マスメディアが再び「ゲーム脳」――ゲーム脳説についての簡潔な説明と詳細への案内
2012年に「ゲーム脳」
まさか今になって、マスメディアが発信する記事に「ゲーム脳」の語が踊るとは⇒万引き感覚で女児を誘拐する若者のゲーム脳 | 東スポWeb – 東京スポーツ新聞社
私は、「東スポだから」というような考えをしません。この記事によって初めてゲーム脳という言葉を知った、という読者が信用してしまう事を危惧します。たとえその可能性がそれほど大きく無くとも、ここでこの言葉について説明しておく事は有用だと思います。以下、簡潔に、「ゲーム脳」説についてまとめます。
注意としては、元々「ゲーム脳」という言葉が広まったのは、森昭雄氏の著作によってであると考えられますが、その語を使う人が必ずしも森氏の用法に従っているとは限らないという事です。しかし、この記事のように、大体似たような意味で用いられる場合が多いので、代表的である森氏のゲーム脳説について説明します。
「ゲーム脳」の説明
- ゲーム脳とは
- 森昭雄氏による造語である。『ゲーム脳の恐怖』という著作によって広まった。
- ゲーム脳の意味は
- ゲームをやる事で、脳の前頭前野の機能が低下する、という現象。
- ゲーム脳は正しい事が確かめられているのか
- 確かめられていない。ここでは、ゲーム脳は科学的な理論として主張されているから、科学の営みに照らして判断する事が出来る。
科学では、目新しい説や理論が、きちんとデータをとった上で、論文のかたちで仕上げられているか、という事を検討して、他の研究者の審査等によってふるいにかける。更に、他の人達による実験や観察(追試と言う)で支持された時に、理論として認められる。森氏の提唱するゲーム脳説にはそれが無い。 - ゲーム脳は無いのか
- 上で説明した意味で、ゲーム脳説は確認されていない。それだけでは、「ゲームによって前頭前野の機能が低下する」という考え自体が否定された事にはならないが※、森氏が主張するものとしてのゲーム脳説は認められていない、とはっきり言える。そもそも森氏は、誰もが検討出来るかたちでゲーム脳という言葉を定義しているとは言えない(脳の状態なのか、行動の傾向なのか、グラフの形なのか、等)。
※ゲームによって前頭前野の機能低下が起こる事は否定出来ないのでは、という見方については、他の、脳に関する分野の研究者の見解や、心理学上の研究から考えれば、ゲームが、犯罪に直結するような影響を脳に与える、という強い主張は支持出来ない、と判断出来る。森氏や北芝氏が、「非常に強い影響」を主張している事を押さえる。
もっと詳しい説明とまとめ
ここまでの説明は、ゲーム脳Q&Aよりいくつか拾って要約したものです。より詳しい解説が知りたい方は、リンク先を参照下さい。
東スポの記事では、北芝健氏が「犯罪心理学者」の肩書きで、「前頭葉」や「テストステロン」等の科学の用語を使って「ゲーム脳」説を展開しています。これは、読者に対し、あたかもゲーム脳説が科学の定説として認められたものであるかのように誤認させる危険があります。実際には、ゲーム脳が科学として認められたという事実はありません。ゲーム脳説は10年近く前に出てきて、色々な人から反論され尽くしたものです(詳細に関心がある方は、拙ブログのInterdisciplinaryの左サイドバーより、ゲーム脳関連カテゴリーを参照下さい)。そのようなものを今更マスメディアが採り上げる事は、大変残念です。