《死亡の保有割合》は成り立つか

小話と言うかネタ的だけど、それなりに真面目な話。

疫学等で、いわゆる有病割合という用語があります。ある時点での人口における、病気を持っている人の割合ですね。何らかの人口(地域に住む成人でも病院の患者でも学校の生徒でも)を対象に計算する割合は、人口の部分集合を人口で割った無名数です。つまり、分子は分母に含まれています。また、時刻で切断した一点という事を強調したい場合には、

時点有病割合

を使います。わざわざそうするのは、期間有病割合なる概念もあるからです。

私は、有病だと病気にしか使えないので、何らかの特徴を有している、と一般化した意味で、保有割合を使います。論者によっては存在率を使います(割合だけど慣習に合わせてある。あまり好ましく無いと思います)。

人口における死亡者の割合を、死亡割合と表現します。多くは死亡率と言われますが、もちろんの話はしていません。死亡割合を別概念に充てる向きもありますが、それは措きます。

さて、この死亡割合、有病割合や保有割合と同じ意味合いでしょうか。違いますね。

いま見ている保有割合は時点での割合です。死亡割合をそれに当てはめて考えると、

人口の内、死亡している人の割合

となります。時点で切っているので、分子は死亡している人です。え、死亡している人の割合!? 

でも、死亡している人は、人口に入れようが無いですよね。死んだ時点で人口から外れる訳です。分子が分母の部分集合という条件に当てはまりません。当てはめたいなら、死んだ人も人口に含める必要があります。という訳で、この死亡割合なる概念は、時点割合ではあり得ないのです。

では何かと言うと、

累積発生割合

です。いわゆる累積罹患割合などがその一種ですね。私は一般化した発生を用いています。発生割合というのは、

ある人口において、新規に発生したイベントの割合

です。時点で切っていないので、起こった事の件数を分子に置けます。分子が分母の部分集合であるのを意識すれば、分子は、イベントを起こした人とすれば良いでしょう。そして、そのイベントに死亡を当てはめれば問題無く定義できます。つまり、死亡割合とは本質的に、

累積死亡割合

であると言えます。累積発生割合はリスクと表現されますから、

死亡リスク

とも言います。ここでの分母は、まだ死んでおらず、かつ死ぬ事ができる人の数です。イベントが発生し得る、のが重要。これを、リスク下人口(population at risk)とも言います。

この話でのポイントは、

割合にも複数の意味がある

所です。

先に、あえて時刻での有病割合を明示する場合には時点有病割合と表現し、それは別の概念もあるからだと言いました。改めて書くとそれは、

期間有病割合

というものです。定義は、

(観察開始時に病気であった数+観察期間内に病気になった数)÷人口

です。つまり分子は、期間内に特徴を持った件数です。先に説明した発生割合の分子は新規に起こったイベントですから、既に特徴を持っていたものは入れられません。保有(有病)と発生(罹患)の区別はとても重要です。

さて、ここまでを踏まえて考えます。

期間死亡割合

なる概念は、成立し得ますか?