がん検診の《利益の説明》

がん検診の利益の説明について。

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がん検診による最大の利益は、早期発見によりがん死亡率が減少することです。

↑こういう風に言われる事が、結構ありますよね。しかし、このような説明のしかたについては、よく考えておく必要があります。

特定のがんの検診を実施した結果、死亡率が下がるとします。その場合は、当該の検診の利益として、死亡率が下がる事を主張出来ます。 しかるにこれは、

がん検診には死亡率を下げるものがある

のを示すものであって、

がん検診は死亡率を下げる

と一律に言えるのではありません。もし、あらゆるがん検診を実施すればことごとく死亡率を下げるという事が判っていたり、理論的に確実にそう言って問題無いのであれば、このような表現が出来ますが、実際はそうではありません。たとえば、小児に対する神経芽細胞腫マススクリーニングや、成人に対する甲状腺がん検診など、死亡率を下げないであろう検診があるのが、既に知られているからです。そもそも、がんの種類は膨大ですから、それぞれについて調べ尽くす事など実際的には不可能です。

がん検診について、より丁寧に、慎重に説明するのであれば、

がん検診に期待される主要な目的は、早期発見によりがん死亡率を減少させる事です。

↑このようになるでしょう。つまり、検診を実施して死亡率を減らすのは、がん検診が一般的に持つ特徴では無く、達成すべき目的である訳です。そして、その目的が達成されるか否かは、対象とするがんの種類、受ける人びとの年代や性別、検診の間隔、実施する検査法の性能等に依存しますし、調べなければ解らないものなのです。がん検診の議論でまず念頭に置くべきは、それによる死亡回避(寿命延伸)の結果が、

得たいが得られるか判らない

所です。

もちろん、文脈が考慮される場合もあります。話しているのが明らかに、推奨される5大検診に限定されているような情況であれば、その範囲内で確認されている知識として、がん検診の利益は死亡率減少だ、と表現してもおかしくはありません。ですが、話している対象が、前臨床期に疾病を発見し処置に繋げるプロセスという、一般の意味での検診なのであれば、より慎重な表現を期すべきと考えます。話しているのが5大検診の範囲内であるのだとしても、その文脈を共有して正確な理解をしたまま進むというのは、なかなか困難でしょう。

最近では、色々の体液生検(リキッドバイオプシー)なども増えてきて、そこから全身MRIやCTなどの、いわゆるがんドックに誘導する医療機関も出てきています。当然そういう機関は、検診の利益あるいはメリットとして、早期発見で助かるというような事を言います。死亡率については言及もせず、ステージごとの生存割合をデータとして出してきます。データ自体は嘘をついていませんが、出す場面、証拠としての性質を考えると、それは誤魔化しです。実に巧みなものです。そういった宣伝をきちんと評価するためにも、用語や説明の正確さを気にしたい所です。