致死割合の分類と整理
病気での死にやすさを示す指標である致死(致命)割合ですが(死亡割合とは別)、それ自体にもいくつか種類があるので、きちんと分けて把握しておきましょう。
まず、分子は、対象の疾病によって死亡した人を数えます。
次に分母。理論的に、次の区別が出来ます。
- 疾病に罹っている人(感染症の場合、病原体を保持する者)を数える
- 疾病に罹っている事が把握された者を数える
- 疾病に罹っていて、それによる症状が発現している者を数える
この内の一番上は、理論的にはあるが、疾病によっては把握が著しく困難になる量です(流行期にある感染症などは難しいでしょう)。2番目は、何らかの検査によって、確定診断を受けた人です。そして最後は、確定診断を受け、それによる症状が出ている人を数えたもの。前臨床期(病気に罹っているが症状は出ていない)に発見可能なものであれば、2番目と3番目を分ける意味があります。
もちろん厳密な事を言えば、確定診断が誤っている(誤診)とか、出ている症状は実は別の疾病が原因である、といった事も想定は出来ますが、そこまで考えると話が進みませんので、そこは措きましょう。そうすると、これらの関係は、上が下を包むものであると言えます(理論的には、全てが一致しても構わないが、実際的にはそうならない)。
分子は同じなので、上のそれぞれを分母とした割合を考えると、当然、上の割合は下の割合以下になります。
で、疫学的には、これら割合が、別概念として定義されていますので、それを見ていきましょう。
その前に、まず一般的な致死割合は、Case Fatality Risk:CFRと言います。Rは文献によって、ratioやrateと表記されますが、いま着目しているのは割合の指標なので(疫学的に、比と割合と率は全部異なります)、riskとするのが妥当でしょう(リスクは累積発生割合を指すから)。尤も、ほんとうを言えば、Case Fatality Proportionが適切でしょうが、ひとまずここでは、riskにしておきます。
と、それを踏まえて、それぞれの割合は、
- Infection Fatality Risk:IFR
- 感染者致死割合
- confirmed Case Fatality Risk:cCFR
- 確定症例致死割合
- symptomatic Case Fatality Risk:sCFR
- 有症状例致死割合
英語でこのような用語があります。※日本語の文献では標準的な訳語が見当たらないので、暫定的に表現してあります
先にも言ったように、感染症では、流行期に感染者(病原体保持者)全体(に近い量)を把握する事は困難ですので、何らかの発表なり報道なりで致死割合と単に表現されていた場合(日本語では致死率の語で割合が説明される場合も多いですが、厳密には誤り)、それがどのように算出された量であるか、をきちんと把握するのが肝腎です。そうしないで低い高いと言っても、実は噛み合っていない場合もありますので。言及されているのはsCFRかも知れませんし、実はIFRを数理的に推定した量なのかも知れません。
もちろん、感染症の公衆衛生的インパクトというのは、致死割合(上のいずれでも)だけで決まるものではありませんので、そこはしっかり押さえておかなくてはなりませんが、それ以前に、まず出されている指標はどれか、を意識しておきましょう。
致死率や感染力(あるいは罹患力)の双方が関わって死亡率に影響する。結果、一定期間の致死割合や死亡割合の指標として観察される訳です。そして、それらの評価や予測をおこなうのが、感染症疫学の方法なのでしょう。
参考資料:
【PDF】https://sci-tech.ksc.kwansei.ac.jp/d_math/rims/pdf/abstracts.pdf
疫学の文献は色々読んでいて、致死割合の区別を概念的に把握してはいても、ここで紹介したような用語として定義されている事は、最近勉強するまでは押さえていませんでした。同じ疫学に含まれる分野でも、その中での専門性が違うと、重視される概念が変わり、定義される用語も異なってくる訳ですね。そこを掴まずに意見を言うのは危ないな、と改めて認識した次第です。