ゼルダの感想

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド

クリアしたので。

本当に、よくあれだけのゲームを作り上げたものだ、と思いました。

つらつらと感想

※以下、本タイトルを単に「ゼルダ」と略します
※ラストまでの内容について書きますので、未プレイ・未クリアのかたはご注意ください

グラフィック

モデリング・モーション・レンダリング、全てにわたってよく考え込まれ、作り込まれている、と感じました。 前にも書きましたが、モーション、言い方を換えると動きですね。動きと動きとの繋がり、細かい動作の作り方、など。

最近は良いゲームが沢山出ていますが、まだまだ気を遣って作っていないな、と感ずるものも見ます。ゼルダの場合は、レンダリングはセルシェーダ寄りだけど動きは ある程度動物の動きを忠実に再現する、という方向性で、見事に独特の世界を作り出しています。トゥーンリンクからの表現が生きているのでしょうか。
馬などの動きもよく出来ている。走っている速さによって歩法が変化しますし、乗っているリンクも、馬の動きや周りの環境に応じて、視線や体勢がきちんと変化します。昔の、エポナに乗ったリンク、を思い出すと、感慨深いものがあります。

動物系の動きは、たぶん実際の動物の運動をよく観察して反映させているのでしょうね。神獣も、機械であるのに動物のような動きを表現出来ています。国内のゲームだとMONSTER HUNTERシリーズの出来が良いですが、あんな感じです。

人間の動きの面では、他の作品で気になるのが、前腕が長すぎたり、肩周りの動きが不自然だったりする所なのですが、ゼルダは、破綻せずよく作られていると思います。

あと、子どもの動き・仕草が途轍もなく可愛らしいです。走り回ったり遊んだり。よく作ったものです。

トーリー

ゼルダシリーズは、元々そんなに、ストーリーを緻密に描いて、という方向性では無く、本作も同様。私自身は、もう少し掘り下げたりしても良いかな、と思ったのですが、これは好みの問題かな。

それでも、クリアした時は、映画を観終わった時のような、独特の感情が起こります。

謎解き

今回は、祠を探して謎を解いていくのがメイン。シリーズにある、大きな迷宮を探索していく、というのは余り無いです。そういう意味では、長いダンジョンをクリアした、といった達成感は、そんなに味わえないですね。ハイラル城はダンジョン風で、よくデザインされていますが、それでも、謎解き要素は特にありません。
神獣のギミックは良かったです。よく考えてるなあ、となりました。

祠はミニゲーム集的なもので、これが実によく出来ています。フィジックスを駆使したパズル、ですね。そこまでむちゃくちゃ難しい訳では無いけど、そこそこ頭を使わないと出来ない、という絶妙さ。

クエスト

メインクエスト・ほこらクエスト・ミニクエスト の分類。
私が思ったのは、もう少し、クリアしがいのあるクエストが欲しかったかなと。多くは、祠が見つかる、とかルピーが貰える、といった報酬なので。バリエーションがあって欲しかったかも。

アクション

もう少し難しくて良かったと思います。ボス戦が物足りなかったかな。いや、人によるでしょうけれど。私は、何度もやられてやっと勝てる、死にゲー一歩手前、くらいがちょうど良いと感ずるので。

最後の敵は、展開や演出は大変熱いのですが、戦闘自体は、もっと歯応えが欲しかったです。あれのタイミングはシビアですが。

効果の高い回復アイテムを容易に生成出来るゲームは、難度を格段に下げますね。FFで言うと、エクスポーションが簡単に作れる、という感じ。マックス系料理だと、エリクサーがポンポン作れる。回復アイテムをメニュー画面から使うので、その意味でもタイミングが簡単で、ヒヤヒヤしながら回復、といった局面がそんなに無いです。

システム周り

操作系は、かなり練り込まれています。やはりゼルダですね。

ただ、矢の誤射は結構起こりますね。

装備に関しては、お気に入りセットを登録出来たほうが良かったと思います。天気や地形、敵攻撃の属性によって、頻繁に装備を換えるので、その度にメニュー開いて一つずつ、というのはちょっと煩わしいものがあります。

武器の破損(消失)システムは、賛否ある所でしょう。私は、武器に耐久度があるのはシステム的に面白くなっていると思いますが、もう少し壊れにくくても良かった。バンバンぶっ壊れます。

音楽

とても良いです。ピアノメインで、でしゃばらず、かと言って静か過ぎず。

演技

ゼルダ役の嶋村侑さんの演技が、本当に、本当に素晴らしい。高貴さと幼さとを併せ持った声。自身の未熟さを認めつつも、宿命付けられた役割を全うしようと足掻く、そんな心情の表現。お見事でした。

ありがとうございます

これだけの見事なゲームを作るというのは、素人には想像もつかないほど大変な事だったのでしょうね。素晴らしいスタッフの妥協しない芸術品創りのお蔭様で、代え難いゲーム体験が出来ました。とにかく感謝です。

がん検診に害は無いのか

はじめに

国立遺伝学研究所の川上浩一教授が、内科医のNATROM氏とのやり取りにおいて、次のように発言なさっていました。

「早期発見」が悪いとする根拠はないでしょう。検診(集団検診)はその手段で、検診自体には害はあるはずはないです。

(強調は引用者によります)川上氏によれば、検診に害はあるはずはないとの事です。
昨今、福島県における甲状腺がん検診にまつわる議論などで、いわゆる過剰診断が取りざたされる事があります。がん検診のように、実験に準ずる方法をおこないにくい分野において、その効果や害がどの程度か、という事について議論を戦わせるのは重要であると思います。しかし、検診自体には害はあるはずはないといった主張は、検診の益を主張するものの中でも相当強い部類の意見です。少し考えても、あなたは がんですあなたは がんかも知れませんと言われた場合の心理的負担は相当なものであるという事は想像がつきます。いくら何でも、検診に害が無いというのは、見方が素朴に過ぎるのではないでしょうか。

本記事では、まず、検診において生ずると考えられる害について紹介し、次に、検診を研究・普及・推奨する組織が検診の害をどのように周知しているか、また、検診に関連する学問――疫学や公衆衛生学――の教科書でどう説明されているか、を見ていきます。

検診の害

検査による侵襲

医学的な行為によって身体に影響を及ぼす事を、侵襲と呼びます。検査によって侵襲の程度は様々です。超音波のように比較的低侵襲のものもあれば、直接身体に針を刺したりする場合もあります。また、画像診断などは、放射線に曝露(被ばく)されます。

偽陽性(誤った陽性)

検診を便宜的に、

  • スクリーニング:病気が疑われる人以外の篩い落とし
  • 精密検査:病気のある無しを確定させる診断

このような段階に分ける場合があります。この最初の段階のスクリーニングでは、病気が疑わしい人を拾い上げ、それ以外の人を篩い落とす検査をおこないます。この時、病気があるのに見逃されるのは非常に問題なので、病気が無いのに病気があるかもと判断されるのをある程度許容して検査がおこなわれます。この、病気があるかもと判断される事を、陽性であると言います。そして、病気が無いのに陽性になるのを、偽陽性と表現します。陽性という判断が誤っていたという事です。

偽陽性であれば、少なくともスクリーニングから、精密検査で診断が確定するまでの間は、自分が がんであるかもと考えながら過ごします。これは大きな心理的負担です。健康診断で要精密検査との結果が出て沈み込んだ、という経験を持つかたもあるでしょう。

このように、自分が病気であるかも(病気で無いかも)と判断される事による心理的な働きの事を、ラベリング効果と言います。病気であるかも、というのは好ましく無い事ですから、ネガティブなラベリング効果と表現されます。

偽陰性(誤った陰性)

陽性とは逆に、病気は無いだろうと判断される事を、陰性と言います。と言う事は、偽陰性とは誤った陰性、つまり、病気があるのに陰性にされるのを表します。いわゆる見逃しです。

偽陰性は見逃しですから、当然、病気があるのに治療がなされないのを意味します。ですから偽陽性の所で説明したように、スクリーニング(一次検診)では、見落としをしないように、ある程度偽陽性が出る事を許容します。

過剰診断(余剰の発見)、過剰治療(余計な処置)

がんと一口に言っても、それには色々な種類があります。その中で、成長が止まったり、自然に消えてしまう(自然退縮)ものや、成長が遅くなくとも罹ったのが高齢である場合などは、がんに罹っても症状が出ない、言い換えると、他の原因で死ぬ事があります。これは、その がんが、見つけなくても身体に影響しなかったのを示します。つまり、その発見は余剰であったという事です。これを、過剰診断と言います。

厄介なのは、がんは、見つけた時点では経過が精密には判らない所です。従って、より安全側で対処するために、多くは手術などがおこなわれます。そして、病気の発見が過剰診断の場合、おこなわれた処置はやる必要の無かったものですから、それは余計な処置です。これを過剰治療と言います。つまり、過剰診断の多くは過剰治療に繋がる可能性があります。
また、過剰診断であるが、手術などの処置をしなかった場合(経過観察)も、心理的な負担が当然かかりますし、それだけでは無く、通院や検査などに伴う経済的負担も生じます。ケアする家族の負担もあるでしょう。

つまり、過剰診断が起こると、経過観察でも心理的金銭的な負担がかかるし、過剰治療もおこなわれた場合は、手術などによるダメージや後遺症が残る可能性がある訳です。しかも、過剰診断ですから、見つけた事によるメリット自体がありません。

偶発症(併発症)

検診に伴う検査や手術には、それによる意図しない害が起こり得ます。たとえば、身体に針を刺して検査する穿刺では、出血や 意図しない箇所に穴を空けてしまう(穿孔)可能性がありますし、手術などでもそれは同様です。
このようなものは、処置中に意図されない偶然的な害という事で、偶発症と呼ばれます。また、必要な処置と同時に起こる害という意味で、併発症などとも言います。

胃カメラなどの検査や、手術を受けた事のあるかたなら、検査や手術に伴うデメリットを、書面や口頭で説明されたのを憶えておられるでしょう。そこでは、出血や穿孔などの起こる頻度、起こった場合の危険性などが解説されています。そして受ける側は、その文面を読み、署名した上で、処置が実施されます。

検診に関わる組織による解説の実際

知っておきたいがん検診 ※日本医師会のサイト

がん検診のメリットとデメリット|知っておきたいがん検診

国立がん研究センター中央病院 (東京都 築地)

がん検診の特徴 << 国立がん研究センター中央病院

一般社団法人 日本消化器がん検診学会 JSGCS

がん検診(胃がん・大腸がん)Q&A|検診Q&A|一般の皆様|一般社団法人 日本消化器がん検診学会 JSGCS

国立がん研究センター がん情報サービス トップページ

がん検診について:[国立がん研究センター がん情報サービス]

日本対がん協会

検診のメリット・デメリット | 日本対がん協会

教科書における記述の実際

※大概の疫学や公衆衛生学の教科書ではスクリーニングの解説があり、そこでは偽陽性偽陰性が説明されている

基本からわかる 看護疫学入門 第2版

  • 偶発症(事故のリスク
  • 検査による被ばく
  • 偽陰性
  • ネガティブなラベリング効果(負のラベリング効果

臨床疫学―EBM実践のための必須知識 ※参照は初版

  • 偶発症
  • ネガティブなラベリング効果(負のラベリング効果):マンモグラフィによるネガティブなラベリング効果の研究を紹介

今日の疫学

  • 偽陽性
  • ネガティブなラベリング効果(陰性ラベリング効果*1
  • 偶発症・後遺症

ロスマンの疫学―科学的思考への誘い

まとめ

このように、検診を研究したり推進したりする組織のWEBサイトや、検診の基盤である学問の教科書では、検診に伴う害あるいはデメリットが説明してあります。検診は、これらデメリットと、得られるメリット(死亡する人を減らせるか、など)とを勘案して、どのような人々におこなうかや、推奨の程度が決められます。科学的根拠に基づくがん検診推進のページ では、各種検診のメリットデメリットを定量的に評価し、推奨のグレードが決められて、ガイドラインが作成されていますので、参照を勧めます。

検診について議論をおこなうならば、最低でも、これらのデメリットがある事、専門家もそれを認識している事、をまず押さえておくべきであると言えます。その上で、メリットデメリットがどの程度だと評価されているか、などを検討していく事が肝要です。
その意味で、検診自体には害はあるはずはないなどと主張してしまうのは、議論のスタートラインに立ててすらいない、と言えるでしょう。

*1:余談:私はこの文脈で陰性・陽性を訳語に用いるべきでは無い、と思っています