食中毒による死者は「増えた」? 増えたとしたらその理由は?

小比良さんがブクマなさっていた記事です⇒食中毒 死者が増えた理由は何か / 西日本新聞
タイトル通り、最近起こった、死者が出てしまった食中毒事件を受けて、どうして食中毒による死者が増えてしまったのか、と提言する内容です。
で、小比良さんがブックマークコメントでも指摘なさっていたのですが、記事中の、

 実際、食中毒の死亡者は2005年から10年まで6年間ゼロだった。

この部分は誤りだと思います。実際、厚労省の資料(食中毒事件一覧速報|厚生労働省)を参照すると、

2004
死者数:5
2005
死者数:7
2006
死者数:4
2007
死者数:7
2008
死者数:4
2009
死者数:0
2010
死者数:0
2011
死者数:11

このようです。記事中の、2005年から2010年まで死者数ゼロだったというのは、どこからきたのでしょうか。ちょっとよく解りません。ちなみに、腸管出血性大腸菌の死者は04年からゼロだった。というのは合っているみたいです(参照:最新食中毒情報検索のスマイルアップは、無料で使える日本最大級の食中毒情報検索サイトです。*1)。もし記事が間違っているのだとすると、記事の読み方を変えないといけませんね。つまり、実際に2005年-2010年の食中毒による死者数がゼロであったのならば、6年間もゼロであったのに……となるかも知れませんが、実際のデータによれば、死者数がゼロであったのは、2009年と2010年の2年です。意味合いが変わってきますね。
で、実際には、5-7-4-7-4-0-0-11 と推移している訳ですが、これを「増えている」と表現する事は出来るでしょうか。
確かに、2008年では死者数4であり、死者数ゼロの年を2年挟んで、2011年で11人となっています。比で言うと、2004年の3倍近くになった訳ですね。
けれど、そもそもこういうのは分母が巨大ですから、全体に占める死者数の割合というのは、それほど大きく無いので、単純に件数の差や比を較べて「増えた」とするには慎重になる必要があると思います。いや、実際に件数は増えているのですが、リンク先の記事にあるような「増えた」という表現には、単なる数値の比較以上の含意があると考えるのが妥当です。何か原因があって、それが作用したから増えたのではないか、と推測しているのですから。
更に言えば、確かに件数は増えているのですが、この詳細をよく見ると、2011年は、1件で5人の死者が出てしまった事件があったのですね。リンク先でも触れられている、富山のユッケでの食中毒事件です*2。「死者が出た食中毒の件数」を見てみると、つまり、死者が1名以上出た事件の件数を見ると、2009年と2010年を除いて、ほぼ同じようなものなのですね。2007年と2011年は、7件で同数です。
食中毒による死者が出た事件というのは、件数自体も少ないし、1件辺りの死者数も少ないので、1件で5人くらい死者数が出たりすると、年次合計したら他年より結構増えた、という印象を受けます。だから、何か社会的に見過ごせない変化があって、それによって、目に見えるかたちで死者数が増えた、と推測するには慎重になる必要があると思うのですが、どうでしょうか。
もちろん、何か興味深い変化が社会に起こり、それが何か反映されているのではないか、と考察する事自体は重要です。たとえば、肉の生食の習慣が広まったが故に生肉由来の食中毒が増えたのではないか、といった類の推論ですね。
けれども、それはそれ、という事で、数値の細かい変化というのは、実は偶然的な変動を示しているだけ、という可能性もあるのですから、そういう所も含めて丁寧に見ていくのが重要と考えます。
ところで、記事にある、

 ところが、11年は計7人12年も既に7人の死亡者が出た。過去に複数の死者が出たのは1996年8人98年3人2002年の9人だった。増えているのはなぜか。ちゃんと調べる必要がある。

ここで私が強調した部分ですが、これは、「腸管出血性大腸菌による死者数」ですね。で、前の文とあわせて、書かれている事をリストにすると(次のリストの文は記事からの引用)、

  1. 実際、食中毒の死亡者は2005年から10年まで6年間ゼロだった。
  2. 腸管出血性大腸菌の死者は04年からゼロだった。
  3. ところが、11年は計7人、12年も既に7人の死亡者が出た。過去に複数の死者が出たのは1996年8人、98年3人、2002年の9人だった。増えているのはなぜか。ちゃんと調べる必要がある。

こうなっています。1は「食中毒の死亡者」なのに、2と3は、「腸管出血性大腸菌の死者」となっていて、大変紛らわしいです。それで、ここで、増えている理由を調べる必要がある、と結んでいる訳ですけれども、ここだけ見ると、腸管出血性大腸菌由来の食中毒による死者に話を限定しているようにも見えます。ですが、記事のタイトルと全体的な論調からすると、そう読み取るのはちょっと無理がある気も。それに、1996、1998、2002、2011、2012、と結構離れた期間の例を挙げて「増えている」としているのはちょっと解りません。ここの部分はどこと比較して増えていると表現しているのでしょうか。2005年? せっかく1990年代から2005年までかけて減ってきたのに、という事なのかな*3
もしかすると、私の解釈ミスや、押さえていないデータがあるかも知れません。それがあれば教示してもらえればありがたいです。

*1:何故か、厚労省発表と、2006年の死者数が合わない。リンク先では6人になっている

*2:記事中で、富山県での死者数が4人となっているのはどうしてなのでしょう?

*3:2005年から死者数がゼロだと記者が認識していると仮定すれば