《過剰診断(余剰発見)》と《偽陽性(誤陽性)》は違います
新型コロナウイルスによる感染症の議論に絡んで、検査に関する専門用語が話題に上っています。感度や特異度などですね。疾病の検査を受けるのは、私たち非医療者にとっても身近の事ですので、それにまつわる専門用語を理解するのは、とても大切だと思います。
さて、その流れにおいて、twitter上で、次のつぶやきが注目を集めていました(リツイート数と、いいね数で判断)。
ミナミのキャバ嬢からもらった、わかりやすい図をおいておきますね。 pic.twitter.com/ltqgwosLZc
— ちんにい (@chinniisan) 2020年2月25日
これは、検査に関連する用語について、図によって説明されたものです。込み入った概念を、図を用いて解りやすく説明しようとするのは、大変良いと思います。ただ、惜しい事に、この図には、間違いがあります。本記事では、それを説明します。
さて、ある集団(人口)に対し、何らかの特徴を持った個体を見出すべく、検査を実施する事を考えます。今は、感染症に関する議論ですので、病気に罹っているとか、ウイルスを持っている、といったのがそれです。検査の結果は、
- 陽性(特徴を持っているだろうと判定)
- 陰性(特徴が無いだろうと判定)
の2種があるとします。そうすると、あり得る結果は、
- 特徴を持ち陽性
- 特徴を持ち陰性
- 特徴が無く陽性
- 特徴が無く陰性
の4種です。検査の性能は、これらの割合をそれぞれきちんと考えた上で評価しよう、というのが、コロナウイルス周りで議論されている所です。
図に戻ります。その図では、上で挙げた4種類のパターンを、表に載せています。そこでは、
- 特徴を持ち陽性
真陽性
- 特徴を持ち陰性
見落とし
- 特徴が無く陽性
過剰診断
- 特徴が無く陰性
真陰性
このように表現されています。そして、この中の3番目、すなわち過剰診断
の部分が間違っています。
図(中にある表)では、特徴が無く(表中では感染がない
)陽性の事を過剰診断
と言っています。つまり、
特徴が無いものを特徴ありとする
のを過剰と言ってる訳です。そして、そこが違います。
検査、正確に言うと、検診:症状が無い対象に検査をするの用語に、過剰診断なる専門用語があるのはその通りです。ただし、定義は次のようです。
そのままでは症状が出ない病気を見つける事
つまり、この定義では、
病気がある
のを見つける事を意味します。ですが、言及している表では、
感染がない
のを見つける事を、過剰診断
と表現しています。ここが違っています。実際には過剰診断とは、症状を顕さない病気を見つけるのですから、表では、
真陽性
に含まれます。入っているセル(表のマス)が全然違うのですね。
重要なのは、過剰診断とは、
病気を見つける
ものである所です。ですからそれは、
病気を持ち、かつ陽性(真陽性)
の一部であるのです。しかるに表では、
病気(感染の状態)を持たずに陽性
を過剰診断と言っています。ここが間違いで、正確にはこの部分は、
と言います。この違いは、検診における専門の議論でもとても重要なので、きちんと把握しておく必要があります。
ちなみに、過剰診断は、英語のoverdiagnosisの訳語ですが、overdetectionが用いられる場合もあり、私はそちらの訳語として、余剰発見を使います。
おそらく、図(と表)を描いたかたは、偽陽性なる表現では直感的に解りにくいので、ぱっと読んで解りやすいように、と過剰診断の語を選んだのでしょう。けれども実際には、同じ分野の中で既に、違う概念に充てられた用語であった訳です。なかなか難しい所ですが、これは専門用語の区別の問題ですから、しっかり押さえなければなりません。
ここでは、検査における用語の細かい解説はしませんでしたが、私も以前に解説を試みた事があるので、興味のあるかたは、読んでおくと良いかも知れません。
また、これら用語をグラフィカルに、直感的に把握できるように作ったツールもあります。
特に、陽性/陰性適中度 の考えは、把握しにくいものなので、保有割合(有病割合)を動かしながら、その変化をじっくり眺めてみてください。 screening.iaigiri.com
- 誤陽性
- 誤陰性
と書き、真陽性と真陰性を、
- 正陽性
- 正陰性
と書きます。英語のtrueとfalseの訳と考えれば、真と偽となるのは当然なのでしょうが、私は、日本語の語感から考えて、正と誤を用いています。主張としては、下記文献と同。
【PDF】https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsgcs1963/1978/39/1978_37/_pdf