鶏刺し(鳥刺し)のはなし

togetter.com

↑これを読んで、色々考える所あり。整理も兼ねて。

鶏を生食する習慣がある地域における、生食用食鳥肉の衛生基準

https://www.pref.miyazaki.lg.jp/eiseikanri/kenko/ese/documents/000183422.pdfwww.pref.miyazaki.lg.jp

↑(PDF)宮崎

www.pref.kagoshima.jp

↑鹿児島

宮崎の基準は結構前のもの。改定の有無は不明。鹿児島は2018年に改定。

鹿児島の改定は、水切りの手順追加。筋胃・肝臓(砂肝とレバー)を生食可から除外(PDFに差分情報あり)。

地元の店で、調理済みの鶏刺しまたは、鶏刺し用の肉を見ると、たいてい皮がついており、炙ってある(焼烙殺菌の結果)。これは香ばしさや歯ごたえ、食味にも関係。

新鮮なほうが危険?

新鮮なほうが危険、との意見があるのは、病原体であるカンピロバクターの特性より、いくらか時間経過があったほうが病原体の数が抑えられる(空気中に曝されるから)、という理由からだと思われる。

www.niid.go.jp

本菌の発育には微好気条件(酸素濃度:5〜10%)が必須

www.n-shokuei.jp

冷凍・冷蔵庫の中で長期間生存

これは、汚染された肉がどのような経過を辿るかという部分の問題であり、処理手順においては汚染させないのが最重要の目的となる。宮崎・鹿児島の衛生基準は、それを企図している。

カンピロバクター食中毒の発生状況

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000608208.pdf

↑(PDF)2019年全国。カンピロバクター由来の事件数は、300から600くらいを推移。患者数は2000前後。

余談。円柱グラフ(3D円グラフ)を使わないで欲しい。

カンピロバクターを原因とする食中毒は、鶏肉を食べて発生したカンピロバクター感染と同じでは無いので注意する。

www.nposfss.com

↑食品別のグラフが描かれている(食品安全委員会のリスクプロファイルへのリンクがある)。鶏由来の割合は高い。

宮崎県でのカンピロバクター食中毒の年次推移を探したが見つからず。

www.pref.kagoshima.jp

↑鹿児島県の統計。全国との比較あり。これは、全国に較べてリスクが低いのをアピールしたい事の顕れだろう。

www.pref.kagoshima.jp

↑各年のデータ。件数がゼロの年もある。

注意点。1つの県と全国を比較しているので、数百件対数件といった比較はしてはいけない。出来れば都道府県ごとの比較が良いが、食中毒関連のデータで良い感じのがあれば、教えて頂ければ幸い。

ここ数年は、5件以内で推移しているので、絶対数として低いとは言えそう。参考として、2019年の東京都は36件↓

www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp

繰り返すと、カンピロバクター由来鶏刺し由来は違うし、鶏刺し由来鶏由来も違う。加熱不十分の場合もあるし、交差汚染( 交差汚染 | HACCP関連情報データベース)の場合もある。

www.pref.osaka.lg.jp

↑2019年の大阪府。30件。

リスク。分母

上では、年ごとの発生件数を比較。ただ、件数のみをシンプルに比較するのでは良くなくて、

  • 人口
  • 喫食量(何人食べるか)
  • 喫食量(1人がどのくらい食べるか)

なども考えなくてはならない。

件数を人口で割ると、年次の累積発生割合(疫学ではリスクと言う)となるが、これは、ある要因の、人口に対するインパクを示す指標となる。

いまは、食中毒のはなしだから、当該食品が、どのくらい食べられているかも考える必要がある。仮に、人口における、鶏刺し由来食中毒の割合が同じだとしても、どれくらい食べられている(曝露されている)かが違えば、かたほうは、その食品が持つ危険さを抑えている事が示唆される。

それを考えると、鹿児島県において発生件数が数件であるのは、喫食の頻度を鑑みれば、鶏刺しの危険を抑えられていると推測する事は可能。

ただし、このままでは、実際どの程度喫食されているか、の定量的な評価では全く無い。それは結構難しいと思う。生産量や出荷量等を指標とするか、とか、調査研究によって求める(たとえば食習慣のアンケートとして)などのアプローチが考えられる。この部分はしっかりおこなうべき。

鶏を生食する地元の人間の経験から言えば(ある種の報告)、鶏刺しはそこら辺のスーパーに売っているレベル。イオン(マックスバリュ)にも売っているし、小さな商店で見る場合もある。

ここで、そこら辺に出回っている事と、衛生基準をクリアしたものがそこら辺に出回っているのは別である所には、注意しておく。包装に、衛生基準をクリアしたのを示すマークが印刷されている場合もあれば、調理場で調理されシンプルにパックされる場合もある。その意味では、消費者側としては、地元で販売されているものだから、概ね衛生基準はクリアされているであろうというくらいの判断しか出来ない。

もちろん、食中毒の発生件数というアウトカムから逆側に考え、このように抑えられているのだから、衛生管理もマクロ的には上手く行っているのであろう、と推測も出来る。

手順とリスク

前節最後に書いた所とも関連するが、衛生管理の手順は、主にメカニズム的な観点を考慮(汚染経路の、生物学的や空間的仕組み。その結果としての、病原体検査陰性)して決められているだろうから、それをすればちゃんと危険性は抑えられるとすぐにはならない。結局は、人口に対してどの程度の影響を与えるか、の観点も必要(疫学や公衆衛生学的視点)。

この辺りをしっかり研究したものは、探した限りでは見つからなかった。

先に紹介した、鹿児島県の衛生基準では、改定によって、砂肝とレバーが生食可の部分から外された。これは、手順の改良でも汚染(これは、食中毒のリスクそのものとは違うが、その原因物質の量的評価である)を十分に抑えられないという理由からで、

news.yahoo.co.jp

↑この記事の表現を借りれば、生食文化を守るため県はこの部位を「切った」のだ。とも言える。

味のはなし

生食すべきでは無い、という意見に付随して、味の良し悪しを持ち出すのは適当では無い。それは嗜好に関係するものだから、焼くより生のほうが美味しいと感じる人もいるだろう。それに対し、ちゃんとした焼きかたをしていないからだとか、ほんとうに美味しい(火を十分に通した)物を食べていないのだ、といった風に持っていくと、議論がズレてしまう。

生肉には味は無い、それは調味料の味だ、のような意見を言う人もいるけれど、少なくとも私にとっては、その意見はよく解らない。味はちゃんとあるし、胸肉とモモ肉では全く食味が異なる(余談:調味料は、醤油――砂糖が入っている――に、すりおろしのにんにく、またはすりおろしのしょうがを合わせる事が多い)。

文化のはなし

肉の生食について、文化を持ち出すのも適切では無いと思う。そもそも、文化と言えるか否かというのを、どうやって評価するのか。習慣が始まってからの年数か、あるいは空間的な広がりか。

blogs.mbc.co.jp

↑鹿児島における鶏刺し食の歴史や、衛生基準についての記事。

ちなみに、私の身近にいる70代の人に訊いてみたら、その人が小さい時に鶏刺しがあったか(食べていたか)については、よく憶えていなかった。憶えているほど頻繁に食べてはいなかった、とは言えるかも。

interdisciplinary.hateblo.jp

↑以前書いたもの。文化や自己責任について。

ハイリスクグループ

鹿児島の衛生基準、改定版には、一般的に食肉の生食は食中毒のリスクがあること。 および、子ども,高齢者,食中毒に対する抵抗力の弱い人は食肉の生食を控えることと明記されている。一般に食中毒は、子どもと高齢者がハイリスクとされるだろうから、それを補外しての注意と考えられる(実際に、どの層がハイリスクであるか、を解析した研究は見当たらず)。

ゼロリスクとリスク評価

リスクとは、ある無しでは無く、多い・少ない(高い・低い)で評価されるべきもの。事例のみをもって、食べられるべきでは無いとするのは問題。※食べたく無いと考えるのは、個人の自由

カンピロバクター感染由来で、ギラン・バレー症候群が発症する事が知られている↓

www.nhk.or.jp

これも、(相対)頻度を考えるのが重要。

www.jbpo.or.jp

↑記事によると、GBSの発症率は年間で10万人に対して1.15人と推定とある。当然、全てが鶏刺し由来では無い(し、先に書いたように、鶏由来と鶏刺し由来は違う)ので、ほんとうは、

鶏刺しを食べたらどの程度発症するのか

が評価されなければならない(先述の通り、起こるから食べるべきでは無いといった意見は、ここでは議論しない)。

www.neurology-jp.org

↑日本神経学会のガイドライン(2013年)。

鶏生食由来のカンピロバクター感染由来のギラン・バレー症候群がどの程度であるか、なかなか疫学データが見つからない。

kaken.nii.ac.jp

↑ここには、GBSの約30%はカンピロバクターの合併症として起こるとある。

言えるのは、発生する程度は、

鶏を生食した(概念的に、加熱が十分で無かったのと、意図的に生で食べたのとは、分ける)内、カンピロバクターに感染した内、ギラン・バレー症候群を発症した

割合なので、人口総体に対する割合としては、相当小さくなるはず。※※小さいから良いと言っていない事に注意※※

リスクに関して、起こるから、というのを理由に出来るとすると、およそあらゆる食物について、そう言えてしまう。たとえば、飴やパンで窒息する例もある。また、それによる中毒死が起こるのが知られているフグ毒については、手順の厳格化と免許制度によって、リスクを出来るだけ下げている訳で、リスクは高低で考えるのが必要。

https://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/chirashi_chissoku_jiko.pdf

↑(PDF)食品安全委員会による、食品由来の窒息事故のリスク評価。

地元の人間としての区別

鶏を生食する地域で過ごした人間としての習慣。鶏刺しとして売られている物はそのまま食べるが、生食用で無い鶏は絶対に生で食べないという認知。意識としては、魚の生食に近い。魚介類でも、(調理済みの刺身以外で)生食用のラベルが貼られているか、気にするでしょう? あんな感じ。

もちろん、どういう認知を持っているかは、細かい地域における習慣や、各家庭の食習慣などの要因も関わってくるので、全体としての傾向を知りたいなら、きちんと調査すべき。

要するに、生の鶏を更に区別している、という事。生であれば食える、と認知してはいない。たぶん、南九州以外の人も、店で出されたから食べるという区別をしている人もいるはず。それは、プロフェッショナルが提供するものは一定の品質を確保した物を提供しているといった知識からだと考えられ、その事自体は、すぐに責められるべきものでは無い(専門の部分はプロに任せる、という思考の節約であり、それは合理的な選択の一種なのだから)。問題は、一定の品質を保つという仕組み自体が上手く行っていなかった所にある(時間経過が短く、冷蔵保存をしていれば十分である、といった誤認)。

Excel(やWord)の使いかたについて

政府の動き

forest.watch.impress.co.jp

Excelなどの表計算ソフトでデータを入力する際のルール(案)を政府が示した、というもの。こういった動きが出てくるのは、まことに結構な事だと思います。もちろん、解っている人にとっては、提示されているのは基本であって、何を今更、と思われる内容でしょうし、第一歩なのでしょうが、その一歩を踏み出すまでにものすごい時間がかかったのですから、高く評価されてしかるべきだと思います。

私が出会ったもの

これまで私が出会った文書(Officeスイートに含まれるアプリケーションのファイル)には、次のようなものがありました。

Excel

箇条書きですが、それぞれは関連する場合があります。

  • いわゆるExcel方眼紙(セルを極小の正方形状に揃え、方眼紙的に使う)
  • 他の文書でも使うようなデータを、はじめから帳票状のレイアウトにする
  • データが記載されている表内において、セルを結合している
  • 同内容のデータが並ぶ場合、空白や代替文字を入力している(同上、など)
  • データが増える事を見越して、表を大きめに作っている(罫線だけ書いた空の部分が下にある)
  • 単位を入れる
Word
  • インデントを使わない
  • 左寄せ・右寄せ・中央揃えを使わない
  • 行間隔の設定を使わない
  • セクション区切りを使わない

上記を使わずにレイアウトを整えようとするから、

  • 空白と改行を使ってレイアウトする

となる。

何故そうするか、何故そうしてはいけないか

ルールなり指針なりを示す場合、取り敢えずこうしておけ的な与えかたは、好ましく無いと思います。そうで無く、何故そうするかをきちんと示さないと、納得がいかないし、応用も利かなくなるでしょう。

たとえば、先に箇条書きした事についてだと、

Excel方眼紙
入力されているセルを見つけにくい
セル幅・高さは可変なのですぐに崩れる
方眼をマスにしてインデントを取ると、文書の再利用がしにくい
はじめから帳票状にする
データの抽出や検索がしにくい
データ領域でのセル結合
ソート・フィルタなどの処理が困難(構造によっては不可能)となる
データを繰り返さない
表の構造が表示順で拘束されるので、特にソートが困難になる(同内容データに代替文字を入れると、代替文字のグループが出来てしまう)
罫線だけ描く
行が増えるたびに、罫線を描く必要がある
出力する際に、余計な部分を削除しなくてはならない場合がある(最終行が集計行の時など)
単位を入れる
データ形式が文字列になってしまう
文字列になると、計算が出来ない
Wordで空白と改行・改段落を駆使してレイアウトを作る
用紙サイズやフォントなどの設定を変えると、容易に崩れる

これらのデメリットがあります。ただ、こういった事は、実際にやってみなければ、実感しにくいものでもあります。 たとえば私は、教える際には、明らかにソートやフィルタが必要となるデータを使って表を作り、わざとその表内でセル結合をさせてみたりします。その上でソートさせてみれば(ソート出来ない)、不用意に結合を使うといかに不便なのかが解ってもらえます。

Excel方眼紙にしても、まず方眼紙レイアウトのものを作ってみて、ここのデータを修正してみてください、とやります。そうすれば、セルをマス目にしてインデントを作っていたりするので、対象のデータがどこに入っているかが解りづらい事を体験してもらえます。

こういった事を伝えつつ、基本的にはあまり使わないほうが良いと教えます。

絶対に使わないほうが良いのか

こういった議論では、じゃあそれは絶対に使わないほうが良いのか的な意見が出てきます。セル結合なんかがそうですね。これは、段階を考慮すべきだし、表現のしかたにもよるでしょう。

私の場合は、先述したように、まずそれをすると不便な例を見せて、最初はもう、絶対に使わないくらいのやりかたをしておいて、慣れてくれば、使い所を考えて使っていけば良い、というような感じで教えます。守破離の守じゃないですが、ある意味で硬直的な使いかたを覚えてから後で応用していく、としたほうが良いかなと。ただその場合にも、後で使い所はあるよ、みたいに言っておきます(私も使う事はあります)。

セル結合に関しては、選択範囲内で中央の機能も代替で使える事も教えますけれど。

共有・引き継ぎ

帳票(のみ)形式や方眼紙形式であっても、自分だけが使うようなものであれば、そのような使いかたをしても良いだろうと思います。ただし、業務ではしばしば、同じファイルを共有したり、業務の引き継ぎでファイルも引き継いで使う場合があります。特に、そこに入れられたデータも含めて継続使用する場合には、かなり困る事になります。

これは実体験ですが、自分が引き継いだファイルが、ことごとくExcel方眼紙製だった事があります。同じ経験のあるかたは解ってくださると思いますが、こういうのって、まず何がどこに入っているかすら解らないものだったりします。

こういった所も含めて見越して作成するのが良い、と考えます。

これもありがちですが、項目やセクションごとにシートを分けて作って、シート数が膨大になる場合も……探すのがとても面倒だし、シート一覧が長くなり過ぎて、可読性も悪くなります――層が多かったり深くなる場合は、Word等でアウトラインを作ったほうが良いと思います(セクションが多くて層が浅ければ、PowerPointも良い)。

テーブルを使う

私は、Excelで(Excel以外の表計算ソフトには搭載されていない場合があるのが残念)データを扱う場合、必ずテーブル機能を使います(内部的にはListObjectオブジェクト)。これを使う事によって、

  • フィールド・レコードの構造を意識せざるを得なくなる
  • データ領域内でのセル結合を意識せざるを得なくなる(結合が不可能になる)
  • テーブルの拡張・縮小(リサイズ)機能がある
  • 構造化参照が使える
  • 数式の自動挿入がある

上記のようなメリットが得られます。

先に、将来の拡張を見越して空データ部分まで罫線を引いておく、という話を書きましたが、テーブル機能を使えば、書式も含めて領域を変更する事が出来ます。

また、これは最も重要だと思う所ですが、テーブルを作成する事によって、構造化参照という、極めて強力な機能を使えます。テーブルにおける名前でもって参照出来るので、まさにデータベースとしての構造を意識出来ますし、参照方式として、セルの番地を参照するより自然であるとも捉えられます。むしろ、初学者にこそ教える事が、教育的にも良いのではないかと考えています。絶対参照・相対参照・複合参照のような考えかたは、その後、もしくは構造化参照と並行で教える、ので良いのではないでしょうか。

もし構造化参照をご存知無いかたは、是非調べてみてください。たとえば、LOOKUP系のワークシート関数を用いる場合、検索範囲を絶対参照する必要も無くなり(これを忘れて、数式をフィルしたら範囲が相対参照される、というのは結構ある)、極めて便利です。入力規則のリストを作る際にも強力です。

もしあれを、装飾のための機能だと思っているとすれば、それは最高にもったい無い事です。