麻しんによって「日本では未だに年間50人の子供が死ぬ」という記述について

麻しん流行については、あまり情報を追っていなかったのですが、いくつか目に入ってくる記事等はありました。
その中で気になったものを採り上げます。

twitter上で、次のようなつぶやきが、注目を集めたようです↓

簡単に言うと、麻しん(はしか)の脅威について注意喚起する内容、という感じです。

で、ここに対し、情報の不正確さを指摘するものがありました↓

日本で麻疹で年間50人が死んでいるという嘘が流布されている

ここでを書いたと指摘されているのは↓

予防接種(麻疹・風疹)について - 医療法人社団俊智会 みやたけクリニックWeb

。致死率は10,000人に1人程度で、日本では現在でも、年間約50人前後の子供が麻疹で死亡しています。

この部分です(強調は引用者)。この記述への指摘は↓

>致死率は10,000人に1人程度で、日本では現在でも、年間約50人前後の子供が麻疹で死亡しています。 であるなら、今でも年間50万人の子供が毎年罹患している事になる。

実際、

人口に占める、ある病気で死ぬ人の割合

は、

人口に占める、ある病気に罹る人の割合×罹患者における、その病気で死ぬ人の割合

ですので、もしその病気に罹ったら死ぬ人が 1/10000 であり、年間その病気で死ぬ人が 50 人であるのなら、その病気に罹る人は 50 万人に上る、という勘定です(10000×50)。実際には確率的なものですから、ちょうどこのままという訳ではありませんが、それにしても、ちょっと考えてみても、近年において年間で麻しんに罹る人が 数十万人というのは、直感的におかしく感じられます。

そこで、他の資料を参照します↓

麻疹とは

これは、国立感染症研究所の資料です。引用します。

。先進国であっても麻疹患者約1,000人に1人の割合で死亡する可能性がある。
。わが国においても2000年前後の流行では年間約20~30人が死亡していた。

見ると、

  • 罹った人の内、死ぬ人の割合:1/1000
  • 人口に占める、麻しんで死んだ人の割合:20から30/人口 ※2000年前後

このようになっていて、みやたけクリニックの記述とは全く異なります。

「麻疹の現状と今後の麻疹対策について」(国立感染症研究所 感染症情報センター)

↑ここを見ると、1950 年以降、患者数のピークは 20 万よりも少ないようです。併せて死亡数を見ると、明らかに、10000 人に 1 人というような事は無さそうです。単純に考えると、20 万人罹ったら、死亡者は 20 人くらいとなるはずですが、グラフ上明らかに、数千人は死亡しています。

比較的新しい数値を見ると、

感染症発生動向調査年別報告数一覧(全数把握 五類)-2016-

↑ここの麻しん報告数は、2008 年で 11013 人です。それ以降は激減していますから、麻しん罹患者が麻しんで死亡する割合が 1/1000 であるとしても、毎年 50 人が麻しんで死亡していると考えるのは、到底無理があります。逆に見ると、もし、麻しん罹患者が数百人であるのに死亡者が 50 人もいるのであれば、麻しんに罹った人は十数%も麻しんで死ぬと考えなくては勘定が合いませんが、それほど高いのはすさまじい事ですし、1/1000 や 1/10000 といった数値はどこへ行ったのだ、となるでしょう。

以上のような事から、みやたけクリニックにおける記述は、極めて不正確なものであると判断出来ます。死ににくい病気と考えると、罹っている人がとてつもなく多いとなりますし、罹っている人が少ないとすれば、とんでも無く死にやすい病気としないと、数値が整合しないからです。

私は、麻しんの予防接種の重要さを疑っていませんが、かと言って、その重要さを主張するのに誤った情報を根拠とするべきでは無い、と考えます。当該クリニックの記事は、単に情報が古いという事に留まらず、矛盾している、整合的では無い、と評価出来ますので、参照には注意を要すると思われます(端的に言って、参照しないほうが良い)。