村中璃子氏による検査性能説明についてと、特異度のはなし

あまり正確な表現では無い、と思いましたので。

。仮に偽陽性率が6%しかない精度の高い検査を使って、その集団に1人も感染者がいない場合でも、PCRだけで判定しようとすると6%は陽性と判定されます。

↑この部分そのものは、だいたい正しいです。偽陽性は、保有者における陽性者の割合ですから、偽陽性率が6%だとすれば、その性能の検査を非保有者に施せば、偽陽性率は6%です。

しかし、村中氏はこの話を、

www.mixonline.jp

↑この記事に結びつけています。記事は、慶応義塾大学病院に来院した無症状の患者に検査をおこなった所、約6%が陽性であった、との内容です。村中氏はそれに言及して、

と仮定して話を進めていますが、そもそも、現状ではRT-PCR検査は確定診断であり、その特異度(非保有者が陰性になる割合)は、正確な所は不明です。何らかの資料から当てはめて想定するならともかく、特定の無症状者集団における診断確定した割合6%をそのまま偽陽性率と仮定して(つまり、特異度を94%と仮定する)、、ミスリードのない報道を。と注意喚起する意味が解りません。

仮に特異度が99%だとしても、検査前確率の低い集団(原則、コロナを疑う症状があるわけでも行動歴があるわけでもない人たち)に用いれば偽陽性率はぐっと上がります。

↑間違っています。特異度が99%と自分で固定していますから、偽陽性は必ず1%です。何故なら、偽陽性は定義上、1 - 特異度だから。上で書きましたね。

恐らく村中氏は、全検査者に占める偽陽性者の割合を、偽陽性と表現しています。つまり、異なる概念に同じ用語を充てているのです。既に定義されている用語を別の意味で用いるべきではありません*1

先に書いたように、新型コロナウイルス保有者に対するRT-PCR法の特異度は、正確な所は不明です。RT-PCR検査は、現在確定診断に用いられるものであり、他の検査の性能を評価する基準(参照基準)となるものです。ですから、RT-PCR法による結果の正しさは、真の保有・非保有と比較しないと判りませんが、それは不可能です。真の保有と非保有が判るのなら、誤りを含む検査をする意味などありません。ですから、参照基準となる検査の特異度を、90%とか99%とか、あるいは99.9%である、のように想定するのは難しいです。

ただし、特異度が100%では無い事は言えます。検査は当然、人間の作業がプロセスに入るものですから、ヒューマンエラーが介在して判定が誤る場合があります。検体を採取して検査に回す、というプロセスの場合には、検体取り違えや、検体が混じってしまう事による誤判定が生じ得ます。既に実例もあります。

www.fnn.jp

保有者の検体が飛び散って汚染された例

www3.nhk.or.jp

↑検体取り違えの例。発覚したのは、対象者が亡くなった後

news.nifty.com

↑火葬後に発覚。誤判定が気づかれた理由は不明

これらの例は、確定診断がおこなわれた後に、ヒューマンエラーに気づいて誤判定が発覚した例です(最後のは、経緯不明)。確定診断の誤り(誤診)が判明するのは、こういった、特殊なシチュエーションです。こういう風に気づかれないような混入があれば、誤判定は気づかれないままに終わります。ヒューマンエラーがどの程度発生するかの評価は、検査施設における品質管理のレベルや、検査する規模にもよります(作業量とリソースとの兼ね合い)ので、困難です。

そのような事情がありますので、確定診断そのものの検査性能を評価するのは、そう簡単では無いですし、あまり不用意に数値を当てはめるものではありません。

参考文献:

しっかり学ぶ基礎からの疫学

しっかり学ぶ基礎からの疫学

*1:この他に、1 - 陽性適中度 を偽陽性率と言う人もいました