ビジネス統計学

ビジネス統計学【上】

ビジネス統計学【上】

ビジネス統計学【下】

ビジネス統計学【下】

今読んでいます。

内容は、題の通り、ビジネス関連の統計学の教科書です。定評のある教科書らしく、欧米のビジネススクールでも使われているとか。

上下巻合わせて800ページくらいなので、結構大部ですが、それでも原著から内容が削られているそうです*1
まだ読み中ですが(実は以前もパラパラめくったけど、精読しなかった)、類書の中でも、説明がとても丁寧で明瞭だと思います。今から統計を始めようか、という人がいきなり独学に使うのは難しいかも知れませんが、きちんと勉強するのにひとつ参照してみようか、という場合に良いのではないでしょうか。
これは向こうの教科書の特色なのかは判らないのですが、理論的な事を具体的な例や現象と結びつけて説明しようとしてくれています。しばしば、教科書では理論の羅列になりがちですが、具体的丁寧に解説してもらえると、初学者・独習者としてはとてもありがたいです*2

用語の説明も非常に丁寧です。たとえば、信頼区間の説明の部分を引用してみます。※上巻のP269-270より引用。修飾は原文の通り(色は近そうなものを選択した)。

 前章では、標本統計量が、母数の推定量としてどのように用いられるかをみた。母数の点推定値とは、推定量から得られるたった1つの値であると定義した。また、推定量や標本統計量が、ある特定の確率分布、すなわち標本分布に従う確率変数であることを学んだ。実際に得られた点推定値は、確率変数の1つの実現値にすぎない。したがって、問題としている母数について点推定値のみを示すのでは、推定過程の「精度」に関する情報を、何も提供していないことになる。
 たとえば、標本平均が550であるというのは、母集団平均の点推定値を述べていることになる。この推定値は、μとその推定値550とがどの程度近いのかについて、何も述べていない。一方、「μは信頼度99%で、[449,551]の区間内にあると確信している」と述べた場合はどうだろうか。このように述べた場合、μがどのような値をとりうるかについて、はるかに多くの情報を含んでいる。「μは信頼度90%で、[400,700]の区間内にあると確信している」という区間と比べてみよう。この区間はμのとりうる値について、より少ない情報しか与えていない。それは、その区間が前者よりも広く、かつ信頼度の水準が低いからである(しかしながら、同じ情報に基づいた場合、信頼度がより低い区間は、より狭くなる)。

 信頼区間(confidence Interval)とは、未知の母数をその範囲内に含んでいると考えられる範囲の数値である。区間には、その区間が実際に対象となる母数を含んでいることに対してどの程度信頼できるか(確信が持てるか)を示す値が同時に示される。

 統計量の標本分布を見れば、その推定量がとりうる値の区間についての「確率」を知ることができる。実際に標本が抽出され特定の推定量が得られた後には、この確率は、推定した区間が未知の母数を含んでいることの信頼度(level of confidence)に変換される。

どうでしょう。信頼区間をこのように丁寧に解説してくれる初学者向けの本は、あまり見ないように思います。とにかく、色々な概念を、なるだけ丁寧に、かつ明瞭に説明しようという著者の志向が見えて、好感が持てます。
下巻では、経済系の教科書らしく、時系列分析と予測に結構紙面が割かれています。これは、私の勉強が足りない部分でもありますので、個人的にありがたいですね。他にも、分散分析や回帰分析、ノンパラメトリックな方法など、一通り押さえられているという感じです(多変量解析は重回帰分析くらいかな)。

ボリュームと内容を考えれば、1冊あたり4200円というのは、この種の本にしては、かなりお手頃なのではないかと思います。Amazonレビューでもなかなか評判が良いようですし、一度手に取って読んでみてはいかがでしょうか。

色々な分野で、こういった良質な教科書が出版されるといいなあ(願望)。

*1:ベイズ統計と品質管理の部分が削られているようで、個人的にはとても残念

*2:数理的な所をきっちりやりたい人にとっては冗長なんでしょうが、それはまあ、適材適所というやつです