余剰発見と進行

がんが余剰発見されたならば、それは進行が緩徐、あるいは停滞するものである

↑この文は、厳密な意味で正しいでしょうか?

正しくありません。何故ならば、

進行が速く死に至るものであっても、前臨床期に発見され症状発現前に別の原因で死亡すれば、それは余剰発見であるから

です。無症状時に診断を受けて、症状が出るまでの間に、別の悪い病気や交通事故で死亡したとするならば、余剰発見です。

もちろん、

進行の速いものは余剰発見されにくい

とは言えます。進行が速いとは前臨床期が短いのを意味しますので、もしそれが検診で見つかるとすれば、上手く前臨床期と検査機会が合致する必要がありますし、更に、前臨床期中に別原因で死亡するというイベントが起こる必要があるからです。ですから、確率的に稀であるとは言えますし、その意味で、傾向としては、余剰発見されたものは進行の緩やかなものであると表現する事は出来るでしょう。

しかし、改めて定義に立ち返って考えたり、厳密に現象を検討したりする時には、ここで書いたような所を押さえておくのは重要です。余剰発見の説明をする際、時間経過と進行の関係をグラフで表して、亀やウサギなどでたとえる場合がありますが(例:がん検診もPCR検査も「早期発見」が本当の目的なのではない | だから、この本。 | ダイヤモンド・オンライン)、これはあくまで目安であり大まかの傾向を示したものです。だから、もし、

その図に描いている鳥のような場合では、過剰診断は起こらないのですか

↑このような問いがあった場合には、

厳密に考えれば起こらないとは言えません。検診で見つかるタイミングの縦線が重なって、さらに他の原因ですぐ亡くなれば起こります。ただ、稀に起こる現象が重なる必要がありますから、実際にはすごく起こりにくい事です

↑こう答えるのが、正確な言いかたです。

そんな細かい事をいちいち考えてどうするかって? 経験に基づいて細かい部分から論理をきちんと積み上げていくのが科学ですし、説明の所で幾らかの大まかさや曖昧さを便宜的に入れる場合があっても、基本部分の厳密さを把握しておくに越した事は無いからです。