平野美紀氏による主張、の分解と検討

平野美紀氏のつぶやき

ホメオパシーを支持する人は「科学的根拠がある」と言ってるんじゃなく、目的が「治癒すること」だからであって、科学的根拠のあるとされる治療でも治らなかったりするから、試してるわけでしょう。科学的根拠があろうがなかろうが関係ない、病気を治すことが目的。という根本的なお話。
http://twitter.com/mikihirano/status/246781836120952832

ここで平野美紀氏は、一つのつぶやきの中で、複数の主張を書いている。それを分解してリスト化してみる。当然、それぞれの主張を関連させて一つの意見として発信している訳であるけれど、敢えてそこを分ける事で、各部分が事実と照らしてどうか、と検討出来る。

  1. ホメオパシーを支持する人は「科学的根拠がある」と言っているのではない。
  2. オメオパシーを支持する人は、「治癒すること」を目的としている。
  3. ホメオパシーを利用するのは、科学的根拠のあるとされる治療でも治らなかったりするからである。
  4. 「治癒すること」という目的が叶うのならば、そこに科学的根拠があろうがなかろうが関係ない。

平野氏の主張は、このように分解出来るだろう。次に、それぞれについて検討する。

1.ホメオパシーを支持する人は「科学的根拠がある」と言っているのではない

人による。
ホメオパシーを「支持する人」という言葉が漠然としている。色々な説や理論があるとして、それを一口に支持する人と言っても、

  • 主唱者
  • 主唱者に心酔する者
  • 関連の著作を読む等する積極的なユーザー
  • テレビや雑誌等で知って、取り敢えずやってみた、のようなライトユーザー
  • 口コミで知って試している者

等に区別出来るだろう。ホメオパシーの場合、ハーネマンを主唱者と言う事も出来るだろうし、独自の論を展開している現代の著名な人々がその役割を担っている、とも解釈出来るだろう。
一般に支持するとは、対象を信用している、好ましく思う、共感する、等が合わさったような概念だと考えられるが、そのような、「支持する」という認識に至る経緯や、支持する強さというものは、対象についてどのくらい知識を持っているか、とか、情報を得た源をどのくらい信用していたか、とか、使ってみてどう「効きを実感したか」等によって違ってくるだろう。それは、上記でリストにしたような「層」の中でも、色々に分布していると思われる。
このような層のどの辺りをもって平野氏は「支持する人」と表現しているのだろうか。もしかすると、それら全体を「ひっくるめて」言っているのだろうか。もしそうだとするならば、ホメオパシーを「支持する」あらゆる層において、平野氏が言うホメオパシーを支持する人は「科学的根拠がある」と言ってるのではないという傾向が見出されなければ、説得力は無いだろう。
ここで資料を提出する。
ホメオパシーは科学(的)だ・・・と言っている - Interdisciplinary
これは、ホメオパシーを普及する団体のWEBサイトにおいて、ホメオパシーが「科学」である事を主張している文章が掲載されているのを集めて紹介した拙エントリーである。そこでは、ホメオパシージャパン株式会社、日本ホメオパシー医学協会、日本ホメオパシー振興会、日本ホメオパシー医学会、といった、ホメオパシーの方面で著名と思われる団体のWEBサイトを調べた。見て頂ければ解ると思うが、各団体は明確に、ホメオパシーは科学だと言っている*1。あるものが科学であると言っているという事は、そこに、「科学と表現出来る根拠がある」のを意味する。
これらを踏まえるならば、平野氏の、ホメオパシーを支持する人は「科学的根拠がある」と言ってるのではない。という主張は誤っていると言える。ホメオパシーというやり方を普及・推奨する団体が明確に科学を謳っている(た)事実は大きい。
ところで、この節では最初に、「人による」と書いた。これは別に、考え方は十人十色だ、等という事を言いたいのでは無い。上で、支持する者の層とでも言えるものを示したが、たとえば、雑誌で有名人が薦めていたのを見て試し、それが劇的に効いたと実感*2された場合、「ホメオパシーて効くんだ!」といった認識が形成される事があるだろう。そして、そのような経験が幾度か続けば、好意的な認識は強化されよう。この時使用者は、ホメオパシーを「支持する」人であると表現出来る。
そのような人は、必ずしも、使用した方法の深い部分に興味を持つとは限らない、特定の操作(ここでは、レメディを飲む、等)がはっきりしているのならば、それを支えると主張される理論等にわざわざ興味は持たないものである。我々が市販の薬を服用する時にも、必ずしもそれの成分や薬理学的メカニズム、あるいは臨床試験のデータに興味を持たない、というのと同じである。
という事で、確かにそのような所を考慮すれば、ホメオパシーを「支持」する人で、特に科学的根拠に興味が無い、という人も多くいるだろう。しかしそれは、そういう人もいる、という事であって、一般的な傾向であるのが示されている訳でも無い。実際、ホメオパシーを与える側、つまり、ホメオパシーの方法を普及したり推奨したりする人――理論ぽいものを書いた本を出す人、ホメオパス――等には、実際に「科学」を強く意識し、更にはホメオパシーが科学であると主張する者もいるのであるから、これが反例と考える事が出来る。

2.ホメオパシーを支持する人は、「治癒すること」を目的としている

これは恐らくそうである、と言えるだろう。何故ならば、ホメオパシーというのは療法を標榜しているものであるから、その一般的な目的の一つに治癒する事があるのは当然だからである。少なくとも、善意でホメオパシーを積極的に利用する人については、病気を治癒させる、という合目的性を認めている、と看做して良いと思われる。これは、いずれの層についても共通している部分だろう。

3.ホメオパシーを利用するのは、科学的根拠のあるとされる治療でも治らなかったりするからである

これは、あくまで推測としては、そのような経緯でホメオパシーに向かう人は多いのではないか、と私も考える。と言うのは、通常、医学医療の発展した社会にいればまず、確立された医療システムと、多くある医療機関に世話になる場合が普通であって、初めからホメオパシーのような、現代において代替的な方法に馴染む人というのは、極めて稀だと推論出来るからである。
たとえば、日本に住むほとんどの人は、何か病気になったり怪我をしたりすると、まずは、いわゆる医学に基づいたシステムの世話になる訳だから(だから「標準」医療と言われる)、そこから敢えて代替的方法のホメオパシーに行く、という事の動機を想像するならば、それは、標準的な医療によって何らかのトラブルに見舞われたからであろう、と見当をつけるのは、特に的外れな考えでは無いと思われる。わざわざ代替のものに縋るのは、標準のものを見限ったり絶望したりするから、が大きな理由の一つなのだろう。

4.「治癒すること」という目的が叶うのならば、そこに科学的根拠があろうがなかろうが関係ない

これも「人による」。あるいは、「層による」と言えるかも知れない。
一番目の所でも書いたが、主唱者やその近しい所にいる人(これを取り敢えず「コア」と表現する)の周辺、つまり、比較的ライトなユーザーであれば、何故効くのか、といった所に興味を持たなくてもおかしくは無い。しかし、先に示したように、ホメオパシーを普及させる人々、先ほど書いたコアの人々は、ホメオパシーが科学であると強くアピールしている。従って、その層の人達にとっては、ホメオパシーに「科学的根拠があるか」どうかは、全く最重要の部分なのである。

ここまでを踏まえて

以上見てきたように、ホメオパシーを支持する人、と一口に言っても、そこには色々な層が仮定され、支持の仕方にもバリエーションがあるのだから、それらを一緒くたにして傾向を論ずるのは、大変荒い意見に思える。特に、ホメオパシー団体を主催する者等の「コア」の人々の主張を無視して、「支持」する人一般について云々は出来ないはずである。その人達は、ハーネマンの説や思想に心酔し、時には独自の理論や解釈を加え、ホメオパシーを科学たらしめんとしているのだから。

別解釈可能性1――「支持する人」

「支持する人」を、先に示した層の内、「コアの周辺の人」と同義と捉えるならば、その傾向についての言及としては、それなりに整合的に解釈する事は出来る。要するに、科学的根拠のあるとされる治療でも治らなかったりするから、試してるわけでしょう。という文によって、「層を限定している」、つまり、「科学的根拠のあるとされる治療でも治らなかったり」してホメオパシーに行った人々を指して「支持する人」と表現している、と好意的に解釈出来なくも無い、という事である。だとしても、言葉の使い方が不用意である、と私は考える。

別解釈可能性2――「科学的根拠」

「科学的根拠」を、「メカニズム」と解釈し直せば、科学的根拠があろうがなかろうが関係ない、病気を治すことが目的。という文を切り出せば、まあ確かにそうだ、とはなる。ただ、これも相当好意的解釈ではある。科学的根拠とメカニズムをほとんど同義に使う例もあるな、と思い出して、こうも解釈出来るか、となる程度のもの。実際、療法の効果を検討する際の最重要の概念であるEBMと、それに関連する文脈で出てくる「エビデンス」の語を押さえていれば、科学的根拠をメカニズムの意で使うような危うい真似は出来ないと思う。「根拠」に特別な意味合いを持たせるからだ。

*1:ホメオパシージャパンのサイトの文は、リンク切れ、もしくは文が削除

*2:あくまで実感であって、実際は――ホメオパシーについての効果研究を踏まえるならば――時間経過等の他の要因の効果によって変化がもたらされたと言える