応用問題──診断と余剰発見

余剰発見の議論等について知っている事が前提です。

福島の検診では、細胞診は確定診断ではありません。手術しないと診断に至りません。

じゃあ、

余剰発見例は必ず過剰処置される

と言ったほうが良いでしょうか。だって、余剰発見の必要条件は、確定診断される事であり、確定診断の必要条件は手術される事で、過剰処置の定義は、処置された余剰発見例なのですから。難しいですね。

確定診断では無くても、細胞診で悪性ないし悪性疑いと判定された例は、実質的に、がんと看做していると言えます。色々の議論でもそうですね。でも、実際には確定診断されていない。それをどう考えましょう。検診を受けた側としては、細胞診で陽性だった場合にがんであると認知するものでしょう。そりゃそうです。

これは、かなりシビアな問題です。診断とは、とか、医療を受ける側がどう捉えるか、とか、いくつも考えるべき事があります。悪性ないし悪性疑い例は確定診断されていないのだから、定義上甲状腺がんの余剰発見(過剰診断)では無いと言われた場合、どう反論しますか?

『Thyroid Cancer Explore Vol.2 No.1』に収載の『小児・若年者甲状腺癌の細胞診・組織診』において坂本は、甲状腺がんの診断が特異な事を指摘しています。また、穿刺吸引細胞診を、腫瘤形成性甲状腺疾患の治療開始前の診断と書いています。もちろん、手術材料の組織診が確定診断です。診断が二段なのかとなるのでしょうか。

ちなみに、上記参考文献の著者の坂本は、例の寄稿の著者である、あの坂本氏です。

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もう少し考えてみます。

実際に、二段診断と捉える事が可能かも知れません。つまり、細胞診の結果を、結節や腫瘤の診断と考え、手術後組織診をがんの診断と見る訳です。

しかしこうすると、検診の結果で悪性ないし悪性疑いと判定され、かつ手術されていない症例で、それが症状の原因にならない疾病であった場合、

まだがんの余剰発見では無い

と言えます。いや、そう言わなくてはならないとしたほうが良いでしょうか。

これは、大腸がん検診や子宮頸がん検診において、前がん病変を見つけ介入する事になぞらえられるかも知れません。そこでは、

がん検診

をおこない

余剰発見が生ずる

けれども、そこには

前がん病変の余剰発見

も含まれる訳です。それを踏まえれば、福島の検診では、

結節や腫瘤の余剰発見が生じ、その中には甲状腺がんの余剰発見も含まれる

と表現するほうが、冗長ですが正確でしょう。

しかるに、です。甲状腺がん検診では、細胞診の結果は悪性ないし悪性疑いと表現されます。全例に組織診をしていないのだから、疑いと入れておかざるを得ない訳ですね。これは、子宮頸がん検診などと異なる所でしょう。なぜなら、前がん病変であると判明するのは、同時にがんで無いと判明するのを意味するのですから。逆に甲状腺がん検診の場合で悪性ないし悪性疑いとするのは、どちらか判らないままの状態です。そういう状態なのに語に悪性が入っている。これは、受け取る側にとっては極めてインパクトの大きいものです。つまり、検診におけるいわゆる

(悲観的な)ラベリング効果

に関わります。そういう心理的な部分に強く関わる表現を用いているのです。

このあたりも含めて検討していくと、福島の検診の問題は相当複雑である事が解ります。実際、福島の検診では、

おそらく腫瘍の余剰発見だが、甲状腺がんの余剰発見で無い例

が1例あります。ここでおそらくとしたのは、手術した結果で良性腫瘍と判明したからです。