【おすすめの本】『国立がん研究センターの正しいがん検診』

国立がん研究センターのがんの本シリーズの本として、がん検診の本が出ていたので、読みました。

約120ページと薄めではありますが、しっかりした内容です。国立がん研究センターと冠しているからか、書きかたは、どちらかというと教科書風であり、堅めです(それでも、だいぶん噛み砕いて書かれています)。

具体的な内容は、まず、がん検診そのものについての総論的説明があり、その後に、日本で推奨されているがん検診の各論、そしていくつかのQ&Aが載せられています。各論部分は、それぞれのがんに罹るリスクを高めるものを挙げたり、がんの病期の分類を説明し、各検査の詳しい内容が書いてあります。

総論の部分は、ここを押さえておいたほうが良い、というポイントがきっちりと押さえてあって、丁寧です。たとえば、予防という考えにおける、一次予防二次予防の区別や、がん検診にはメリットだけで無くデメリットがある事。また、検診は若い内に受ければ良いというものでは無い、といった所がしっかり説明されます。検診の害として、特に甲状腺がん検診や前立腺がん検診で問題となる、過剰診断(余剰発見)の考えも紹介されています。

がんの有効性評価に関しても、発見割合(罹患割合)では無く死亡割合で評価する事が、ちゃんと書かれていますし、若い世代であれば、がんを持っている人自体が少ないため(保有割合)、害が利益を上回る可能性がある事が指摘されます(子宮頸がん検診だけ20代から推奨)。

また、最近メディアで、血液一滴でがんを発見出来るといって取り沙汰される方法(いわゆるリキッドバイオプシーの一種)や、PETによる検査についても、注意喚起のようなかたちで(がんを発見する性能が高ければ良いものでは無い。死亡割合低減の効果を確かめる必要がある)紹介されています。がん検診の専門家としては、有効性が確認されていない検診が広まってしまう事に対して危機感を覚えている、という所なのかも知れません。

このように、最低限ここを把握した上で検診への向き合いかたを考えよう、というポイントが満遍無く押さえられた良書である、と言えます。がん検診に関心を持つ人が周りにいれば本書を勧める、のも良いですし、ちょっとしたリファレンス本として、手許に置いておくのも良いでしょう。また、検診に興味はあるが小難しい話はどうも……という人に易しく説明する際の参考書として持っておく、のも良いのではないでしょうか。