『「統合医療」のあり方に関する検討会審議会』第二回議事録の検討とお詫び
先日、統合医療推進の根拠と思想 - Interdisciplinaryというエントリーを書きました。そこでは、『「統合医療」のあり方に関する検討会審議会』の第一回議事録を読みながら、統合医療の思想的な部分や、統合医療評価にRCTが向かないという意見について検討しました。
その中で、第二回の会の内容を紹介した記事( 統合医療も「EBMで評価できる」−厚労省検討会で福井聖路加国際病院長(医療介護CBニュース) - goo ニュース )を採り上げ、
第2回の議事録が公開されれば、より具体的な理由(と統合医療支持者が考えるもの)が判明するかも知れません。
と書きました。
そして今日、第二回の議事録( 「統合医療」のあり方に関する検討会審議会議事録|厚生労働省 )が公開されていたのを読みました。
これを見ると、福井参考人は、極めて適切な事を発言しているように思います。以下、統合医療の評価について、という一般的な文脈に関連する所を引用してみます。
本題の安全性、有効性、経済性等に関する評価方法についてであります。確かにいろいろな報告書に、従来の考え方、つまり私たちが臨床疫学とか、EBM、エビデンス・ベースド・メディシンと呼んでいる考え方で評価するのは不十分との記載がございます。しかし、私たちが読むところでは、どうしてEBMといいますか、現在の考え方での評価が不十分なのか、その理由が書かれていません。
EBMとは、ランダム化比較試験であるとか、EBMとは、均一な治療法をすべての患者さんに適用しなければならないとか、症状などの全人的な効果についての評価はできないという、EBMの誤解に基づいて、EBMの手法では評価できないと結論している報告書が、実は大部分であるということがわかりました。
それから、TRM/CAMでは、治療による結果が定性的で、かなり主観的なものが多いというのも事実だと思います。また、治療の効果が非常に多種類にわたり、生存率とか、病気が治った治らないなどということだけではない、そういう複合的な点をどうやって扱うのかという点も指摘されています。しかしながら、これらの点は両方とも臨床疫学やEBMで精力的に研究が行われてきているところで、それなりの手法が開発されてきています。
そもそもEBMというのは、医学的根拠に基づいて、そのほかの要因も組み合わせて医療を行おうというものです。エビデンスを作る臨床研究の方法には、コホート研究や症例対照研究、ランダム化比較試験(無作為化比較試験)、データをいろいろ組み合わせるタイプの費用効果分析までいろいろありますが、研究の結論を、真実とは違った方向にもっていくバイアスが入りやすいか、入りにくいかによって、レベルづけをしようというのが、EBMの基本的な考え方ということになります。確かにRCT、無作為化比較試験は、一番結論が誤っている可能性が少ないものですから、もし、それができれば、それに越したことがないというのは事実です。しかし、臨床状は、ランダム化比較試験を倫理的な理由で行えない場面も少なくないため、そのような場合には、レベルは低くなりますが、異なる研究デザインを採用した研究の結果基づいて医療を行おうということを言っているにすぎません。レベルガ一番上のランダム化比較試験でなければだめというのは、最初から、EBMでは一言も言っていない話であります。
最後に1点だけ、先ほどの評価方法、研究方法の件につきまして、これは、「統合医療」分野だけの問題ではございません。我が国では臨床疫学や医療統計の専門家が育成されておりませんので、十分内容がわからないまま研究の方法論について発言される方が多いのではないかと思っております。
米国や欧州は、臨床家とともに研究方法の専門家が一緒に研究する体制が整えられています。我が国では研究方法の専門家が本当に少ないものですから、EBMや研究方法論について誤解が広まっているのではないかと思います。
いろいろな研究結果や調査データを統合するタイプの研究方法では、アウトカムを全部まとめる方法としては、例えば、効用値、ユーティリティーという概念だとか、主観的な評価を数値化する方法もいくつも開発されてきております。研究の方法論は、過去20年間ずいぶん発展してきておりますので、研究方法論の専門家とともに、「統合医療」も是非レベルアップをしていただき、外国の研究に伍する研究を行っていただきたいと期待しています。
○福井参考人 統合医療の分野では、循環器分野やがんの分野と違ってデータがまだ集積されていませんので、データを丹念に集積するという作業もしながら、重要なテーマについてはRCTをプロスペクティブに行うという、両方のタイプの研究を行うべきだと思います。地道な観察研究をやらないで、突然RCTをやろうというのは、むちゃな話です。ほかの分野はたまたま研究者も多いし、患者さんも多いし、データも集まっていますので、「統合医療」とは違ったステージにきているというだけで、「統合医療」も丹念に研究を積み重ねることで、今の循環器やがんの領域と同じレベルにエビデンスは高まっていくと思います。
○福井参考人 先ほども循環器やがんの分野ではエビデンスが出てきていると申し上げましたが、確かに「統合医療」の分野は、漢方も含めて、主観的な効果判定とか、複数のアウトカムを同時に見るとか、そういう意味では、がんとか循環器の場合よりも、やや複雑な評価が必要ですが、それでも同じ方法論の延長上で十分評価はできると思います。時間と人手とお金をかければ、サイエンティフィックな方法でできる部分はたくさんあると思います。
○福井参考人 はい、十分できると思います。ただ、西洋医学の場合と同様に、RCTができないテーマというのもありますので、全部がRCTでなければならないという考え方は、まず改めていただく必要はあります。
※「西洋医学の場合と同様に」と言っている所が重要
このようです。つまり、福井氏が言ったのは、「RCTが出来るに越した事は無いが、倫理的な理由などから出来ない場合がある。けれども、EBMとはRCTで無ければならないというのでは無く、色々な方法でもって総合的にエビデンスを積み重ねていくのが重要」というような内容だと読みました。そして、統合医療側が言っているような事は、既に「西洋医学(便宜的な表現として)」は踏まえていて色々の方法がある、と主張しているようです。
ここでCBnewsの記事に戻ります。
現在、治療のエビデンスを証明する実験方法としては、より正確に治療効果を判別できる「ランダム化比較試験(RCT)」が主流となっているが、従来の近代西洋医学に漢方やはり・きゅう、サプリメント療法などを取り入れた統合医療は、RCTで評価しづらいとされている。しかし福井氏は、「評価方法は、RCTでなければだめというわけではない」と指摘。被験者集団の健康状態を一定期間追跡する「コホート研究」などを例に、RCT以外の方法を用いるよう提案した。
こういう内容ですが、これを要約すると、
- 今の標準的な医療では、より正確に効果を調べられるRCTが主流となっている
- 統合医療と言われるものはRCTで評価しづらいとされている
- 福井氏は、評価方法はRCTで無くてはだめというわけではない、と言った
- 福井氏は、コホート研究など、RCT以外の方法「を」用いるよう提案した
となるでしょうか。
ここまで見た事を踏まえて見れば、CBnewsの記事は、「しかし福井氏が」という文章によって、「違う話が同じものであるかのように」要約されたのではないか、と思います。と言うのは、確かに上の3と4は福井氏の発言だけれども、2は、第一回にて統合医療推進の人々が言った事であるからです(福井氏は、統合医療でも「西洋医学」でもRCTがしにくいのはある、と言っているので、統合医療特有の性質として主張していない)。
この記事を読んだ時に私は、1から4まで丸ごと福井氏の意見であると解釈しました(RCT以外の方法「を」という書き方が、「RCTが不適当」という意味合いを感じさせた)。ですから、RCTでは評価しにくいがコーホートなら、とはどういう理屈なのだろう、と訝ったのです。
しかし、第二回の議事録を読むと、福井氏が言っているのは、RCTが出来るに越した事は無いが、それで無くてはならないというものでは無いし、まずRCT、という考えは改めた方が良い、という、極めて妥当というか真っ当な意見です。
ですから、私が当初認識した、「福井氏も統合医療をRCTで評価し辛いと言っている→その理由は寺澤氏らと同様(つまり、個人の反応云々という理由付け)なのではないか→その理由によって、“コーホートなら”と言うのはおかしくはないか」という論及び推測(疑い、と言って良い)は、福井氏に対して全く不当な評価であった、となります。
福井氏の見解や立場に対して誤解を招くような評価を行なってしまい、また、当ブログの読者の皆さんに対してそのような情報を与えた事について、大変申し訳無く思います。この場を借りて、お詫び申し上げます。また、はてなブックマーク( はてなブックマーク - 覚え書きみたいな - 2012年5月3日 )にて、
ublftbo 何が興味深いって、たとえば鍼治療の人達なんかは、「より優れたRCT」(DBを採用したRCT)を求めたりするのに、明らかにそれと関係するこの集団は、RCTでは検証しにくい、コーホートなら、みたいに言っている所。 2012/05/03
このように、あたかも福井氏が、統合医療推進の人々が行った(RCTが不向きという)理由付けに基づいているかのように評価した事も撤回し、こちらも、福井氏と読者にお詫びするとともに、ブックマークコメントを削除・訂正します(上記引用文を発言記録とします)。