えるだろう。また、マスメディアはしばしばゲームに様々な問題行動の原因を見るような記事を発表するので、警戒はしておいて良い*2。
観点として、次のようなものがある。
- 何故それでゲームが原因と推測出来るのか。何故そこを強調するのか。
- 仮にゲームが原因(の一つ)だとして、「歩数」が減る事にいかなる問題があるのか。それはどれほど深刻であるのか無いのか。
一つ目。歩数が減るというのは、いわゆる「外で遊びまわる」というような運動の機会が少なくなっているというのを表していると考える事が出来る。
では、そのような変化を及ぼしそうな要因として何が考えられるか。理論的には、交通機関の発展や、自由に遊び回れる空間の減少、いわゆる「勉強」の時間の増大*3などが考えられるだろう。もちろん、娯楽の主流の変化も要因として重要。家でわいわいやるような遊びが増えれば、相対的には歩数が減る可能性はある。その意味で、コンピュータゲームも重要な原因の一つとして見る事自体は特におかしなものでは無い。
理論的な考察としては、昔ポピュラーであった遊びの際の歩数と、現在主流であるものとを比較し、その結果から探る、という見方もあるだろう。たとえば、サッカーや野球や鬼ごっこなどの遊び時の歩数と、DSや3DSで遊んでいる時の歩数を計る、などのやり方が考えられる。もちろん、参加する人数や、使う場所にも依存するだろう。
(ニつ目)ところで、ものを「はかる」場合、「はかり方」を意識する必要がある。歩数計はどれくらい性能が良いのか、とか、歩数計を装着する時間の長さや時間帯は揃っているか、など。それが異なれば、容易に結果の違いが大きくなり得るだろう。
そもそも、「歩数」なる概念が一体何を示す尺度となるのか、という見方もある。それが高い/低い 事が、果たしてどのような問題となるのか。たとえば、明確な健康上のリスクと関連するのかどうか。それをきちんと評価しておかねば、歩数を何かの物差しとして役立てる事は出来ないだろう。これは、何が原因か、という観点とは別のものである。
次に、当該調査の資料から、興味深いと私が思う情報を列挙
「統一体力テスト及び広域歩数調査」結果|東京都 ※以下列挙部分の鉤括弧内は引用。
- 「成人の平均歩数は、男性約 7,200 歩、女性約 6,400 歩」との事である(平成 21年国民健康・栄養調査報告)。
- 平均値は示されているが、概要では、層ごとの詳しい分布は把握出来ない(探しだせなかったので、もしご存知でしたら教えて頂ければ)。
- 「小・中学校では、各学年で 20,000 歩を超える児童・生徒がいる一方で、分布のピークは平均値を下回っている。」とある事から、分布が左側に偏っている(右に裾を引いている)と思われる。
- これは、「休日の平均歩数は、 小4男子で98,765歩と最大値を示す児童がいるなど、個人差が大きい。」という事からも判る。相加平均が10,000程度なのに、10万歩近い歩数の個体がいるのは、相当に分布が歪んでいる(左右対称的で無い)事を思わせる。分母が大きければ、外れ値が数個あっても平均値に及ぼす影響はさほどでも無いかも知れないが、分母が小さい場合に注意を要するし、そのような分布の場合、他の代表値を見たり、分布全体を検討するのも考えておくべき。
- 上のような話に関連して、「運動する者としない者の二極化傾向」とある。普通、二極化といえば、分布のグラフを描いた時、ピークの所、つまり峰が2つある事を指す。もしそうなのであれば、大きく離れた所にピークがあるという意味である。だが、たとえば90,000歩レベルの個体が数例程度しか無いのであれば、それは二極化とは言えないだろう。はっきりしないので、詳細なデータの検討が重要。
- ちゃんと習い事の頻度の調査結果も明記してある。
- 男子で、運動やスポーツをする場所が「公園・広場」が多いという事である。場合によってはこれは、遊ぶ場所が制限されているのを示唆すると考えられるから、同じ事を調べた過去の(数十年前の)情報との比較が重要だろう。
- 小・中学生では「小・中学校では、体力テストの総合評価(ABCDE)がA段階の児童・生徒は、E段階の児童・生徒より平均歩数が多かった。」という。これは一応、歩数と体力テストの点数とに正の関連があるのを意味する。ただ、それが詳しくどのように関係しているのかは具体的に検討する必要がある。また、体力テストの結果が実際にどのような意味合いを持つのか、とういのも慎重に考えるべきだろう。これは広く体育学や公衆衛生の問題とも関わってくる。
90,000歩以上を示す児童がいるというのは興味深い。先に、1979年に行われた研究の話が出たが、そこでの分母は18である。一方、歩数というのはそもそも桁が大きい。数千から数万である。仮に、90,000歩レベルの人が一人いたとすれば、それが外れ値となって、簡単に平均値を数千程度左右する。算術平均値が外れ値に頑健で無いのは知られた所だ。そういう事も鑑みて、どのような分布であるかを確かめる意義は大きい。また、分布の「散らばり」を表す指標(散布度)を示すのも重要だろう。
本調査は、東京都で行われたものなので、母集団は、東京都の児童・生徒、である。であるから、もし地域差が存在するとすれば、シンプルに、ある地域での平均と全国平均とを比較するのには注意を要する。もちろん、地域差が大きいか否かも、きちんと調べなくては解らない事である。ただ、理論的考察はもちろん可能。交通機関がいつからどのくらい発展したかとか、開発がどのようになされてきたか、などを検討する意義はあるだろう。
「(算術)平均」というのは、よくも悪くも、全体を均して出てきた数値である。大変役に立つものではあるけれども、使い所や使い方には気をつけるのが肝要。
いずれにしても、各研究を詳細に検討し、指標が何を意味するかを慎重に考えた上で丁寧に論じ、発信する必要がある。その意味では、読売の記事は実に雑なものであると言って良いだろう。