《スクリーニング効果》を使わない

↓2022年12月9日修正。履歴はコメント欄を参照

福島の検診で見つかった甲状腺がんは本当に増えているのか、それともスクリーニング効果過剰診断なのか、みたいな問いや議論は、雑と言うか、全く整理されていないものです。

また、そのような議論、あるいはそれに参加する論者には、論点や概念について整理するつもりも無いのではないかと思われるものも見られます。たとえば、twitterのリアルタイム検索を過剰診断で調べた時、その問題に頻繁に言及する人の中に、幾人か認められます。

↑修正終了

スクリーニング効果とは、シンプルには

疾病をDPCP(前臨床期内発見可能期間)にて発見する事

です。これは、当該の疾病が流行している事とは直接関係しません。流行していようがいまいが、無症状で発見したものは全てスクリーニング効果だからです。

では、福島で見つかったものはスクリーニング効果なのか、的に使う場合にはどういう意味が込められているのかと言うと、

福島において甲状腺がんは流行しておらず、増加した発見数はスクリーニング効果で説明出来る

このようなものです。要するに、疾病を無症状で見つけるという意味に、別の現象である流行していないとの意味をも付与して、効果とか説とかを表現に入れ論じている訳です。

しかるに、先ほども書いたように、定義上、無症状で見つかったものは全てスクリーニング効果です。敢えてその語を使うのならば、です。
だから、発見されたものが本当に増えているのか、それともスクリーニング効果なのかのような問い自体が雑なのです。

  • 増えているものをスクリーニング効果で見つけている
  • 増えていないがスクリーニング効果で見つけている

この、流行に関しては正反対の立場のどちらも成り立ち得るからです。

上に、敢えてその語を使うのならば、と書きましたが、私は使いません。そもそも、効果の語が入っているのが紛らわしいのです。と言うのは、検診の有効性なりの臨床的文脈では、効果とは実地臨床においてアウトカムを良い方向に変化させる事、たとえば、死亡率を下げたりといった事を意味するからです。
しかるに、スクリーニング効果は、早く見つける事をしか意味していません。早く見つけた事で予後を良くするか、は別の議論です(効能や効果の有効性議論)。

つまり、見かけ上の累積罹患割合すなわち発見割合が流行を想定しなくても説明出来る、のような複雑な現象について単にスクリーニング効果のように表現して論じようとするから、雑になって議論が噛み合わないのです。

過剰診断もそうですね。過剰診断は、スクリーニング効果によって発見されたものの部分集合ですので、話としては同じです。

スクリーニング効果も過剰診断も、流行していないとの意味が込められた用語では無いのです。たとえば、一生症状を現さない疾病が流行して、それに対して大規模な検診がおこなわれたら、

疾病が流行し、かつ大規模な過剰診断も生ずる

こういう現象も成り立ちます。流行は、症状を呈するものが特異的に増える事をただちには意味しないからです。

本当に、真面目に議論して、実際にどういう事が起こっているのかを把握したいというのであれば、着目している現象のありようや概念、そしてそれを指す用語について、よく吟味して共有すべきです。もう10年以上経っているんですよ。

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甲状腺がんのoverdiagnosisやoverdetection関連の論文を読めば解りますが、余剰発見も起きているだろうが真の増加もあるかも知れない、のように論じられます。環境なり肥満なりの要因によって発生率が増減する事は、当然あり得るからです。発生率が増加しているとして、その増加分がどのように分かれるのか、によっても余剰発見の程度は違います。予後不良のものと隠遁がんの割合は、発生率を増加させる要因に依存するかも知れません。どんな要因で増えようが無害のものしか増えないという意見もあるかも知れません。放射線事故は特異的に有害のがんを増やす、と言う人もいるでしょう。考える事はたくさんあります。

スミスさんの子ども

anond.hatelabo.jp

ある夫婦に2人子供がいる。片方の子が男であるとき、もう片方が女である確率は?

この種の問題の定番として、男女の生まれる確率が等しい(1/2)とします。実際の出生性比は異なるようですが、こういう問題では現象をシンプルに構成し直して、数学的構造に一致させて理解を促す訳ですね。要するに、完璧な(理想的・仮想的にしか設定し得ない)コインを2回投げたベルヌーイ試行を考えるって事です。だから、そうするよとちゃんと言って共有しなければなりません。

この前提だと、いまいる世界は、ある夫婦に生まれた2人1組の子どもが

  • (女, 女)
  • (男, 男)
  • (男, 女)
  • (女, 男)

のいずれかの世界であってそれ以外では無く、それぞれ全く等しい機会で与えられます。ここで、片方の子が男であるとき、なる条件が与えられるので、いまいる世界の可能性は、

  • (女, 女)
  • (男, 男)
  • (男, 女)
  • (女, 男)

こうなります。そして、問われているのはもう片方が女である確率です。確率は割合の事なので、

(男, 女)か(女, 男)
÷
(男, 男)か(男, 女)か(女, 男)

です。それぞれの世界にいる可能性は等しいので、割合は2/3です。

片方の子が男であるときとの表現が微妙なので、少なくともどちらかいっぽうが男のように書く場合もあります。ただ、直後にもう片方がと訊いているから、そんなに読み取りにくいものでもありません。

表現が女, 男だと、結果が順序対で構成されるのを理解しない向きもあるので、

  • (姉妹):しまい
  • (兄弟):きょうだい
  • (兄妹):けいまい
  • (姉弟):してい

としても良いです。漢字だとごちゃごちゃしますね。そうすれば確率は、

(兄妹)か(姉弟)
÷
(兄弟)か(兄妹)か(姉弟)

と表現出来ます。これだったら、その家の子たちは姉妹では無いと言ったほうが良いですね。どちらかが男の子であるなどと、意地の悪い言いかたをするものです(片方がどちらかがと言われるとXORで読みそうになる)。

この種の問題って、最初にひっかけ問題に違い無いとか問題文の細かい所を指摘しようみたいな心理も働きますね。だからこそ面白い、のかも知れませんが。

この問題、別の出しかたもあります。

ある夫婦に2人子どもがいる。その夫婦が子ども1人を連れて歩いているのを見た所、男であった。もう片方が女である確率は?

こんな感じ。答えは1/2です。何故なら、あり得る世界の可能性は、その夫婦の子どもの構成と実際に見た子どもとが

  • 兄弟で兄を見た
  • 兄弟で弟を見た
  • 姉妹で姉を見た
  • 姉妹で妹を見た
  • 兄妹で兄を見た
  • 兄妹で妹を見た
  • 姉弟で姉を見た
  • 姉弟で弟を見た

の8通りに分かれるからです。もちろんここでは、それぞれの子どもを見る確率は等しいという、よく解らない前提が必要です。で、男の子を見たのですから、いまいる世界は、

  • 兄弟で兄を見た
  • 兄弟で弟を見た
  • 姉妹で姉を見た
  • 姉妹で妹を見た
  • 兄妹で兄を見た
  • 兄妹で妹を見た
  • 姉弟で姉を見た
  • 姉弟で弟を見た

この4通りに絞られます。訊かれているのは、もういっぽうが女の子である確率(割合)なので、それは、

兄妹で兄を見た か 姉弟で弟を見た
÷
兄弟で兄を見た か 兄弟で弟を見た か 兄妹で兄を見た か 姉弟で弟を見た

となり、1/2です。

こういうので納得行かないのは、どうしても日常的現象に近づけて理解しようとするからですね。子どもが2人いると知っているのに男女構成や年齢を知らない事があるのか、などです。都合よく情報が無い訳です。だから、だとしたらと、現実からかけ離れた設定を、そういうものだと受け入れるのがポイントかと思います。

もう1つ面白い所。

先ほど書いたように、男, 女だと、結果が順序対というのが現象的に解りにくいです(慣れれば何とも無いですが)。同じように、コイン投げで表, 裏としても解りにくい。でも、子どものペアの場合、姉弟兄妹と、生まれた順序で表現を変える事が出来ます。更に同時に、現実的にはちょっと無理があるとは言え、目撃しても区別がつかないとの条件をも設定出来る訳です。これをたとえば、コイン投げで区別をつけようとして、金貨と銀貨を投げるとしたらどうでしょう。結果は、

  • 金表
  • 金裏
  • 銀表
  • 銀裏

このように区別しやすいですが、目撃するほうの問題を設定しづらい。だって、金貨と銀貨は一般に区別出来ますからね。これを区別出来ないよう設定するとなると、視覚を制限するような設定が必要となり、それは色々デリケートだし、思い浮かべる状況が、無駄に複雑となります。

2022年11月4日追記

増田についているトラックバック等を見て、片方なる表現について、もうちょっと考えてみました。

たぶん、問題を見て1/2と言う思う人は、

縦に切っている

のではないでしょうか。つまり、

  • 男-男
  • 男-女
  • 女-男
  • 女-女

↑これを縦に切って、

上の子
下の子

↑こう捉える。で、片方が男なので、

上の子
下の子

↑このように絞られ、上の子であるか下の子であるかも絞られると解釈する。そうすると、前者でも後者でも、もう片方の子が女である確率は1/2です。と言うか、その場合は、単に女の子が生まれる確率は?と問われているのと同じなので、問題に含まれる前提そのものです。