「子宮頸がんは検診とワクチンで患者をゼロにすることのできる唯一のがんです。」という主張はおかしい
子宮頸がんは検診とワクチンで患者をゼロにすることのできる唯一のがんです。
端的に言って、この主張はおかしいです。
まず、予防概念をおさらいします。
予防は、次のように分類されます。
- 一次予防
- 病気に罹らないようにする事
- 二次予防
- 病気に罹っているが症状が出ていない人の病気を見つけ、寿命を延ばしたりする事
- 三次予防
- 病気の悪化を防ぎ、合併症等を減らすようにする事
この分類に従えば、
- ワクチンは一次予防
- 検診は二次予防
を目的としている、と言えます。
ここまでを踏まえつつ、再度、守れる命を守る会
の主張を見ます。
子宮頸がんは検診とワクチンで患者をゼロにすることのできる唯一のがんです。
患者をゼロ
に出来ると言っています。ここで既に、誰も病気にならないようにすると言っているのと同じです。であれば、病気は、一次予防、すなわちワクチンによって完全に防げると主張するのと同等です。なぜなら、二次予防は、病気に罹っているが無症状であるので、検診(二次予防)によって病気を見つけて処置すれば、その時点で子宮頸がん患者が発生する事になるからです。
これらを併せると、病気をワクチンによって完全に防げるとの主張なので、会の言う、検診とワクチンで患者をゼロにする、の部分は、論理的におかしいのです。
次に、会の言う患者概念を、もう少し広めに(と言うか曖昧に)見て、
病気になる人を出来るだけ減らし、かつ病気になった人を全員救う
と主張している、と捉えてみます。しかしこれでも、妥当な主張と評価する事は出来ません。その解釈をすると、ワクチンによって病気の発生数を減らしながら、少数発生した罹患者を全員発見して治せる、と言っているようなものであるからです。
その主張は、まず、全員発見する所に無理があります。これは、罹患の可能性のある全員(危険人口)が、感度100%の検査を受けるのを前提するからです。その時点で非現実的。
さらに、全員見つける事が出来る、と非現実的な仮定をしたとしても、今度は、全員治せるという、これまた非現実的な想定が必要です。それは、治療法が極めて優れているか、状態の悪い病気の発生が無いか、いずれかの条件が成立しなくてはなりません。
一般的に言って、検診が効果を発揮するには、
- 病気に罹っている人の割合が、ある程度大きい
- 病気に罹ってから症状が出るまでの期間が、ある程度長い
- 処置の成否を左右する点が、無症状の期間にある
- 上記の点より前に、検査で見つける事が出来る
- 上記の点より前に見つけられるよう、適切なインターバルと頻度で検診をおこなう
これらの条件が必要です。しかも、そもそも、病気の人が検診を受けなくてはならない訳です。
このように、会へ好意的な読解を(かなり無理矢理に)してみたとしても、到底成立し得ないような主張をしています。
私は、ワクチンと検診を併用して、子宮頸がんに苦しむ人を減らす、という方針に大いに賛成する者ですが、しかし、それを推進するにあたって、現実に沿わない、あるいは道理に合わない主張をする、つまり大袈裟な事を言うべきでは無い、と考えます。
名取宏さんもおっしゃるように、
検診とワクチンを併用しても子宮頸がんは患者ゼロにはならんだろ。「盛る」のはよそうよ。
— 名取宏(なとろむ) (@NATROM) March 9, 2019
検診とワクチンを併用しても子宮頸がんは患者ゼロにはならんだろ。「盛る」のはよそうよ。
盛るような主張をすべきでは無い、という事です。
参考資料: ↓予防概念の説明
- 作者: ロバート・H.フレッチャー,スーザン・W.フレッチャー,Robert H. Fletcher,Suzanne W. Fletcher,福井次矢
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↓検診関係の用語説明