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死亡割合低減と過剰診断

このNATROMさんのつぶやきは、

福島の甲状腺ガンにおいて原子力PAサイドが主張する「過剰診断」の定義が「生涯、症状の出ないガンの発見」から「死亡率の改善につながらないガンの発見」にシフトしてる

上記の主張(強調は引用者)を受けてなされたものです。
それで、何やら、NATROMさんの意見が、過去のものと整合しないように見える、という人がいるようです。たぶん、韓国の事例などで、死亡割合が下がっていない事に言及していたから、そのように思えるのでしょう。

けれども、過剰診断を論ずる際に、死亡割合について言及したからといって、過剰診断の定義を、死亡割合を低減しない診断と考えている事にはなりません。実際、過剰診断は無いが死亡割合を低減しない場合もあります。

改めて、過剰診断の定義をおさらいすると、それは一般に、

将来、臨床的に重要な帰結に至らない病気を、その病気であると診断する事

と表現出来ます。強い痛みなどの症状や、死亡に至らない病気を診断してしまう、それを過剰診断と呼びます。

それで、検診が有効であるためには、対象の病気が、

  1. その病気の、ある程度の割合は、症状出現や死亡に至らしめる
  2. 発見可能な時点から症状出現の時点までの間(DPCPと呼ぶ)が、ある程度長い
  3. その時の前に治療すれば予後が良くなる、という時点(クリティカルポイントと呼ぶ)が、DPCPの中に存在する

これらの条件を持っている事が必要です(十分では無い)。1 が無ければ、症状出現や死亡に至らないものを見つけます(過剰診断)。2 が無ければ、だいたい年ごとにおこなわれる検診では、発見する事が困難です(目の大きい網では体長の短い魚は掬えない)。3 が無いと、症状が出てから対処しても間に合う事になります。

この内、1 が成り立てば、過剰診断は無い、と言えます(実際には程度問題ですが、簡単のためにシンプルにしています)。逆にこれが成り立たない場合には、対象の病気は、症状や死亡に至らしめないので、検診を増やせば過剰診断が生ずる、という事です。
次に 2 は、検診で病気を拾えるかに関わる部分です。DPCPが長ければ、年ごとにおこなわれる検診でも拾えますが、発症から数週間で急激に進行するものなどは、発見がむつかしくなります。もちろん、DPCPが長くても、良い診断法が無ければ発見出来ないので、性能の良い診断法がある事も必要です。
そして 3 は、検診の延命・救命効果に関係する事です。つまり、症状が出てから発見しても出る前に発見しても予後が変わらないかどうかに関わる条件。クリティカルポイントが存在して、かつ、それがDPCPの後にしか無いのなら、症状出現後でも間に合う訳です。
ですから、2 と 3 、特に 3 は、直接には過剰診断には関わらない条件です(2 の条件は、DPCPが極端に長くなれば、1 に繋がる)。それらはあくまで、検診の性能に主に関わる条件。

ここで、極端な話で考えます。発症するほとんどが、数週間で急に進行し死に至る、という病気があるとします。更に、有用な治療法自体が全く存在しないと仮定しましょう。これは、検診で発見出来ても、過剰診断ではありません。何故なら、ほぼ、その病気で死んでしまうからです。
そして、タイミングが合ってこの病気を発見出来たとしても、死亡割合低減に寄与しません。何故ならば、そもそも治療法が存在しないので、死亡割合を低められないからです。
このような場合は、過剰診断では無い、かつ死亡割合を下げないケースと言えます。すなわち、

過剰診断が無い(少ない)事と死亡割合を下げない事は両立し得る

のです。これまでの論理を踏まえていけば、「死亡率の改善につながらないガンの発見」を過剰診断の定義などとは考えない事は、理解いただけると思います。

では何故、過剰診断に言及する際に死亡割合にも触れるかと言うと、それは、他の条件を併せて考える事によって、過剰診断の存在を推量出来るからです。そしてその条件とは、発覚数の増加です。

いま、検診によって、病気であると発覚する数が増えるとします。それと同時に、死亡割合は変化しないという現象が観察されたとしましょう。そうすると、その解釈は、いくつか可能です。すなわち、

  • 命に関わる病気が増えているが、診断法や治療法も同時に進展しているため、死亡割合が変わらない
  • 死ぬまで罹っている事が判らないような、命に関わらない病気を検診で拾ってしまっているがために、発覚数が増えつつも死亡割合に変化が無い

このようです。ここで、上の場合の可能性を考えます。これは、命の危険がある病気が増えつつも、診断や治療が進展するから死亡割合が変わらない、という考えですが、これが実現するには、病気の増加の仕方と、診断・治療の進展の仕方が上手く釣り合って変化する必要があります。つまり、病気の増え方と、診断・治療の発展の度合いが、死亡割合が一定になるようにぴったりと揃う、と考えなくてはならない訳です。しかるに、この仮定はかなり大胆で無理のあるものであり(年々治療法が、死亡割合を一定にするように進展する、というのはどのような現象でしょうか)、実際には、命に関わらない病気を検診で拾ってしまっているという現象が起こったのであろう、と考える訳です。

ここまでを考えれば、死亡割合を低減しない事を、過剰診断の定義にしていないという事は、容易に理解出来るでしょう。結局、過剰診断の話と死亡割合の話を同時にしているからと言って、死亡割合そのものが過剰診断の定義を決める条件だと看做しているのでは無い、というシンプルな事だったのです。

参考文献:

過剰診断: 健康診断があなたを病気にする (単行本)

過剰診断: 健康診断があなたを病気にする (単行本)

  • 作者: H.ギルバートウェルチ,スティーヴンウォロシン,リサ・M.シュワルツ,H.Gilbert Welch,Steven Woloshin,Lisa M. Schwartz,北澤京子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/12/15
  • メディア: 単行本
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