適切に選ばれていない患者の傾向からは、そして、後から検診の有無で分けた集団を比較するのでは、検診の効果を検討出来ない

あらまし

mainichi.jp

この記事の要点を箇条書きします。

  • NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金が療養費を給付した甲状腺がん患者、の傾向を検討した
  • 患者の内訳は、114人(福島県内84人、県外30人)であった。
  • アイソトープ治療を受けた患者の人数と割合は、福島県内2人(2%)に対し、県外11人(37%)であった
  • この結果から、同基金は、福島周辺でおこなわれている甲状腺がん検診が、早期発見につながり、重症化を抑えていると考えている。

このようです。端的に言って、最後の主張、つまり、福島における甲状腺がん検診は、早期発見に繋がり重症化を抑えているというのは、誤っています。この資料からは、それを導く事は出来ません。

標本抽出・代表性

まず、患者の集まりかたを考えます。

記事にある、114人(福島県内84人、県外30人)とは、NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金療養費を給付したという人びとです。その時点で、そもそも、検診を受けた人とそうで無い人の全体から、その全体の性質を上手く反映しているよう(これを代表性などと言います)な集団を採りだしてきたものである、と看做せません。ですから、その一部の人びとが持つ性質から、より広い集団に一般化して考える事自体が出来ません。

レングスバイアス

次に、もし、調べた集団が、それが含まれる全体の性質を反映している(代表性がある)、あるいは、全体を調べる事が出来た、と仮定します。そして、ある病気に罹った人について、検診を受けた人検診を受けなかった人とを比較する事を考えます。その結果、検診を受けた集団において、重症である程度や、死亡した人の割合が小さかった、とします。その場合、検診に効果があったと言えるでしょうか。
……言えません。

がんなどの病気は、たちの悪いものは急激に進行し、そうで無いものはゆるやかに進行する、という傾向があります。検診は一般に、少なくとも数ヶ月おきや年単位の間隔を空けておこないますので、進行のゆるやかであるものほど見つかりやすくなる可能性を持ちます。そうした場合、検診して早く見つける事自体が効果を持たなくても、そもそも検診で見つけた患者のほうが経過が良い傾向を持つ、という場合があるのです。
これは、病気が発見可能になってから症状が出るまでの期間が、検診による見つかりやすさに影響し、それが、検診の効果を見かけ上ゆがませる、のを意味します。そのような偏りを、レングスバイアスと呼びます。

ですので、検診を受けた人検診を受けなかった人を後から比較しても、正確な評価は出来ません。
今回の場合は、甲状腺がん検診の話で、そもそも検診が推奨されていません。しかし、福島県では極めて多くの人が甲状腺がん検診を受けました。また、記事には、一方、県外の場合、自覚症状が表れるなどがんが進行してから治療を受けるケースが多く、とあります。この事から、そもそも福島県とそれ以外の患者とで、検診で見つかった人の割合が大きく異る可能性があります。まずここが明らかにされねばなりません。

これらの理由から、同基金の資料では、福島県甲状腺がん検診が重症化を抑えている、などと評価する事は出来ません。