《過剰診断(余剰発見)》と《偽陽性(誤陽性)》は違います

新型コロナウイルスによる感染症の議論に絡んで、検査に関する専門用語が話題に上っています。感度特異度などですね。疾病の検査を受けるのは、私たち非医療者にとっても身近の事ですので、それにまつわる専門用語を理解するのは、とても大切だと思います。

さて、その流れにおいて、twitter上で、次のつぶやきが注目を集めていました(リツイート数と、いいね数で判断)。

これは、検査に関連する用語について、図によって説明されたものです。込み入った概念を、図を用いて解りやすく説明しようとするのは、大変良いと思います。ただ、惜しい事に、この図には、間違いがあります。本記事では、それを説明します。

さて、ある集団(人口)に対し、何らかの特徴を持った個体を見出すべく、検査を実施する事を考えます。今は、感染症に関する議論ですので、病気に罹っているとか、ウイルスを持っている、といったのがそれです。検査の結果は、

  • 陽性(特徴を持っているだろうと判定)
  • 陰性(特徴が無いだろうと判定)

の2種があるとします。そうすると、あり得る結果は、

  • 特徴を持ち陽性
  • 特徴を持ち陰性
  • 特徴が無く陽性
  • 特徴が無く陰性

の4種です。検査の性能は、これらの割合をそれぞれきちんと考えた上で評価しよう、というのが、コロナウイルス周りで議論されている所です。

図に戻ります。その図では、上で挙げた4種類のパターンを、表に載せています。そこでは、

特徴を持ち陽性
真陽性
特徴を持ち陰性
見落とし
特徴が無く陽性
過剰診断
特徴が無く陰性
真陰性

このように表現されています。そして、この中の3番目、すなわち過剰診断の部分が間違っています。

図(中にある表)では、特徴が無く(表中では感染がない)陽性の事を過剰診断と言っています。つまり、

特徴が無いものを特徴ありとする

のを過剰と言ってる訳です。そして、そこが違います。

検査、正確に言うと、検診:症状が無い対象に検査をするの用語に、過剰診断なる専門用語があるのはその通りです。ただし、定義は次のようです。

そのままでは症状が出ない病気を見つける事

つまり、この定義では、

病気がある

のを見つける事を意味します。ですが、言及している表では、

感染がない

のを見つける事を、過剰診断と表現しています。ここが違っています。実際には過剰診断とは、症状を顕さない病気を見つけるのですから、表では、

真陽性

に含まれます。入っているセル(表のマス)が全然違うのですね。

重要なのは、過剰診断とは、

病気を見つける

ものである所です。ですからそれは、

病気を持ち、かつ陽性(真陽性)

の一部であるのです。しかるに表では、

病気(感染の状態)を持たずに陽性

を過剰診断と言っています。ここが間違いで、正確にはこの部分は、

偽陽性

と言います。この違いは、検診における専門の議論でもとても重要なので、きちんと把握しておく必要があります。

ちなみに、過剰診断は、英語のoverdiagnosisの訳語ですが、overdetectionが用いられる場合もあり、私はそちらの訳語として、余剰発見を使います。

おそらく、図(と表)を描いたかたは、偽陽性なる表現では直感的に解りにくいので、ぱっと読んで解りやすいように、と過剰診断の語を選んだのでしょう。けれども実際には、同じ分野の中で既に、違う概念に充てられた用語であった訳です。なかなか難しい所ですが、これは専門用語の区別の問題ですから、しっかり押さえなければなりません。

ここでは、検査における用語の細かい解説はしませんでしたが、私も以前に解説を試みた事があるので、興味のあるかたは、読んでおくと良いかも知れません。

interdisciplinary.hateblo.jp

また、これら用語をグラフィカルに、直感的に把握できるように作ったツールもあります。

特に、陽性/陰性適中度 の考えは、把握しにくいものなので、保有割合(有病割合)を動かしながら、その変化をじっくり眺めてみてください。 screening.iaigiri.com

なお、私は、偽陽性偽陰性を、

  • 誤陽性
  • 誤陰性

と書き、真陽性真陰性を、

  • 正陽性
  • 正陰性

と書きます。英語のtrueとfalseの訳と考えれば、真と偽となるのは当然なのでしょうが、私は、日本語の語感から考えて、正と誤を用いています。主張としては、下記文献と同。

【PDF】https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsgcs1963/1978/39/1978_37/_pdf

【メモ】ニセ科学(ニセ医学も)

メモ。整理・準備用。重複あり

  • ニセ科学にかかる
  • ニセ成り立たないあり得ない。あるいは間違っているなどを包含する訳では無い
  • ニセ医学でも同様に成り立つ(ニセ医学にかかる)
  • 医学正しいに包含されない。ニセの医学成り立たない事を包含しない。ニセ科学も同様
  • ○○療法的な主張が、多義的の場合がある。適応を謳う範囲など、表現のバラツキ
  • 医学的介入の効果は、層別・修飾・交互作用などを考慮すべきであり、介入する対象の適応がある
  • 臨床試験が進行中のようなものは、実臨床に使えない
  • 1つ2つの臨床試験での(ポジティブな)結果があるとして、それを効果の証拠とすぐには出来ない
  • ニセは、説明と実態とのギャップへの評価でもある
  • であるから、臨床試験がなされた事実そのものは、ニセとの評価を覆せない(臨床試験がある、くらいの段階で、効果が認められたなどと言ってしまっては、ギャップが生ずるから)
  • 特定の疾患を持つ人に対する臨床試験での結果があるとして、それをすぐに健康者等で一般化出来ない(一般化可能性・外的妥当性)。先述した層別の話と同様
  • 論文があっても、それがすぐに有用とは限らない。査読があるか。有力な雑誌か
  • 二重遮蔽試験が理論的に可能であれば、それによるRCTが実施される事が望ましい
  • メガトライアルかメタアナリシスがあるかどうかは、効果の証拠を検討する際のポイント(無ければならないという話では無い)
  • MEDLINEやCochraneに入っているか、は目安(not 入っていれば良い、。not 入っていないから価値が無い)
  • 後で実証された事をもって、以前のニセとの評価は覆らない(ギャップへの評価であって、現象の説明そのものへの評価では無いから)