関連と因果と構成概念と

ひっそりやります。

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↑この増田の主張を整理

  1. (底辺または高学歴)かつ男、はゲームを好む
  2. ゲームは低俗
  3. 男だけがゲームを好む

底辺や低学歴と書いているから、たぶんORを言っている。あるいは、底辺と低学歴に関連があると思っている。そうであれば、どっちかであればもう一方でもあろう、と考えている事になる。

ゲームなる趣味自体が低俗と言っている。可能性としては、ゲームの部分集合、つまり、ゲームかつ低俗のもの、と言いたいのかも知れないけれど、少なくとも明示されてはいない。

男だけが『ゲーム』という低俗な趣味を好むと言っている。さすがにこの種の主張で全称的な事は言わないだろうから、

ゲームを趣味にしている男の割合が高く、それ以外での割合は低い

と主張していると読み取れる。関連の主張。ちなみにここで、底辺だの低学歴だのは外れている。

社会科学的な観点から整理すると、

  • 底辺の男はゲームを趣味にしている割合が高い
  • 低学歴の男はゲームを趣味にしている割合が高い
  • ゲームは低俗なものである
  • 性別とゲーム好きには強い関連がある

このような複数の主張に分解出来る。ここで、

  • 底辺
  • 低学歴
  • 低俗

は、シンプルに定義出来ない構成概念なので、まずここから議論する必要がある

底辺はどう定義する? 簡単に年収や所得で分けるか。家族構成なども考慮するか。収入などは年齢によって見かたを変えるべきだがそれはどうするか。

低学歴はどう定義する? いわゆる偏差値的な序列を参照して分類するか? それとも、中卒・高卒・大卒、のような粗い分類で済ますか?

低俗はどう定義する?

低俗(ていぞく)とは? 意味・読み方・使い方をわかりやすく解説 - goo国語辞書

辞書によれば、

下品で俗っぽいこと。程度が低く、趣味の悪いこと。また、そのさま。

このように定義されている。それ自体が曖昧になっている。程度とは? 悪いとは? これだと、

ゲームは低俗な趣味である

なる文が、

ゲームは趣味の悪い趣味である

のような同語反復的表現となる。そもそもゲーム、あるいはコンピューターゲームとは、極めて豊富なバリエーションのコンテンツを含むインタラクティブメディアなのであって、いわゆるジャンルも多数ある。それを、強い価値判断を前提とした低俗なる表現によって評価するのが可能か否か。

仮に、操作的にでも定義したとして、それの関連や因果を見るにはどうするか。

少なくとも、増田はまず関連を主張している。いっぽうが上がればもういっぽうも上がる、あるいはいっぽうが上がればもういっぽうは下がる、という関係。それ自体の検討は、シンプルに関連を見てそれが明らかであれば実証され得る。問題となるのは見かけの関連、つまり、標本抽出におけるバイアスにより、標的集団において関連に乏しいのに標本において関連が見られた事をもって標的集団においても関連があるとみなす誤り。もしそれを上手く排除して標的集団における関連を見出したのであれば、それは、関連がある事の実証として充分なものとなる。そこに、因果関係の実証は要らない。

増田はなんでと書いている。これは解釈の余地がある。

  • 他に何か強く効果を及ぼすものがあって、それと底辺低学歴が関連を持っているから、結果的にゲーム好きという現象を生ぜしめている
  • 底辺低学歴のような属性が因果的に効果を及ぼし、結果的にゲーム好きという現象を生ぜしめている

前者は、交絡因子によって非因果的関連が生じているという観点。後者は因果効果の仮説。増田がどういう風に考えていたかは不明。いずれにしても、関連を見出さない事には因果関係など論じられない。もちろん、効果の強さの議論もあるが、男だけがと言っている所から、

強い関連をもたらす要因群

に興味を持っているとはみなせる。男にまつわる何らかの要因たちが、結果として男だけがと言えるほどの割合の違いを発生させると言っているのだから。

あとゲーム好きって言ってもオイラー角で回転行列を表現する方法とかも知らず、 キャラクターがどうとか声優がどうとかの話しかできずマジで気持ち悪かった…

ゲーム好きなる趣味について、ユーザーが体験するゲームの側面を構成するキャラクターや声優に興味を持つ事に嫌悪を表明している。対して、コンピューターゲームを開発するプログラミングを支える理論的側面(グラフィックスの演算に必要な線形代数の知識など)に興味を持つのを、一段高尚なものであるかのようにみなしている。とかも知らず気持ち悪かったという文章の構造を見れば明らか。こんな事を言いだしたら、アニメも実写ドラマも、出演者や声優などに興味を持つ事は、作画の技術や演出の論理、役者の演技の発声方法を支える解剖学的や音声学的のメカニズムに興味を持たない事をレベルが低いと言えてしまう。そして、何に対してもそれは言える。どんな文化も、それを構成する自然科学的なりのメカニズムが存在するから。そもそもそのような見かたが妥当であるかを反省的に検討しないのでは、意義のある主張とはならない。

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「底辺や低学歴はゲームが好き」これって社会科学の分野ではよく知られた概念

先述したように、底辺低学歴は複雑な構成概念であるから、まずそれを共有しておかなければならない。また、本当に社会科学方面でよく知られた関連であると主張するのならば、底辺や低学歴などの語が分野で確立された定義を持つ事を主張あるいは紹介しなければならない。指標が妥当性と信頼性を兼ね備えた有能なものが使われているのを示す必要もある。カットオフポイントを少し変えて分類するだけで関連の様相は変化するので、定義と指標は共有しておく必要がある。

そもそも、きっかけの増田の主張は

なんで男だけが『ゲーム』という低俗な趣味を好むようになるんだ?

このように、極めて強い主張であって、シンプルに関連を言っているだけでは無い。性別の議論にもしているし、ゲームなる文化総体への価値づけをも含んだ主張となっている。

これらの主張に対し、母数疑似相関などの語を出して意見を言うものが見られるが、分母の意味で母数を使うのは誤用であり、疑似相関との指摘は、相手の主張の種類によっては何の反論にもならないので注意を要する。※ここで疑似相関とは、非因果的関連を指すとする

そもそも関連があると主張しているのであれば、それに対し、疑似相関であろう、と指摘するのは意味が無い。ここで言う疑似相関は、相関があるのを意味するのだから。これが、因果関係があるとの主張への反論であれば、意味ある反論となり得る。そこの判断には注意を要する。