われわれはどの世界にいるのか

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たいへん面白い話だと思いましたので、書いてみます。

まず、モンティ・ホール問題については、こちらで図示を試みましたので、興味のあるかたは参照ください↓

interdisciplinary.hateblo.jp

山形さんは、モンティ・ホール問題の説明そのものは解ると言い、その上で賦(原文ママ)に落ちないと主張します。そして、

もう一人別に参加者がいたらどうなる?

と想定して展開して行きます。つまり、山形さんが参加してAのドアを選んだら司会者はCのドアを開けた。いっぽう、ハギーワギーくんもそのゲームに参加しており最初にBを選んでいたと想定し、

あなたが、このハギーワギーくんには何と助言するだろうか?

と問います。

問うているのですが、実はここで、山形さんは状況設定を誤っています。 山形さんは、場合によっては司会者がBのドアを「ハズレでした」と開けてしまう場合もある。とか、視聴者はと書いています。つまりこれは、

ハギーワギーくん(や視聴者)は、山形さんがゲームに参加しているのを観察している

のを意味します。この時点で、ハギーワギーくんはゲームに参加などしていません。実際に参加している山形さんのゲーム展開における情報を得る事が出来、それを判定に使える立場にあるのです。

したがって、ハギーワギーくんにもし助言するならば、選択を変えようでは無く、

Bのドアを選ぼう

となります。要するに、山形さんと同じ選択をすべきです。もし、山形さんの言うあなたが、山形さんでもハギーワギーくんでも無く、ゲームを観察している視聴者の1人を指すのであれば、

いまわれわれがいるのは、山形さんがAのドアを選び司会者がCのドアを開けた世界だと知っている

のですから、その情報を使えます。と言うか、使わない手はありません。

起こり得る結果のすべてを要素とする集合を全事象と言います。ゲームを見るわれわれは、山形さんの選択と司会者のドア開けの情報を得た、すなわち条件が与えられた(given )事により、

検討する全事象が狭まった

のだと考える事が出来ます。このように、条件を得る事によって全事象を狭めて新しく確率の分母を定めた上で得る確率を、条件つき確率と言います。

山形さんは、他の人にこの話をした際に、山形さんの選択とハギーワギーくんの選択は独立だ、というような事を言われたと書いていますが、当然そうではありません。ハギーワギーくんや視聴者は、山形さんの選択(と司会者のドア開け)の情報を知っている時点で、独立ではあり得ないのです。その意味では山形さんが言っている事は正しいです。しかし、具体的に検討する時の設定がズレてしまったのだと言えます。

もし、ハギーワギーくんが実際にゲームに参加すると考えると、次のような設定が必要です。

  • ハギーワギーくんと山形さんは同じドア群から選択し、同じ司会者がドア開けをする
  • ハギーワギーくんと山形さんは情報共有が出来ない(互いにどのドアを選ぶかなどを知り得ない)
  • 司会者はハギーワギーくんと山形さんに対応する時、それぞれの選択に一切の影響を受けない
  • ゲームのルールは全く同じものである

ところが、このような事は実現出来ません。何故なら、もし山形さんがドアを選んで司会者がドアを開けたら、同じようにハギーワギーくんがドアを選んでそれに応じて司会者が別のドアを開く、という事を実行出来なくなるからです。つまり、このゲームはそもそも、

1人しか参加出来ない

のです。

もしハギーワギーくんが他の情報を遮断され、、司会者がドアを開ける状況しか見る事が出来ないとしましょう。山形さんのゲーム進行が影響を与えないようにするには、そのように考えるしかありません。そうすると、ハギーワギーくんがやっているのはもはや、別のゲームです。ですから、山形さんが参加しているゲームの設定とも異なるし、得られる情報も違います。判っているのはCのドアが開けられた事のみですから、残りのAとBどちらを選んでも、当たる確率は1/2です。つまり、想っただけでは確率に影響を与えません。何故なら、ドアCが開けられたとの情報を得ただけでは、ハギーワギーくんは自分が

  • 山形さんがドアAを選択した
  • 山形さんがドアBを選択した

このどちらの世界にいるのかを定められないのですから。その条件をgiven出来ないので、全事象を更に狭める事が出来ないのです。

ここで誰かが、山形さんの選んだドアを教えるとしましょう。そうすると、話は最初に戻ります。つまりハギーワギーくんは視聴者と同じ立場となり、山形さんと同じ情報を得られます。ドアCが開けられたとの条件に、山形さんがAを選んだ条件が加わり、それに基づいて全事象を狭める事が出来ます。ハギーワギーくんに安心して、Bのドアを開けたほうが良いとアドバイスしましょう。

「選んだカードを変えますか?」という問題ではなく「最初の選択をご破算にして、どっちか選びなおしてください」という問題設定にしよう。

↑これは設定が曖昧です。最初の選択をご破算にして、どっちか選びなおしてくださいとは、どのタイミングで言われるのでしょうか。

それが、司会者がルールにしたがってドアCを開けた後であれば、確率は1/2ではありません。状況は通常のモンティ・ホール問題と何も変わりません。最初の選択を無かった事にしたら、司会者はドアを開けられないからです。つまり、ご破算が実際には何を無かった事にしているのかを、明らかにすべきでしょう。もしかすると山形さんは、サヴァントが言ったというUFOの喩えを持ち出そうとしたのかも知れません。しかしそうだとすると、最初の選択をご破算にしてなどと言う事は出来ません。ご破産にすると言われるのは、

自分がどのようなゲームに参加しているのかを知っている

からです。ルール自体を知らない事にして選ばせると言うのなら、

  • 山形さんの記憶を消す
  • ルールを一切知らない人に選ばせる

このいずれかで無ければいけませんが、前者は不可能です。ルールに関する記憶が消えるのなら、選び直すなどという現象は起こらないからです。後者はUFOの喩えであり、私が先程設定した、情報を遮断されたハギーワギーくんの事例に相当しますが、それがもはや山形さんの参加しているゲームとは別物であるというのは、既に説明した通りです。

でも、「選ぶ」と言ったって何かを変えたわけじゃない。「こっちかなー」と思っただけだ。

ゲームの参加者(ここでは山形さん)は、思っただけではありません。司会者に思いを伝えたのです。そして司会者は、その思いに応じ、ルールにしたがってドアを開けました。すなわち、山形さんが司会者に思いを伝える事によって、司会者の行動の可能性を制限した訳です。

余談。

ある人に対し、特異度は同じだが感度の違う(病気を見つける)検査をおこなったとします。そして、両方の検査が陽性でした。検査は別々に実施され、結果は共有されていません。その時、それぞれの検査結果から得られる病気を持っている確率(事後確率。術語は陽性適中度)は異なります。しかし、その事で世界が変わったとは思わないはずです。言えるのは、自分がどの世界にいるかの蓋然性についての量的な評価をした、というものです。ちなみに、双方の検査結果を共有すれば、新しく指標を求める事が出来ます。このように、複数の検査を同時におこなって評価するのを並行検査と言います。