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なぜ致命割合ではいけないか――過剰診断バイアス

前のエントリー検診の効果と過剰診断 - Interdisciplinaryでは、検診の効果を確かめるために、死亡割合を評価する、という事を紹介した。
確率的操作によって同質にした2群について、着目した疾病が原因で死ぬ人の割合が同じくなるはずが、検診をおこなった群にて割合が小さければ、検診に効果があると看做す、という寸法である。

ところで、死亡に関する指標には、死亡割合の他に、致命割合(致死割合)というものがある。死亡割合が、人口に占める死亡者の割合であるのに対し、致命割合は、疾病に罹った人に占める、その疾病による死亡者の割合である。
一般に、検診の効果を考える場合には、前回紹介したように、死亡割合で評価され、致命割合は用いられない。それはなぜか。

いま、確率的に2つに分けた群について、片方にだけ検診をおこなう、という場合を考えよう。
前回書いたように、この2群は、確率的にメンバーを振り分け、なるだけ等質になるようにしたものである。いまは、概念を掴む事を目的としているので、理想的な情況を考え、上手く同じ集団が出来た、と想定する。参考書によっては、全く同じ集団に対して、検診をおこなった場合とそうで無い場合は、と想定する場合もある(タイムマシンがあったとして、など)。

2群について、疾病に罹る人の割合は同じである。その内訳は、

症状が出現しない人 + 症状が出現する人

となる。そして、検診の効果は、その疾病によって死亡する事を回避出来るかで評価するから、その疾病での死亡者数に着目する。2群は同質の集団であるから、

その疾病による死亡者数 ÷ 群人口

は同じになるはずである。この指標が、死亡割合である。それで、この、同じになるはずの死亡割合が、検診群にて低くなるのであれば、検診が効果を発揮した事が示唆されるのである。

次に、致命割合で考えてみよう。致命割合とは、疾病に罹った人に占める、その疾病による死亡者の割合であった。書き直すと、

その疾病による死亡者数 ÷ その疾病に罹った数

こうなる。ここで、分母に着目する。分母は、その疾病に罹った数と書いてあるが、これを言い換えると、

疾病に罹った事が《発覚した》人の数となる。前回説明したように、症状が出現した場合は、医療機関を受診して、疾病に罹った事が発覚するが、そもそも症状が出なければ、疾病に罹っていても、それが見つからない、という事があり得るのである。
検診の目的は、症状が無い人の疾病を見つけるのが第一段階であるから(最終的な目的は、早期発見によって救命や延命をする事)、症状が出るはずの人のみならず、症状が出なかったはずの病気の人をも見つけてしまう。これを、過剰診断と言う。

検診した群では、理想的には、検診時点で、疾病に罹った人全てを見つける事が志向されるから、過剰診断分が余計に発覚する。すると、致命割合は、

検診群
その疾病による死亡者 ÷ (過剰診断数 + 症状が出るはずのものを発見した数 + 検診で発見出来なかったが症状が出て発見された数)
無検診群
その疾病による死亡者 ÷ (症状が出て発見された数)

このようになる。この内、検診群における症状が出るはずのものを発見した数 + 検診で発見出来なかったが症状が出て発見された数と、無検診群の症状が出て発見された数は同じであるから(検診群は、早く見つかるものがあるかどうかが違う)、検診群の《分母に過剰診断分が上乗せされる》のだと言える。ところが、過剰診断はもちろん、その病気では死なないのであるから、その検診が効果の無いものだとしたら、過剰診断分が増えて分母が大きくなっても、検診群の分子は変わらない。分子が変わらないのに分母が大きくなるという事は、

割合が小さくなる

のを意味する。この割合とは致命割合の事だから、

検診が無効であっても、過剰診断分が増えれば割合が小さくなる

こう言える。つまり、検診に効果が無いのにも拘らず、症状すら出ない病気を見つける事によって、指標としている割合が小さくなるのである。そうであるから、致命割合を、検診の効果の指標として考えてはならない。
ちなみに、いまは致命割合と表現しているが、これは、死亡割合に合わせて用いていたもので、実際には、延命や救命の効果に着目する場合は、生存割合の方がよく使われる(致命割合は、疾病の危険さを表現する場合に使われる)。これは単純に、分子を、死亡者数から生存者数に入れ替えたものである。だから、生存割合は、1 から致命割合を引けば求まる。

いま見た例は、検診をおこなう事によって、分母が違ってしまうという場合である。このように、過剰診断によって、片方の指標に偏りが出てしまう事を、過剰診断バイアスと呼ぶ。実際には検診による救命・延命効果が無い場合でも、過剰診断が分母を大きくする事によって、恰も検診が有効であるかのように見せかけてしまうのである。
いや、それどころか、仮に、検診が有害であったとしても、つまり、検診群の方が死亡者を増やしてしまう場合でさえも、過剰診断数がとても大きければ、結果的には、致命割合なる指標を薄めてしまう事もあり得るのである。

このように、検診の効果を確かめるという文脈では、指標としては、致命割合では無く、死亡割合を用いるべきであるという事に、注意しておく必要がある。

参考文献:

過剰診断: 健康診断があなたを病気にする (単行本)

過剰診断: 健康診断があなたを病気にする (単行本)

  • 作者: H.ギルバートウェルチ,スティーヴンウォロシン,リサ・M.シュワルツ,H.Gilbert Welch,Steven Woloshin,Lisa M. Schwartz,北澤京子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/12/15
  • メディア: 単行本
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