《血液クレンジング》のはなし――代替療法の検討のしかた

最近twitter上で話題になった、血液クレンジングについて。

BuzzFeedが名取宏さんに取材した記事が、掲載されています。

芸能人が拡散する「血液クレンジング」に批判殺到 「ニセ医学」「誇大宣伝」指摘も

ここで重要な点を列挙します。

  • 機序的に効く訳が無いと言わない
  • いくつかの疾病については臨床研究が存在する
  • 今判明されているよりも大げさに、害のリスクを言わない

これらです。

まず、機序的に効く訳が無いと言わないとは、既知の生理・生化学的な構造・機能から効く機序が導けないとしても、それだけで効かないと判断は出来ない、という医学の方法的前提に基づいています。何故なら、ある身体への操作が、何らかの未知の機序でもって、体調改善や疾病治癒という帰結をもたらす事は、常に想定され得るからです。したがって医学的に効かないと言えるためには、

効果を確かめる、良くデザインされた臨床研究をおこない、医学的実質的に意味のある変化をもたらさない事が、再現性をもって明らかになる

事が必要です(具体的方法は、メタアナリシスなど)。それまでは、判断を保留しておくのが、科学的・医学的態度というものです。

踏まえると、批判の方向は、効く訳が無い事をするなでは無く、効く事が確かめられていないものを、効果を謳っておこなうな、とすべきです。まわりくどい、あるいは慎重過ぎると思われるかも知れませんが、ここまでしか言及出来ないのが、方法的限界です。

次に、いくつかの疾病については臨床研究が存在する点。実際、PubMedなどを調べると、いくつかの疾病については臨床研究がおこなわれており、効果を示唆するものもあります。そこは、事実として押さえておくべきです。
ただし、気をつけなければならないのは、それら研究は、証拠としては不充分で(そこには、結果の再現性効果の大きさが関わります)ある事と、研究されているのは、特定の疾病に罹患している人を対象にしたものである、という所です。これは、比較的健康な人への体調改善効果、などとは全然異なる文脈です。このあたり、以前話題になった、水素水の話と似ています。水素水も、いくつかの疾病に対する臨床研究が存在しますが、証拠は充分とは言えません。また、市販され出回った訳で、そこには、特に健康上の重大な問題が無い人が摂取した場合、という問題が絡んでいました。

次は、今判明されているよりも大げさに、害のリスクを言わないという事です。血液クレンジングについては、当該療法(と称する何か)に伴う侵襲・操作(針を指し、血液に操作をおこなう)を鑑み、感染症リスク発生や高さを指摘する意見があります。もちろんそれは重要な事ですが、しかし、気をつけなければならないのは、実際どのように害が発生しているかの検討です。
今判明している害の報告が少ないのであれば、それ自体は、事実として押さえておきます。その上で、

  • 少な目に報告されるバイアスがかかっていないか
  • 実施数が少ないため、それなりのリスク(発生率)があっても、顕在化された数が少ないのではないか
  • 気軽に実施するクリニックが増えてくれば、リスクそのものを上昇させる可能性があるのではないか(管理体制の問題)

これらに気をつけておくべきです。

最後に、記事中にある、当該療法(と称する何か)を実施・普及する当事者の意見を見てみます。

一方、血液クレンジングを推進する日本酸化療法医学会の渡井健男会長は、BuzzFeedの取材に対して「年間7万人以上受けているが、この10年間、副作用の報告もない安全な治療。(科学的な根拠を示す)臨床試験は費用がかかるし、世間の『オゾンは危険』という思いこみがあるからできないだけだ」と回答した。

これは、医療者として、とても問題のある姿勢でしょう。まず、、この10年間、副作用の報告もないという部分ですが、報告が無いは、発生していないのを意味しません。どのくらい調べているか、報告を促しているか、という観点がまずがあり、有害なイベントは過小報告されるバイアスを考慮する必要があるでしょう。また、上にも書いたように、更に普及すれば、管理体制の問題も出てくるでしょう。小さな有害作用は敢えて報告しない、という事もあるやも知れませんが、害は効果と比較して検討すべきなのであって、そもそも効果が認められていないのに、小さいながらも害が発生する、というような操作を正当化出来るか、との問題が出てきます。

この後の、(科学的な根拠を示す)臨床試験は費用がかかるし、という主張は論外です。まず、この内容から、きちんと臨床試験がなされていない事が導けます(しているのなら、していると言えば良いのだから)。よって、効果は認められていないと評価出来ます。にも関わらず、効果を謳って実施するのは、大きな問題があります。効果を謳っているのかって? 謳っています。

以下、渡井健男氏のクリニックのサイト( 血液クレンジング | 東海渡井クリニック )からの引用です(強調は引用者)。

実は、血液クレンジング (オゾン療法) は、エイジングの効果ももちろんの事、保険診療の治療では改善しない更年期等の症状や冷え性、肩こり、頭痛、腰痛等に大きな効果が期待できる治療法なのです。
、下記のように、様々な生理的な特徴があり、様々な病気に効果が期待できるからなのです。

様々な病気とは↓ ※単なる生理学的指標の変化に留まらない帰結を主張するものを強調

■全身の疲れ、筋肉の疲れを改善します。 ダメージを受けた筋肉の修復を促す 乳酸の蓄積を減少させる ■細胞の活性化を促進します。 細胞の呼吸を正常化する 活性酸素を減少させる 各臓器と内分泌機能の代謝を亢進する ■病気にかかりにくい体質に改善します。 インターフェロンの産生を促し免疫機能を活性化する 体内の免疫機能、デトックス機能の活性化 ■手足の血液の循環を改善します。 ■血液のエイジング
更年期障害の治療 不定愁訴、頭痛、肩こりなど ■肩こり、慢性疲労冷え性 血液循環の改善、細胞の修復効果 ■肝炎、HIV、インフルエンザウィルスの除去効果 血液とオゾンの反応でインターフェロン等が産生 ■慢性関節リュウマチ、頚椎捻挫、線維筋痛症、腰痛の症状改善 局所の血流を改善、消炎、鎮痛効果あり ■ガン、悪性リンパ腫白血病への効果 免疫機能を活性化する ■動脈硬化に起因する脳血管疾患 脳循環を改善する ■狭心症心筋梗塞等の冠動脈疾患 冠血流を改善する ■末梢循環の改善 糖尿病性末梢神経障害、下肢静脈瘤の症状の改善 ■抗アレルギー作用 アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症

臨床試験は費用がかかるし、と言いながら、上記効果を標榜する事は、大問題でしょう。肝炎、HIV、がんなどへの言及は、目を疑います。また、臨床試験をおこなっていない事は、有害な副作用(介入と因果関係にある有害事象)の評価もきちんと出来ていないのを意味します(単なる報告ではバイアスがかかるため、情報の提示を義務付けるなどの管理が必要)。

ここまで、何らかの療法について検討や批判をおこなう際に気をつけておくべき事、言及出来る範囲を示し、実際に使用し普及を目論んでいる当事者が何を主張しているか、を見てきました。代替療法について評価する時には、どこまで解っているかおよび、当事者は何を言っているかを、丁寧に吟味しておくべきです。そうで無いと、的を外して足をすくわれるかも知れませんし、当事者の主張を無視して、徒に大目に見る事に繋がりかねません。

分母が違う――余剰発見の割合のはなし

流れは↓を見てください。

togetter.com

要するに、余剰発見の割合の話題です。Welchらの論文では、甲状腺がんを無症状の内に、小さいものも含めて見つけたとしたら、その内の余剰発見の割合は99.7-99.9%と推定されているが、現実では、検査のカットオフポイント(陽性の閾値)を高くしているので、その割合をそのまま示すのは著しく過大評価なのではないか、との指摘があった訳です。

で、名取宏さんが、↓のつぶやきから、もし小さいのを見つけないようにしたら、との想定で、計算をなさいました。

twitter.com

これに対し、Masato Ida & リケニャ氏が異議を唱えた、という流れです。そして、Masato Ida & リケニャ氏による計算が↓

twitter.com

これです。端的に言って、Masato Ida & リケニャ氏が間違っています。

まず、名取さんが計算しているのは何か、改めて見てみます(原文ママ)。

twitter.com

、検診で発見された臨床的に治療介入されうる甲状腺がんうち過剰診断のは割合

少し前のつぶやきより↓

twitter.com

、「検診で発見された治療介入されうる甲状腺がんうち過剰診断のは割合は?」の答えは?

このように、検診で発見された がんの内、余剰発見の割合を話題にしています。しかるにMasato Ida & リケニャ氏は、

twitter.com

↑ここで、(1000 - 960 - Y)/(1000) = 3.7~3.9 %と計算しています。分母を1000のままにしています。名取さん(ら)は最初から、見つかったがんに占める余剰発見の話をしているのに、発見していない分を分母に組み込んでいるのです。つまり、全然別の話をしているという事なのです。これは、

存在するがんの内、検診で発見する隠遁がんの割合

の議論では無いのです。がん検診の議論の文脈で、通常そのような割合を検討しません。乳がんの余剰発見の割合は20%くらいである、といった数値が話題になったりしますが、その際の割合も、発見されたがんに占めるものです(Twenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study: randomised screening trial | The BMJ)。

結局の所、Masato Ida & リケニャ氏は、がん検診の文脈を何も理解しないままに、前田敦司氏や名取氏(やWelchら)が誤っていると批難したのだ、と言えます。甲状腺がん検診で危惧されているのは、カットオフポイントを上げて見つけないようにして余剰発見を減らしたとしても、依然、検診発見に占める余剰発見割合は高いであろうという事なのですから。

名取さんはそういう事情はよくご存知なので、「検診で発見された治療介入されうる甲状腺がんうち過剰診断のは割合は?」と、冗長と思えるほど注意深く表現していますが、見ない人は見ないという事ですね。

ちなみに、余談ですが。

www.med.osaka-u.ac.jp

↑これは、高野徹氏の想定問答です。この中に、2.次の説明は正しいか? 「検査を慎重にやれば過剰診断は防げる。」との問があり、それの答えが、

。第一に、このような操作をすることで、過剰診断の割合が減らせる、というデータはありません。どのサイズにどのような割合で過剰診断例があるのかがわかっていないからです。

↑こう書かれています。まるで、問の正解は防げないと言っているようですが、それは誤っています。※防げる減らせると解釈する前提です

これは甲状腺がんの話です。したがって、発生するがんの内、見つけたら余剰発見となるもの(隠遁がん)は、相当高い割合だと考えられます。ですから、分子に入る数が大きい訳です。そうすると、想定される症状発現がんより大きい部分を見つけないようにすれば、余剰発見は減らせます。発見時のがんの大きさと隠遁がんとの関連が解らなくとも、隠遁がんの割合が大きい事は判っているので、発見可能な分を数十%でも減らせば、自動的に余剰発見も減ります(減らした分に症状発現がんが含まれても、残りに隠遁がんが入るから)。

ここまで読んでお解りかと思いますが、先に検討した、Masato Ida & リケニャ氏の意見は、むしろこちらに関わる部分です。氏は、カットオフポイントを上げる事によって、余剰発見は減らせると言っていますが、それは正しい。けれどそれは、発見されたがんの内の割合を大きく下げるとは限らない(分母も一緒に減るから、元々の分子が大きければ、割合も大きいままとなる)。

つまり、

  • カットオフポイントを上げる事により、余剰発見は減らせる
  • 余剰発見を減らしても、検診発見がんに占める余剰発見の割合は高いまま

この2つは両立するのです。何故なら、検討している割合の分母が違うから。検診(より一般には、科学)の議論に参加する際には、自分が考察している指標は何か、という所をよく意識しておくべきです。