信頼区間

信頼区間は難しいですねー。

参考資料を紹介します。

岩崎学『確率・統計の基礎』(P75)↓

 点推定がひとつの値で θ を推定するのに対し,区間θ を推定する方法を区間推定(interval estimation)という. α を小さな確率値とし,確率変数 X_1,...,X_n から θ_L=T_L(X_1,...,X_n)θ_U=T_U(X_1,...,X_n)

\rm{Pr}(θ_L<θ<θ_U)=1-α (1)

となるように定めるとき,区間 (θ_L,θ_U) を信頼係数(conficence coefficient) 100(1-α)\% の信頼区間(conficence interval)あるいは簡単に 100(1-α)\% 信頼区間という. θ_L は信頼下限(lower limit), θ_U は信頼上限(upper limit)とよばれる. X_1,...,X_n が離散型の場合は(1)の等号は一般には達成されず「 \geq1-α 」となる.この場合は,信頼係数 100(1-α)\% 以上の信頼区間とよぶべきであるが,その場合も信頼係数 100(1-α)\% の信頼区間ということが多い.

 信頼区間では,信頼係数が高いほどその区間は信頼が置け,区間幅が狭いほど精密な推定ができるので,それらが両方とも成り立つのが望ましいが,それはできない.すなわち,データ数 n が一定であるとき,信頼係数を高めると区間幅が広くなり,区間幅を狭くすると信頼係数が低くなる.そこで信頼係数を 1-α=0.95 とした 95\% 信頼区間を求めるのが一般的である.

 通常の確率計算では,たとえば確率変数 X に対し \rm{Pr} (a \lt X \lt b)X区間 (a,b) に含まれる確率を表す.ところが,信頼区間の定義式(1)では区間の両端が確率変数となっている.すなわち,n 個の観測値を得て信頼区間 (θ_L,θ_U) を求める」という作業を多数回繰り返したとき,その区間がパラメータ値 θ を含む確率が 100(1-α)\% であることを保証するものである.観測値 x_1,...,x_n を得て, θ_L および θ_U の実現値 {θ_L}^*=T_L(x_1,...,x_n){θ_U}^*=T_L(x_1,...,x_n) を計算して具体的な信頼区間 ({θ_L}^*,{θ_U}^*) を得たとき,区間 ({θ_L}^*,{θ_U}^*)θ を含む「確率」が (1-α) ,というのではない.したがって,区間 ({θ_L}^*,{θ_U}^*)θ を含む確率が (1-α) でるといわずに信頼係数が 100(1-α)\% であるというのである.

強調は引用者によります。

n 個の観測値を得て信頼区間 (θ_L,θ_U) を求める」という作業を多数回繰り返したとき,その区間がパラメータ値 θ を含む確率が 100(1-α)\% であることを保証する

↑ここでの信頼係数は、2つの推定量から構成される区間が得られる確率。

観測値 x_1,...,x_n を得て, θ_L および θ_U の実現値 {θ_L}^*=T_L(x_1,...,x_n){θ_U}^*=T_L(x_1,...,x_n) を計算して具体的な信頼区間 ({θ_L}^*,{θ_U}^*) を得たとき,区間 ({θ_L}^*,{θ_U}^*)θ を含む「確率」が (1-α) ,というのではない.

↑ここでの信頼係数は、推定値(推定量の実現値)を得た(具体的な信頼区間)場合の解釈。

【メモ】3vs196?――有害事象の比較

www.sanspo.com

↑この記事関連

まとまった検討記事を書こうと思ったのですが、資料や裏取り等が不足していて、各論点に関して充分に根拠に基づいたものを完成させるには至らなかったので、検討出来た部分までをメモとして残します。考察の材料にでもなさってください。

まず、冒頭に張った記事。

新型コロナウイルスワクチンの安全性に懸念を訴える全国の医師ら計450人が24日、連名で接種中止を求める嘆願書を厚生労働省に提出した。

↑こういう内容。簡便なフォームを用いた募集で、賛同者の実際の素性は不明であったりしますが、それはともかく、このような動きがあり、それが報道された事は重要です。

www.clinic-toku.com

↑発起人の高橋氏による、当該記者会見についてのリリース。ここに、ワクチン接種に反対する主な論拠が書いてあります。

厚労省はHPで新型コロナウイルスの無症状感染の可能性を指摘しています(1)。しかしながら、厚労省がその根拠とする台湾からの論文(2)には、無症状感染の確率は0.4%であると報告されています。無症状感染の確率は皆無であるとの報告もあります(3)。したがって、無症状の新型コロナウイルス感染者と濃厚接触しても、感染しない確率は99.6%以上です。

新型コロナウイルス感染症による死亡率は、0% (30代以下)、0.1% (40代)、0.1% (50代)、0.7% (60代) 、3.2% (70代) 、 11.1% (80代以上) です(4)。このように死亡率がごく低いにもかかわらず、国民全員に対してのワクチン接種には大きな疑問があります。

平成30年、5,250万人の日本国民がインフルエンザワクチンの接種を受け、3名の死者が報告されています(5)。約1,300万人の日本国民がコロナワクチンの接種をうけていますが、すでに接種後196名の死亡例が確認されています(6)。若年層(50歳以下)の死者も18名(9%)存在します。

↑各主張について、色々批判的に検討は出来ますが、本記事においては、

平成30年、5,250万人の日本国民がインフルエンザワクチンの接種を受け、3名の死者が報告されています(5)。約1,300万人の日本国民がコロナワクチンの接種をうけていますが、すでに接種後196名の死亡例が確認されています(6)。若年層(50歳以下)の死者も18名(9%)存在します。

↑この主張を検討します。※ここでは、高橋氏らの素性(これまでの主張や、採用している療法など)の検討は一切おこないません。それは別議論ですから

まずおさらい。副作用(ワクチンでは副反応)有害事象は異なります。後者は、何らかの処置の後に発生するあらゆる好ましく無い事象を指しますが、前者は、処置と因果関係にある好ましく無い事象を指します。副作用はもっと一般的には、処置に期待する効果(主作用)以外の作用全般を含む場合もありますが、ここでは、有害事象の一部と捉えます(だから、副作用⇒有害事象 とする)。

ワクチンの議論において、副反応と有害事象を混同した意見が入り、全く噛み合わない事があります。ワクチン接種の後に死亡例が n 件報告された時、その n 件の死亡を副反応と看做す、といったようなものです。今の流れで言えば、196名の死亡をワクチンの副反応によるものであるとする意見がそうですね。

高橋氏らの主張も、一見はそれと同様に見えます。もしそうであれば、副反応と有害事象とを混同した意見なので、その時点で主張は却下されます。ただ、引用文を見ると、インフルエンザワクチンとの比較をしています。そこで参照されている厚労省の資料はこれですが↓

【PDF】平成 30 年シーズンのインフルエンザワクチン 接種後の副反応疑い報告について

この資料は、副反応疑い報告資料であり、

医療機関において,インフルエンザワクチンによる副反応疑い報告基準に該当する症状を診断した場合は,因果関係の有無に関わらず,医療機関から厚生労働省に報告することとされています。

↑こう書かれています(強調は引用者)。つまり、報告されたのは有害事象です。これを踏まえれば、高橋氏らが主張しているのは、単純に副反応と有害事象とを混同しているのでは無くて、

報告された有害事象同士を比較している

と見る事が出来ます。だから、インフルエンザワクチンと新型コロナウイルスワクチン接種後の死亡報告を比較して、後者が圧倒的に多いので、接種中止の論拠にしています。

こうすると、

同じような指標を比較しているのだから、一見尤もらしそうに思える

かも知れません。ありがちな、副反応と有害事象との混同とはレベルが違った主張と捉えられますから。だから、そこをもう少し詳しく検討します。

重要なのは、

ほんとうに同じような指標か

という所。副反応疑い報告は有害事象報告ですから、同じように比較出来るか、という所。報告の手順は、こちらに書かれています↓

www.mhlw.go.jp

新型コロナウイルスワクチンはこちら↓

www.mhlw.go.jp

法的な根拠や手順は共通しています。で、だから両者における報告が同じようになされるかと言うと、そうでは無いと思われます。

厚労省の資料によれば、2018年シーズンでの推定接種者数(回分)は、52,511,510です。そして、死亡報告数は3。ここ、よく考えてみてください。

もし、ワクチン接種後の有害事象が可能な限り漏れないよう報告されるのだとすれば、死亡者数が少な過ぎる

と思いませんか? インフルエンザワクチンは、1回または2回接種で、2回接種は一部ですから、数千万人に接種されたと考える事が出来ます。そして、数千万もの人を対象にしているのに、死亡者が3です。有害事象はあらゆる原因による好ましく無い事象なのですから、数千万人調べて死亡者が3人というのは、網羅的に捉えられているとすれば、少な過ぎるという意味でおかしい訳です。

新型コロナウイルスワクチンの副反応疑い報告における死亡例は前掲ページ内の資料に挙げられていますが、そこには、自殺や溺死、老衰や、ゼリー誤嚥による窒息死、のような例もあります。つまり、恐らく因果関係に無いであろう死因の死亡(資料での検討はβ)でも、積極的に報告される情況にあると推測されます。厚労省ページにも、

○副反応疑い報告では、ワクチンと関係があるか、偶発的なもの・他の原因によるものかが分からない事例も数多く報告されます。透明性の向上等のため、こうした事例も含め、報告のあった事例を公表しています。

↑このように書かれています。

ここまでをまとめると、

  • インフルエンザワクチンの副反応疑い報告は、典型的な副反応として知られているもの以外は報告されにくい(されているなら死亡数が少な過ぎる)
  • 新型コロナウイルスワクチンの副反応疑い報告は、新興で、パンデミックが進行中の感染症に対するものであるから、より網羅的に報告されやすい

このようになっていて、それをそのまま比較するのは適当で無い、と考えられます。

ただ、ここの実際の報告のされかたについては、医療者で無い私には捉えにくい所があります。ここは、事情に通じているかたのフォローが欲しい所です。

しかし、現状の報告の実態については不明点があるものの、インフルエンザワクチンの有害事象に関しては、

より網羅的に報告される場合には、多くの死亡件数が報告される

事例を挙げる事が出来ます。まず韓国の事例です↓

www.nikkei.com

cubeglb.com

要約すると、2020年、韓国においてインフルエンザワクチンの接種がおこなわれ、

  • 1週間で30人死亡
  • 1ヶ月で108人死亡

↑このような、接種後の死亡報告がおこなわれたものです。接種の分母は2000万弱ですから、厚労省資料にある、5200万回接種で死亡数3というのとは、全然割合が違います。様々な理由で死亡する事を考えれば、韓国における報告のほうが、有害事象の網羅的報告としては妥当である、と言えます。日本での新型コロナウイルスワクチンの接種数は3700万回くらい(新型コロナワクチンについて | 首相官邸ホームページ)で、報告死亡数は350人くらい(ワクチン接種後の死亡事例 356人 専門家「メリットとリスク総合的に判断」)ですから、有害事象の報告としても、すぐに特段に多いと評価出来るものではありません。

また、日本の事例もあります。2010年、新型インフルエンザワクチン接種に関するものです↓

www.yakuji.co.jp

2283万回接種して、2428件の副反応があった。うち、重篤例は416件で、死亡は133件

↑このように、2200万回の接種で、133件の死亡が報告されています。これを見ても、インフルエンザワクチン接種5200万件で死亡数3は(網羅的に報告されたのだとすれば)少な過ぎるし、新型コロナウイルスワクチン接種後の死亡数も多過ぎるとは言えません。

平成30年、5,250万人の日本国民がインフルエンザワクチンの接種を受け、3名の死者が報告されています(5)。約1,300万人の日本国民がコロナワクチンの接種をうけていますが、すでに接種後196名の死亡例が確認されています(6)。若年層(50歳以下)の死者も18名(9%)存在します。

↑この主張のみを検討するのに随分長い分量を要しましたが、ここまで書いてきた事を踏まえるならば、上記引用文のような主張は、新型コロナウイルスワクチン接種を中止する根拠足り得ない、と評価出来るでしょう(新型コロナウイルスワクチンによる死亡は無いとは言っていない、事に注意)。

参考資料:

www.mhlw.go.jp