検診をおこなうために必要とされる事
- 作者: 青山英康,川上憲人,甲田茂樹
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2005/04
- メディア: 単行本
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この本にある、スクリーニングを行うための条件
を引用します。※P227より引用。原文を適宜整形して dl 要素でリストにします
- 対象とする疾病の罹患率と死亡率が高いこと
- 罹患率の高い集団で行うほど陽性反応適中度が高く,効率的なスクリーニングができる。
- 集団に対して実施可能であること
- 基本的に無自覚の集団を対象とすることを忘れてはならない。
- スクリーニング検査の精度が高いこと
- ただし,感度と特異度のトレード・オフの関係に注意すること。
- 早期発見による早期治療の効果が期待できること
- 図1を参照。※引用者註:これは、対象の疾病について、診断可能な時点から症状が発現するまでの間に見つければ、寿命を延ばす事が出来る場合がある、というのを示した図です。
- 費用効果,費用便益のバランスがとれていること。
- ※引用者註:費用効果とは、効果1件あたりの費用の事で、効果とは、寿命の延長や疾病の発見数です。費用便益とは、効果を便益にして考えたもので、生涯稼働額などを便益と定義します。
- 有効性があること
- 最も信頼性の高い方法は無作為化比較試験である。
- 安全な方法であること
- 本文では詳述しなかったが,偶発症や後遺症の危険が大きい検査はスクリーニング検査としては向かない。
これらを勘案して、検診を実施する必要がある、という事です。引用書では、次の7つの条件を満たすことが必要となる。
としています。
福島県の甲状腺がん検診について、この考えを適用すると、ほとんど当てはまらない事が解ります。
福島県での検診については、縮小すべきであるという意見を持っていても、それの根拠として、コスト的に見合わないから、と主張する論者もいますが、甲状腺がん検診に関しては、そもそも効果を支持する根拠が無い所が重要です。ですので、効果に対してコストが見合わないからと言うより、まず効果があると言えない、のが重要な点なのです。RCTはありませんし、観察研究からは、効果は無い事が示唆されています。最大限慎重に言っても、効果は不明という事です。そうすると、コストと効果を比較する以前の問題です。
ここの所は、きちんと認識しておきたい部分ですね。
真の割合と発覚した割合――保有と発生
現在、(時点)有病割合と呼ばれているものは、ある時点における、全体に占める病気が発覚した人の割合である。
本来有病割合で表したいのは、病気を持った人の割合そのものであるが、
- 有病期間が長い
- 有病期間のばらつきが大きい
- 広く検診がおこなわれない
などの条件がある場合、真の割合と発覚した割合に乖離が生ずる。
広く検診がおこなわれない疾病の場合には、症状が出て発覚するのが主であり、それが統計数値として記録される。有病期間が長ければ、症状が出現するまでにも長い期間が掛かり、場合によっては、症状が現れる前に他の原因で死亡する。従って、ある時点での(実際的に時点は不可能なので、なるべく短い期間、とする)医療記録を参照して有病割合を推定しても、真のそれとはかけ離れる可能性がある。病気を持っているのに症状が出ない人が多くいるかも知れないからだ。
累積罹患割合とは、一定期間中に新たに疾病に罹患した割合を表す概念である。ここで、新たにという所に注意する。であるから、記録時点で病気に罹っている人は除外する必要がある。記録開始時点での有病割合と、一定期間の累積罹患割合を合わせたものは、期間有病割合という別の指標である。
また、ここでの罹患を一般的に発生とし、その累積割合を考えて、リスク(危険):累積発生割合とも言う。
累積罹患割合も、対象の疾病が、先に挙げたような性質を持っていれば、真の値とかけ離れる可能性がある。たとえば、一年間に新たに、医療機関を受診して発覚した疾病が記録され、それを一年間の累積罹患割合と看做すと(多くは罹患率と表現されるが、厳密には異なる指標)、診断可能な時点から症状が出るまでの期間が10年以上もあるような病気であると、正確な値は出にくい。症状が出るまでに別の原因で死ぬ場合なども、乖離を生ぜしめる要因である。
有病期間が長く、別の原因で死ぬような場合は、死後の解剖(剖検)によって発見される、という事実によって確かめられる。
対象の病気が、有病期間が短くて、罹ってから症状が出るまでの期間も短く、その病気の診断性能が高いのであれば、その疾病の累積罹患割合は、ある程度、真の値に近いであろう。しかるに、ある種の がんなどは、有病期間が長く症状が出にくいために、真の値の推定は難しい。
そのような難しい対象の疾病に対し、何らかのきっかけで、積極的に、病気に罹っているか調べるという事がおこなわれたとしたらどうか。
そういう場合、それまでに知られてきた統計数値と、新たに得られたデータから求められた数値とが、大きく離れてしまう事が考えられる。
そもそも症状が出にくいものに対し、症状が出ない内に見つける――これを検診と言う――のだから、診断の性能が高ければ真の値に近づくはずであるが、それまでに発覚したものは、主に症状を呈して見つかるのが記録されたものであるから乖離が生ずる、という論理である。
このような理由から、私は、事情に明るく無い人の事も考え、
- 発覚保有割合
- 発覚発生割合
などのような表現の使用を検討する事が重要であると考える。ここで、保有は有病を、発生は罹患を、それぞれ、より一般的に表現したものである。また、発覚は、実際に見つかったケースという事を強調し、真の値と異なる可能性がある含みを持たせるものである。
このように考えれば、たとえば甲状腺がんのような疾病は、それまでに得られていた発覚(累積)罹患割合は、主に症状を呈して見つかった割合であるが、それが、地域に住む一定層の全員に検診をおこなう事を企図して判明した発覚罹患割合と乖離しており、そこに疾病の有病期間などが関係しているのではないか、というように整理する事が出来る。