「過剰診断があるから甲状腺がん検診は止めるべき」、などと言うべきでは無い

もう何度も言っている事ですが、なかなか正されないので。

検診に限らず、医療的介入というものは、便益(ベネフィット)害(ハーム)を比較して、おこなって良いかどうか、決められます。
具体的には、ベネフィットとして、病気で死ぬ人を減らすとか、坐骨神経痛の痛みを和らげるとか、そういうものがあり、ハームとしては、手術に伴う出血や穿孔、神経障害などがあります。それらを比較し、便益のほうが大きいと評価された介入が、医療行為として推奨されるという訳です。

さて、検診についてです。

検診のベネフィットは、死亡者を減らす、QOL(生活の質)の下がりかたを抑える、などがあります。いっぽう、ハームとして、検査に伴う出血・穿孔、などがあり、また、病気と診断される事による心理的身体的負担、あるいは、病気で無いのに病気と判断されてしまう事(偽陽性――誤った陽性判断)などが生じます。
そして、議論の的となりやすい、過剰診断(余剰の発見)があります。過剰診断とは、それによる症状が生涯にわたり発現しないもの(つまり、症状が出る前に、他の原因で死亡する)を見つける事です。

がん検診では、ベネフィットとして主に、死亡を減らす事を評価します。ハームは、偽陽性・過剰診断、検査に伴う出血や穿孔等の身体的害(偶発症・併発症)などです。そして、それらを比較して、推奨するかどうか決められます。
評価方法としては、1人の命を救うために何人に検診する必要があるか(便益)や、何人に検診した場合に、1人に害が及ぶか(害)、といった指標によっておこなわれます。

検診を推奨するかどうかは、便益と害とを比較した上で決められる、と書きました。という事は、論理的に言って、

害があるから検診をおこなうべきでは無い、とは言えない

と導かれます。誤っている、よく言っても説明として不充分である、と。何故なら、便益の評価をして比較をおこなわなければ、害より便益が大きいかどうかが判らないからです。

これまでを踏まえると、同様に、タイトルに掲げた主張である、

過剰診断があるから甲状腺がん検診をおこなうべきでは無い(止めるべきである)、とは言えない

というものが導けます。何故ならば、過剰診断などの害があっても、便益がそれに対して大きいと評価されれば、害もあるが検診したほうが良いという主張が正当化出来る(して良い)からです。
実際、現在実施されている各種がん検診は、当然の事として、過剰診断などの害も起こると想定した上で推奨されています(参照:がん検診ガイドライン 推奨のまとめ)。

では、甲状腺がんについて、便益と害の評価はどうなっているでしょう。

実際には、検診の効果というものは、RCTという方法によって評価されます。これは、集団を先に、検診を受ける群と受けない群に、くじ引きで分けておいて、それぞれの群において、調べている病気で死亡した人の数を比較する、という方法です。
それで、甲状腺がんについて、それはなされていません。ですからその時点で、甲状腺がん検診の効果は認められていないと言えます。

いっぽうで、韓国やアメリカなどでの成人が顕著ですが、甲状腺がん検診の件数が多くなってきた地域において、発見される数が増えたのに死亡する数が減らないという現象が観察されています。
これは、見つけなくても良い病気を見つけたり(過剰診断)、症状が出てから処置しても間に合うものばかりであった事を示唆します(注意:検診とは、症状が出る前に病気を見つける事です)。つまり、検診に効果が無い事の間接的な証拠です。ここで間接的とは、RCTよりは弱い証拠という意味です。※参考文献:ウェルチら『過剰診断』

ここまでを踏まえれば、甲状腺がん検診の効果は、慎重に言ってもあるという証拠が無い、と評価され、間接的な証拠を採用すれば、効果が無いと推測出来るとも言えます。害の証拠については、発見数が増えているのに死亡者数が減っていない事から、明白に観察されています(韓国では、発見数が十数倍になった)。

検診は、便益があって初めて、推奨される可能性を持ちます。しかるに、甲状腺がん検診は、そもそも便益が(慎重に言って)ある事が認められてすらいない、という訳です。したがってその時点で、

甲状腺がん検診はおこなわれるべきで無い

という評価が導かれます。害があるからではありません。便益が認められていないからやるべきでは無い、という事なのです。

害があるから止めるべきだ、と主張した場合、害があっても効果があるのならやるべきでは?といった反論を受ける可能性があります。そして、その反論は正当です。尤も。検診は害を益が超えれば推奨される、のだから、害ばかり強調していても、それだけでは、検診を止める充分な理由にはならないのです。
その流れで、じゃあその害の程度はどのくらいなのか、といった所ばかりがクローズアップされます。過剰診断などは、検診の最中の数年では量的評価が難しいものですから、上手く答えられない場合があります。そうすると、はぐらかしているように思われます。そんな事は当然です。
この点、おこなうべきで無い(止めるべきである)と主張する側の説明にも、大いに問題があると私は考えます。

このような事情がありますから、甲状腺がん検診をおこなうべきで無いと主張する場合には、まず害がある(大きい)からと言う、べきでは無く、便益が認められていない(無いという証拠もある)、のほうを強調(先行させる)するべき、であるのです。