「科学」と「科学」
科学という語が、ある方法や制度と、その方法によって得られた知見の、2通りの意味を持つ場合がある、というのは、押さえておいて良い所だと思います。案外に、この辺りが踏まえられていなくて、議論が噛み合わない場合もあります。
これは、料理という言葉にも似ている所があるのかも知れません。つまり、料理なる語は、
- 食材に色々な操作(切る・焼く・煮る・蒸す、味をつける、等々)を加える纏まった工程
- その工程によって作り上げられた物
このように、複数の意味を持ちます。上の方は調理とも表現されますね。
同じく科学も、料理に対応させ、内容を少し詳しく書くと、
- 色々の現象(自然・文化・社会に関わる)についての仕組みや因果関係を確かめるための諸方法及び、それが適切に行われているかを評価する社会的制度を含めた総体
- その方法と制度によって蓄積されてきた知見
このように表現出来るでしょう。前者は、観察や調査や実験、現象を数学で表現する、といった方法と、それが適切な手続きによっておこなわれているかを評価する、査読や追試といった制度。後者は、それによって得られた知識・知見の事です。物体を落とすと何秒後にはどの位置にあるかを計算する式であったり、この薬はあの病気にこのくらい効く、といったようなものですね。科学と言った場合、その両者を指し得る。
ですから、それは科学では無いと言う時には、
- そのやり方は科学では無い
- その知識は科学では無い
この(おおまかには)2通りの意味を持ち得る、という訳なのです。
これらの事については、以前作った電子書籍で、もっと具体的に、詳しく書いてみています。
どんな議論でもそうですが、議論している対象なり言葉について、参加しているそれぞれが異なった意味で用いていたりすると、先に進みようが無いので、時には立ち止まって、自分はこの言葉をどのような意味で捉えているだろう、相手はどういう風に使っているのだろう、と考えてみるのも肝要ではないかと思います。