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津田敏秀氏の見解への誤解と謝罪

ここ最近のエントリーは、NATROMさんの 陽性反応的中割合と「100%引く偽陽性率」を取り違えた甲状腺癌数の - NATROMの日記 をきっかけにして書いたものでした。それらのエントリーは、確率の基本的な所の復習と説明という意図で作ったもので、前々からやろうと思っていた事だったので、その部分については、ある程度出来たかな、と思っているのですが、今日、そのきっかけとなったNATROMさんの記事の内容を見直す必要があると考えるに至ったので、そこについて説明します。
NATROMさんは、疫学者の津田敏秀氏が、陽性反応的中割合と「100%引く偽陽性率」を取り違えた(タイトルより)として、診断における2×2分割表と、それに対応する各概念の説明をなさっています。津田氏が誤っているとされる根拠は、甲状腺がん「被曝の影響、否定出来ず」〜疫学専門家インタビュー | OurPlanet-TV:特定非営利活動法人 アワープラネット・ティービー に掲載されている、

今回、甲状腺がんが確定した3人のほか、細胞診断によって7人に悪性または悪性の疑いがあることが発表されている。甲状腺がんの場合、擬陽性と偽陰性がそれぞれ10%ある。このため、福島県立医科大は、今後、手術を終え診断が確定てから全てのデータを発表するという。がん治療学会の「甲状腺がん診断ガイドライン」によると、偽陽性が生じる割合その多くは,濾胞性腫瘍の場合で、手術によって切除し、組織細胞を病理診断するまで、腺腫様甲状腺腫かどうかの判別がつかない。
 
こうしたことを考慮した上で、この7人について質問したところ、津田教授は、確率的に考えると6.3人が甲状腺がんと診断される可能性があり、これまでに3人とあわせると、甲状腺がんは9人または10人になると回答。また、細胞診断を終えて通常診療になっている60人余りの中に、偽陰性で、甲状腺がんと診断されていない子どもが10%いることも指摘した。
※強調は引用者。原文ママ

この部分と、埋め込まれている動画における津田氏の発言、

津田
まあ、あの、偽陽性例というのは、本当はガンじゃ無いんだけれども、ガンだと判断、してしまった、細胞診によって……発生した、例である。
聞き手
じゃあそれが、10%?
津田
10%。10%という割合は、これはまあ…100% - 陽性反応的中…割合と言うか、パーセント……の、数字なんですけどね。

のここです(8:19辺りを文字起こしした)。
で、私も、記事と動画を観て、
津田氏は偽陽性割合概念と陽性的中度をつい勘違いして発言した
というように読んで、NATROMさんの意見に賛同しつつ、エントリーを書いたのでした。専門家すら誤ってしまう事もあるのだ、という教訓でもあるのかな、と思いつつ。
ところが今日、このようなものを見つけました。
きんようブログ|週刊金曜日» ブログアーカイブ » 福島県での甲状腺がん検診の結果に関する考察 ver.3.02
これは、週刊金曜日のサイト内のブログで、リンクされているPDFファイルは津田敏秀氏によるものです。ここに、当該部分についての説明と考えられる部分があるので、引用します(引用元:福島県での甲状腺がん検診の結果に関する考察 ver.3.02 【PDF】※強調は引用者)。

さて、この甲状腺がん3例という数字ですが、すでに手術が終わって切り出した甲状腺から病理組織診断でがんを確認した症例とのことです。記者会見からの情報によりますと、実際は、病理細胞診断によりがんが見つかっている症例は、この3例以外にさらに7例あります。記者会見の中で、甲状腺検査を担当している鈴木教授は、病理細胞診断においては「細胞診では10%の偽陽性、10%の偽陰性があり、確定診断とはならない。手術を行った3名に関しては病理検査を行い確定している」と説明しています。この「約10%の偽陽性」(診断学で使う医学用語では、「100−陽性反応的中割合」(%)後注1参照)という数字から、この福島県立医大での残りの7名が甲状腺がんである確率は90%となり、その予想数は6.3人となります。すでに手術した3例と併せると、甲状腺がんの症例数は9例もしくは10例ということになります。なお、2月13日付け毎日新聞は、偽陰性の確率(診断学で使う医学用語では「100−陰性反応的中割合」(%))まで差し引いて約8割と書いていますが、この7例は陽性の患者さんですので、偽陰性の分まで差し引く必要はなく、偽陽性の分である10%を引くだけで構いません。

まずこのように書いてあります(資料中P3)。この「約10%の偽陽性」(診断学で使う医学用語では、「100−陽性反応的中割合」(%)後注1参照)とあって、やはり変なのでは、と思うかも知れませんが、括弧書きしてあるように、後の部分に注意があります。それを引用します。

後注1:偽陽性偽陰性について
診断の正確さに関する用語としては、診断学の基礎において、下記の後注1の表のように定義されています。検査の性能を示すのは感度と特異度です。前者は、本当にがんの人が細胞診で陽性と判断される割合で、後者は、本当はがんではない人が細胞診で陰性と判断される割合です。一方、実際の医療現場で役に立つのは陽性反応的中割合と陰性反応的中割合です。前者は、細胞診で陽性と判断された人が本当にがんである割合で、後者は、細胞診で陰性と判断された人が本当にがんではない割合です。
感度と特異度は、施設における有病割合に影響を受けませんが、陽性反応的中割合と陰性反応的中割合は施設における有病割合に影響を受けます。従いまして、「この偽陽性10%、偽陰性10%」というのは、細胞診を実施した施設、恐らく福島県立医科大学付属病院に固有の値であると考えるべきでしょう。
なお、偽陽性率は通常、b÷(b+d)、偽陰性率は通常、c÷(a+c)ですので、鈴木教授が「細胞診では10%の偽陽性、10%の偽陰性があり、確定診断とはならない。手術を行った3名に関しては病理検査を行い確定している」と言われた「偽陽性」、「偽陰性」を、偽陽性率と偽陰性率と読むことが出来る可能性も考慮に入れなければなりません。ただその場合には有病割合などの追加情報が必要ですし、上記の言い方の文脈からしても、「10%の(100−陽性反応的中割合)%」および「10%の(100−陰性反応的中割合)%」と読み替えた方が妥当と判断しました。 ※資料P8

つまり津田氏は、「この偽陽性10%、偽陰性10%」というものを、「10%の(100−陽性反応的中割合)%」および「10%の(100−陰性反応的中割合)%」と読み替えたという事のようです。ですから、
陽性反応的中割合を100% - 偽陽性 ←語はNATROMさんに従った
と誤ったのでは全く無い、と言えます。文脈を参照すると、文と表であらかじめそれぞれの概念と用語を説明した上で、「ここでの10%100−陽性反応的中割合[%]の事だとする」という「断り」を入れている、と解釈する事が出来ます。
もしこれが、「偽陽性率は」「偽陽性割合は」とインタビュー内で表現していたら、「違う概念を指す用語を使うのは誤っている・不用意だ」となるでしょうけれども、上で文字起こししたように、津田氏はあくまで、「10%。10%という割合は、これはまあ…100% - 陽性反応的中…割合と言うか、パーセント……の、数字なんですけどね。」としか言っていません。これは、ここではそのような意味で用いている、という言い方であったと考えられます。さすがに、その言い方は紛らわしい、と責めるような表現では無いと思います。
実は、週刊金曜日のサイトを見つける前に、別の方がWEB上にこの資料をアップした画像を見ていたのですが、その、紙資料を撮影した画像や、週刊金曜日のサイトにアップされている事、また、どうする? 放射線による健康被害への対応市民・専門家による提言【PDF】に同名の資料が参考資料として掲げられており、津田氏自身がそのセミナーに参加している、等の事から、これが津田氏が書いたそのものの資料であると判断しました。
以上を踏まえると、NATROMさんが考察した、津田氏が陽性反応的中割合と「100%引く偽陽性率」を取り違えたという解釈そのものが誤っている、と考えられます*1
という事は、私自身も、前のエントリー( 割合のはなし――陽性とか陰性とか - Interdisciplinary ※既に修正を入れてあります)で、津田氏が誤っているとして説明した部分自体が誤っていた、と言えます。ここで、当該部分をそのまま載せます。

おまけ――NATROMさんのエントリーを見る

2013年3月23日追記:津田氏の物とされる資料がWEB上にアップされていて( http://pics.lockerz.com/s/287518502 )、それを見ると、「10%を(1 - 陽性的中度)」の事だと「断っている」ように見えます(つまり、「ここで言っているのは」という文脈)。もしそれが本当に津田氏の書いた資料であれば(詳細不明)、津田氏が間違っていたのでは無く、聞いた側が余計な情報を補ってしまった可能性があります。とすれば、ここ以降の、津田氏が誤りだという指摘は当たらない事になります。

このインタビューでは、偽陽性率が10%という話に続いて、「10%という割合は、これは100%引く陽性反応的中割合というかパーセントの数字なんですけれどもね。7というのは陽性例ですので、7×0.9で、確率的には6.3例癌である」と津田教授は述べている。しかし、偽陽性率から陽性反応的中割合は計算できない。偽陽性率は、「100%引く陽性反応的中割合」ではなく、「100%引く特異度」である。陽性反応的中割合は「特異度や偽陽性率とは全く性質の異なる指標である」
陽性反応的中割合と「100%引く偽陽性率」を取り違えた甲状腺癌数の - NATROMの日記

強調は外しました。ここでNATROMさんが指摘しているのは(用語はこのエントリーで使っているものに直します)、

  1. 偽陽性割合は、100%引く陽性的中度では無い
  2. 偽陽性割合は、100%引く特異度である

という事です。今着目しているのは偽陽性割合なので、その割合を、先ほどの分数から引っ張ってきます。
   ×
──────────
  ×+×
で、「100%から何を引けば偽陽性割合になるか」と考えている訳ですね。分母は×+×ですから、

  • 分母が同じで、
  • 足しあわせれば分母と一致するような分子を持っている

ような分数を探せば良いと(100%とは、分子と分母が同じであるのを意味する)。で、それに対応するのは、×/(×+×)です。という事は、確かに特異度ですね。で、津田氏が言っている、「100%-陽性的中度」というのを考えると、まず陽性的中度は、/(+×)です。そして、これに足して1になる分数は、×/(+×)です。これを言葉に直すと、「陽性(+×)の内、偽陽性×)の割合」となります。「病気無し(×+×)の内、偽陽性×)の割合(偽陽性割合はこれ)」ではありませんね。

このように、津田敏秀氏が専門用語の意味する概念を誤って用いたと看做し、それを前提として論を進め、自分自身が誤解を招いた事について、津田氏及び読者の皆さんにお詫び申し上げます。

補足

これは、
津田氏による、鈴木氏の説明の解釈
を云々するものではありません。そうでは無くて、
津田氏は診断学的な概念を誤用したか
という観点です。津田氏が説明をどう解釈したか、は別の話。津田氏が鈴木氏の説明を誤解した、かつ診断学的な用語の誤りはしていない、というのは成り立ちますので。

*1:これは、NATROMさんによる、診断学にまつわる確率の説明が誤っている、のでは無いです