甲冑

西洋の全身鎧はあまり役に立たなかった可能性が初めて実験で証明される - DNA ※去年の記事ですね。念のため
タイトル等に突っ込まれているようです。実際、記事本文を読むと、行われたのは、実験協力者に甲冑を着てもらってトレッドミルを走らせて生理的指標を測定する、という運動生理学的研究のようで、一般的に甲冑が役に立たないという話にはなっていませんし、そもそも記事中に、

今回の実験は「それでもプレートアーマーを着用すべき理由があった」ということがはっきりとした、ということだと考えられます。

と書いてあって、タイトルと全然合っていません。
好意的な解釈を試みれば、全身に纏うタイプの甲冑の欠点の一つが明らかになった、というのを言いたいのか、という事になるでしょうけれども、あのタイトルの書き方だと、ちと無理がありますね。あんまりよろしく無いと思います。更に、本文に

中世の戦場では、全身を金属の板で包むプレートアーマーを着込むのが正装であり、決して日本製ロールプレイングゲームの女性キャラのような半裸の兵士はいなかったはずです。しかし実際はRPGのほうが合理的だったかも……という研究結果が明らかになりました。

こうも書いてあるので、やはり不用意と言わざるを得ないでしょう。「実際はRPGのほうが」というのは、読者をつかもうとしての表現でしょうけれど、逆にすごい的外れ感を与えてしまっているような。

結びの文については、ものすごく唐突に書いてあるのでパッと見ではよく解りませんが、これは、「生理学的には不利なのに実際に着ていたのだから、それが役に立つ何かしらの合理的な理由があったのだろう」という風に補うのは可能ですね。

武具に限らず道具というのは、その使用目的・使用する情況を合わせて考えておかなければならないですよね。この場合には、実験で着せたような甲冑がどのようなシチュエーションで使われたのかとか、そういうのが重要なのでしょう。「合目的的であるか」どうか。

ところで、この記事への反応を見ていると、まるで実験自体が駄目なものであるかのような意見もありますが、私はそんな事は無いと思います。運動生理学的な研究として、有意義なものでしょう。
つまり、全身に甲冑を着て走るという運動を考えた場合、それが生理的に非常に負担を与えるのが明らかになった、という事で、それ自体はとても貴重なデータです。そこから、「そういった運動を積極的に行ってはいなかっただろう」という推論も出来るからです。
重い物を着て走るのだから常識的に明らかではないか、と言うのは無しです。何故ならば、いかにも「当たり前」のように思える事もきちんと条件を設定し、機器によって計測してデータを採って解析する、というのも科学としてとても重要な事だからです。「常識」をデータで裏付けるのは大切です。

前のエントリーで、日本刀に関する「斬れ味」と「斬り方」について書きましたが、ここにも関わっています。両方追究するのが大切という事ですね。どのように運用していくかというのと、道具自体がヒトの運動にどのような制限を与えるのか、をどっちも考えていく。もちろん、実験的研究が、かなり条件を絞った上で検討していて、それが実際の運用場面からかけ離れている、という可能性を考え、きちんと検討するのを忘れてはなりません。

たまに、武術や格闘技に関する実験研究と聞いた途端に忌避するような、科学に対して毛嫌いする意見も見られますが、それはそれで狭量なので、丁寧に慎重に考察していきたいものです。