すごく大事なことなので
盲検では、対照群と治療群のどちらの患者にも、まったく同じ対応をすることが決定的に重要になる。なぜなら、どんな小さな違いでも、患者の回復に影響を及ぼし、試験の結果が不公正になりかねないからだ。そのため、見かけ上区別できない薬を与えるのはもちろんのこと、どちらの群も、同じ場所で治療し、同じ水準の看護を受けなければならない。そうした要因のすべてが、いわゆる《非特異的効果》に関与する。非特異的効果は、治療の状況によって引き起こされる効果で、治療そのものによって直接的に引き起こされる効果ではない。非特異的効果は、プラセボ効果までも含む包括的な用語である。
『代替医療のトリック』(p91)
大変重要なことです。
まず、どちらの群にも「同じ対応をする」という所。
たとえば、治療群と対照群(たとえばプラセボを与える群)を設定し、それぞれ別の部屋で処置が行われるとします。その場合に、一方の群が割り当てられた部屋は照明が暗く風通しも悪く、また、実験スタッフの態度もつっけんどんであり、もう片方では、それぞれの条件が正反対であったとしましょう。そして結果的に、それぞれの群における改善の度合いに著しい違いが認められたと考えます。その場合に、その改善は、「確かめたいものが及ぼしたものである」と言い切ることが出来るでしょうか。
出来ませんね。つまり、処遇を受けた部屋の環境という条件が大きく働いた可能性が排除出来ない。せっかく患者をそれぞれの群にランダムに割り当てられたとしても、無駄になってしまいます。なぜならば、色々の条件(被験者の属性)において片方の群に偏らないように行う操作としてランダムに割り当てたのに、「部屋の環境がまるで違う」という大きな偏りのせいで、それを台無しにしてしまうからです。
ですから、この種の実験研究を行う場合には、
- 調べたい部分以外の条件をなるだけ揃える
- それぞれの群において、直接制御出来ない多数の条件などの偏りが出ないように、ランダムに割り付ける
ことの両方が必要なのです。
これらの操作を行ってこそ、「非特異的効果」ではない「特異的効果」、平たく言えば、「確かめたいことそのもの」の効果を確かめることが出来ます。
先日、二重盲検だからといって、、、というエントリーを上げましたが、それはこの問題に関わっています。
つまり、実験薬を与える群に対して偽薬を与える群を対照群として設定し、実験者にも被験者にもどちらの群に割り当てられているかを知らせない、という操作がなされたとしても、他の条件が大きく異なっていれば、特異的(調べたいものそのものの)な効果を確かめられないかも知れないのです。
シンらの本では、「非特異的効果は、プラセボ効果までも含めた包括的な用語」と説明されています。ここは充分押さえておきたい部分です。それは、あくまで「プラセボ効果」は非特異的な効果の「部分」であることを示す(非特異的効果=プラセボ効果 ではない)からです。薬剤の試験の文脈で考えれば、特異的効果とは、与えた薬物による生化学的な作用。そして非特異的効果とは、実験環境が及ぼす生理的な変化であり(温度や照明、風通しなど、様々なものが考えられる)、また、その他の心理的・社会的な、いわば認識(認知)の変化が引き起こす身体的な変化、と言えるでしょう。そこには、プラセボ効果やホーソン効果、あるいはその他の様々の認知が含まれるのでしょう。
これらの部分をある程度でも押さえておかないと、同じ語を用いていてもやりとりが噛み合わない状況に陥る危険性があるので、注意しておきたいものです。