サイズが違う
こういう問題の答えは、どのような実現象を理想化しようとしているか、次第なのだろうと思います。教科書などで、しばしばここが疎かにされるので困る、というのも以前に何度か書きました。
A 説 そもそも各妊娠・出産は独立の事象であり、男の子が生まれる確率と女の子が生まれる確率はそれぞれ 1/2 。 これは二人のペアがきょうだいだろうがそうで無かろうが成り立つ。 ゆえに件の問題の答えは 1/2 。 うん、完璧ですね。
↑これは、全事象を{男, 女}として、各根元事象にP({男}) = P({女}) = 1 / 2なる確率測度を設定した上で、次に生まれる子の性別が女である確率は、との問われた場合の答えです。
そもそも大前提として確率の問題はすべて (求めたい特定の事象のパターン) / (成立しうる全パターン) で求められる。 問題の条件から i(女, 女)の可能性は除外できる。 全パターンは g(男, 男)と h(男, 女)の2パターン。 そのうち特定の事象のパターンは h(男, 女)の1パターン。 ゆえに 1/2 。
そもそも大前提として確率の問題はすべて (求めたい特定の事象のパターン) / (成立しうる全パターン) で求められる。
↑これが、#(事象)/#(全事象)の事を言っているのなら(#は入力の要素数を返す)、これは、等確率測度の時です。つまり、あらゆる{ω}の入力に同じ実数を出力する確率測度を設定した場合。それを実現象について設定しようとしているのが、生まれる子の性別がいずれである確率も1 / 2とするなる仮定ですね。
で、引用部では、
- {男, 男}
- {男, 女}
- {女, 女}
をパターンとして、{男, 男}と{男, 女}のいずれかだから、確率は1 / 2としています。しかし、いま考えているのは事象です。まず等確率測度を前提として、子が2回生まれる現象をモデル化しようとしているので、それは、{男, 女}からなる全事象の試行を2回おこなう結果の集合だとみなせるから、新しい全事象はその直積として
- {(男, 男), (男, 女), (女, 男), (女, 女)}
こう表わせます。ここで要素は2タプル(順序対)ですので、男と女からなるきょうだいの集合は正確には、
- {(男, 女), (女, 男)}
これを指します。つまり、男と女からなるきょうだいの集合の要素数は2です。
いっぽう、問題文は、
1人が男の子の場合です。ここが論争を呼ぶ所なのでしょう。まず、シンプルに先に生まれた子か後に生まれた子のいずれかが男である事象とすれば、
- {(男, 男), (男, 女), (女, 男)}
着目する事象はこうなります。どちらの子について言っているか決められないからですね。そうであれば、全事象は {(男, 男), (男, 女), (女, 男)}に狭まり、先に言及した{男, 女}なる事象は{(男, 女), (女, 男)}ですから、等確率測度の前提より、#({男, 女}) / #({男が属する}) = 2 / 3 となります(条件付き確率)。
さて、あなたはいま目隠しをされている Delta だと想像してほしい。 あなたは目隠しをされているので、自分が引いたコインが金貨か銀貨かは判らない。当然ベールの中のコインが金貨か銀貨かも判らない。
↑コインの例を出しています。で、起こりうる全てのパターンはこうだ。
として、3通りを挙げていますが、先に示したように、全事象の要素数という意味でのパターンは3ではありません。4です。
- {(金表, 銀表), (金表, 銀裏), (金裏, 銀表), (金裏, 銀裏)}
こうですね。{表, 裏}は事象だが根元事象では無いです。その事象は2つの結果からなる集合であり、
- {表, 裏}:{(金表, 銀裏), (金裏, 銀表)}
こう示せるからです。問題文で、1回のコイン投げに等確率を与え、たぶん2回のベルヌーイ試行を想定しているから、あらゆる根元事象に同じ実数を与えるのが前提です。そうであれば、{表, 裏}なる事象と、{表, 表}と{裏, 裏}のそれぞれの事象に同じ重み付けは出来ません。そうすると、{引っ張ったコインの上面が表}なる事象は、{(金表, 銀表), (金表, 銀裏), (金裏, 銀表)}としか絞り込めません。(金表, 銀裏)と(金裏, 銀表)は異なる結果(順序対)なのですから。であれば、求める確率は 2 / 3です。
そのコインは金貨で表だった。 このときもう一枚のコインが裏である確率はいくらか?
↑Echo氏は、表と裏では無く、金貨か銀貨の情報も得られる立場にあります。だから、氏が得た条件は、金貨が表となる事象であり、それは、
- {引っ張ったコインは金貨で上面は表}: {(金表, 銀表), (金表, 銀裏)}
こうなります。それを全事象とするなら、求める確率は、 {(金表, 銀裏)} / {(金表, 銀表), (金表, 銀裏)}となり、根元事象は等確率なので、1 / 2 です。要するに、Delta氏とEcho氏は、
与えられた情報が異なる
訳ですね。Delta氏は(金裏, 銀表)を除外出来ない訳です。
これは問題(2)の目隠しされた Delta の視点に対応する。 Delta の視点から見える全パターンは表(3)である。これは問題(1)だと表(1)に対応する。 そう、問題(2)の Delta が表(4)を導き出せないように、問題(1)から表(2)は絶対に導き出せないのだ。 これが 2/3 派の誤りである。
既に指摘したように、事象は根元事象とは限りません。また、(男, 女)や(女, 男)は結果であり、事象はそこから構成されるものです。要するに、{男, 女}なる事象はサイズが違うのです。
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基本の話はここまで。事象に属する要素数を考えないと進まないですからね。
興味があるのは、
2人きょうだいの子供のうち、1人が男の子の場合、もう1人が女の子である確率はいくらか?
このような現象をどう考えるか、ですね。
スミス家の子の問題は、議論を巻き起こしたものだと思いますが、冒頭に書いたようにこれは、問題文の解釈によって、思い描かれる現象の様相が違ってくるから、なのでしょう。いまの問題だと、1人が男の子の場合
の所。これをどう知るのですか? こういう知識を得るのは通常、日常会話等で、ですよね。そういうシチュエーションなら、きょうだいの構成がどうなっているかとか、上の子か下の子か、など、同時に知るものでしょう。なのに、問題文がわざとらしいのです。数学の抽象化された問題を答えさせるように曖昧になっている。だから、解釈する側も色々にモデル化しようとするに決まっています。
もう1つは、1人が男の子なる文を、
男の子は1人しかいない
と解釈する可能性。そうなれば、(男, 男)が除外されるので答えも違ってきます。でもそれなら、じゃあどっちが男の子なのか教えなさいよ、となるでしょう。日常会話ならそうなります。
数学的構造として明確にするために、たとえば、2人の子を持つ家族から1人の子を選んだ所、男だった…などという設定をしますか? どういうシチュエーションですかそれ。社会調査でもやってるんですか? いやどういう調査ですか、てなります。そもそも問題設定に無理がある訳ですね。数学の問題がしばしば直観的で無い事を知らしめるために、実現象を借りているのに実現象に程遠い問題の出しかたをする。だから色々と議論になるのでしょう。様々なアプローチから異なるモデル化が見いだせた、というような意義ならあるのかも知れませんが、あまり、どちらが正しいか、みたいな所に拘ってもしょうが無いと思いますね。
追記:シミュレーションしました。