乳がんの過剰診断
このような発言を見かけました。
「ある乳がん患者さんは、最初に近藤先生に診療してもらったときはステージ2だったのですが、検査のみで経過観察しているうちに臓器に転移してステージ4という状況になって、僕のところへ来院しました」https://t.co/nYxMccTKRJ
— iPatrioticmom (@iPatrioticmom) 2017年12月29日
乳癌も過剰診断な方々はこれ読んだら?
乳癌も過剰診断な方々はこれ読んだら?
発言者のiPatrioticmom氏は、腫瘍内科医である勝俣範之氏へのインタビュー記事にリンクを張った上で、上記のような発言をおこなっています。リンクされた記事は、勝俣氏が、近藤誠氏による論、を批判する内容です。iPatrioticmom氏はそれに絡めて乳がん発見での過剰診断の論を批判している、のだと思われます。
しかし、このような紹介のされかただと、恰も、勝俣氏が乳がんの過剰診断に懐疑的である、かのように誤解される虞があります。それでは誤った知識が伝達されてしまいますので、ここで補足しておきます。
下の記事を御覧ください
「若いうちから乳がん検診」は有効か | 医療プレミア特集 | 中村好見 | 毎日新聞「医療プレミア」
当該記事は、勝俣氏へのインタビュー記事群のひとつで、いわゆるがん検診に関する記事です。そこでは、がん検診に伴うメリット・デメリットが丁寧に解説されています。参考になりますので、是非とも御覧ください。で、その中に、次のような記述があります(強調は引用者)。
また検診の有効性は、年齢によっても議論があります。日本の乳がん検診は40代以上が対象です。一方、米国予防医療作業部会は2009年、それまで推奨していた40代のマンモグラフィー(乳房X線撮影)は、大規模追跡調査の結果、ほとんど効果がないので推奨しないという勧告を出しました。閉経前で乳腺密度が高い40代は、検診の精度が下がります。不必要な放射線照射や組織検査、過剰診断(※注)、過剰治療を受けて、無用な不安をかきたてられるデメリットの方が大きいという判断でした。
ここは、検診は、年齢によっても有効であるかどうかが変わってくる、という事の説明部分なのですが、その中で、不必要な放射線照射や組織検査、過剰診断(※注)、過剰治療を受けて、無用な不安をかきたてられるデメリットの方が大きい
と書かれています。つまり、勝俣氏自身が、乳がんの過剰診断について解説しているという訳です。
このように、勝俣氏がそもそも、乳がん検診についての過剰診断の事を紹介しているのに、別の記事を引きつつ、乳癌も過剰診断な方々はこれ読んだら?
などと主張するのは、全く牽強付会・我田引水というものでしょう。
更に、乳がん検診における過剰診断について、資料をご紹介しておきます。
このページは、各種がん検診について、内容の説明や、これまで積み重ねられた証拠・知見の紹介と、それに基づいた、各検診の推奨の程度がまとめられているサイトの一部です。そこから引用します。
40~74歳を対象として、死亡率減少効果を示す相応な証拠があります。不利益については偽陽性、過剰診断、放射線誘発乳がんの発症の可能性があります。これらの結果から、推奨グレードBとし、対策型検診・任意型検診の実施を勧めます。
40~64歳を対象として、死亡率減少効果を示す相応な証拠がある。不利益については偽陽性、過剰診断、放射線誘発 乳がんの発症の可能性があります。
このように、乳がん検診による利益とともに、過剰診断などの不利益についても明記されています。もちろん、それがどのくらいの程度なのか、などに関しては、きちんと評価しておく必要があります。そこの知見ついては、リンク先にあるガイドライン本文の表29、不利益【過剰診断】 エビデンス・テーブル
にまとめられています。
人間は様々な原因で死亡しますから、およそあらゆる疾病について、原理的には過剰診断が生じ得ます。また、検診によって助かる命があるのか、あるとしたらそれはどのくらいか、というのは、疾病の種類や、検診対象の年齢層・性別などによっても異なってきます。
したがって重要なのは、その疾病を、症状が無い内に見つける事のメリットとデメリットがどのくらいであるのか、という比較です。過剰診断が有るとか無いとか、そういった単純な見かたをすべきではありません。