ホメオパシーの問題とイケダハヤトさんの問題
先日書いた記事で、プロブロガーのイケダハヤトさんが、ホメオパシーレメディに効果があるかのように記事で紹介なさった、という事を採り上げました。
この、イケダハヤトさん周りの議論関連で、バズフィード・ジャパンに記事が上がりました。
https://www.buzzfeed.com/satoruishido/homeopathy-mondai(『繰り返されるホメオパシー騒動と「ニセ科学」 本当の問題はどこに?』)
記者は石戸諭さんで、内科医のNATROMさんのコメントも紹介しつつ、ホメオパシーについての問題点を洗い出しています。
そして、こういった流れを受けてのイケダハヤトさんの反応は、以下のようなものでした。
ホメオパシーの問題点は「既存の医療を全否定して、(特にこどもの)医療機会が奪われる」ところにあるんだろうけど、ぼくは違うからなぁ。害虫にやられてどうしようもなくなったら、病院行きますよ。もちろん子どもについても。そりゃそうだ。
— イケダハヤト (@IHayato) 2016年10月22日
このイケダハヤトさんの つぶやきの要点を書き出すと、
- ホメオパシーが標準的医療を忌避させ、医療行為を受ける機会を奪う事があるのを知っている(知っていた or 直近に知った)
- イケダハヤトさんは上記を踏まえ、自分はそのようにならないと認識している
- イケダハヤトさんご自身のお子さんについても、標準的医療を受けさせないような事をしない、と考えている
このようになるでしょう。
ここでイケダハヤトさんは、
- ホメオパシーが持つ問題
- イケダハヤトさんの持つ問題
この2つが区別出来ていません。今回、イケダハヤトさんの記事が問題であったのは、
ホメオパシーレメディに効果があると思わせるように誘導している
という所です。それからもう一つ、
現在明らかになっている事を紹介していない
のも挙げられます。明らかになっているのは、私が前回の記事でも書いたように、レメディ自体は効かない事が判っているという所や、実際に日本のホメオパシー関連団体が、標準的な医療を忌避させる事がある、という部分です。つまり、イケダハヤトさんは、
レメディが効かず、しかも、ホメオパシーに関係する団体が問題を孕んでいる、という事実を知らせず、レメディが効くかも知れないというメッセージを発した
訳です。ここに、イケダハヤトさんご自身がどうするかは関係ありません。お子さんに対してどうするか、という事もです。また、イケダハヤトさんが、日本のホメオパシー団体の問題をご存知だったかどうかも関係ありません。むしろ、知らなかったとすれば、調べておくべきだった、となるでしょう。
イケダハヤトさんは、批判を受けて、
このような記事をアップなさいました。ここでは、
「現代医療を否定!薬は一切飲まないし子どもにも与えない!」とか「すべてホメオパシーで治す!」みたいな話ではありません。何かあったら普通に病院にかかって薬飲みますよ、そりゃ。
このような意見が書かれています。上で紹介したtwitterの投稿と同じような内容です。けれどこれは、後で書かれたものです。発端の記事では、ホメオパシー絡みで重大な問題が起こった事になど、触れられてすらいません。そのような記事に対して批判が起こった結果、2つ目の記事が上げられた訳です。
ホメオパシー(レメディ)って何だか怪しげだけど、周りに効くと言っている人もいるし、体験談もあるから、もしかしたら効くかも――というのは当然、ホメオパシーをよく知らない人に向けられたもののはずです。そういう対象に対して誤ったメッセージを発信した事が、イケダハヤトさんの行為の問題点だったのです。再び言えば、ここに、イケダハヤトさんご自身のホメオパシーへの対し方は関係ありません。
私が前回書いた記事では、ホメオパシー関連団体がどうした、とか、イケダハヤトさんがどのような動機で記事をアップなさったか、という事には一切触れていません。そのような動機などはひとまず措いて、その時に、代替療法に関する不正確な知識が伝達されつつあったので、レメディが効かない事と、効き目を確かめる方法などについて現在までに判っている事を知らせよう、と思ったのです。良い物を紹介しようという心がけからであるにしても、
と書いたのは、たとえそれが善意に基づいたものであっても、不正確な情報を書いた事に変わりは無い、からです。
ホメオパシーに内在する問題に関しては、バズフィード・ジャパンの記事にある通りですが、改めて私がピックアップして書くと、
- レメディの効果を高く喧伝するほど、相対的に標準的医療に対して忌避感や不信感を形成させる
- レメディは医薬品では無いため、原理を守り、かつ品質管理が杜撰だった場合、レメディ自体が危険になる可能性がある
こういった所です。前者は、レメディが良い物、適用範囲が広い物、と喧伝するのは、現代の標準的な医療の価値を相対的に下げる事に繋がります。現代医療や西洋医学といった、それっぽい表現を用いて欠点をあげつらい、ホメオパシーの利点を強調する事などがそうです。標準的医療と変わらないのなら、標準的医療を受ければ良い、となりますからね。そうなると、安価である事くらいしかアピールする点が無くなります。もちろん、そういう方向を行く団体などもあるでしょう。その場合には、比較的穏当な組織、と評価される訳ですね。そして、標準的な医療を忌避させてホメオパシーの優位さを主張する先鋭的な考えを持った人たちが起こしたのが、ケイツーシロップ事件です。
後者に関して。ホメオパシーは、レメディの材料として有害な物質を用いる場合があります。もし、自分たちの信じる原理に忠実であろうとすると、レメディの素には有害物質が入っています。次に、もう一つの原理である、極度に薄めるという工程が失敗した場合、ほんとうに有害なレメディが製造される可能性があります。薄め方が足りなかった、という場合です。
もちろん、品質管理が甘くて低品質の物が製造されるというのは、工業製品一般で起こり得る事ですが、レメディは医薬品では無く食品ですから、医薬品のように薬機法の規制を受けない、にも拘らず有害な物を材料に使う可能性がある、という事を念頭に置くべきでしょう。今のところ、日本ではそのような事例は無いようですが、海外では注目すべき、いくつかの事例があります(参照:
インドで起きたホメオパシー製品による死亡事故: 忘却からの帰還
)。
こういった、ホメオパシーに関する注意点を紹介する事無く、レメディに効き目がある可能性のみを書いたイケダハヤトさんは、やはり不用意であったと考えます。