ワクチンに関する周知
ワクチン接種後の長期経過は不明だから不安になる事自体は、全く合理的な心理です。
COVID-19に対するワクチン群は、通常のワクチン開発と較べても凄まじい速さ早さで開発され、一般への介入に用いられるのですから、打ってから何年も経ったらどうなるのだろうと考えるのは、当然です。
だから専門家は、その部分、つまり、
長期経過が判っていない介入をおこなって良い根拠は何か
という問いに答えなければならない訳です。
現状の所、臨床試験がおこなわれ効能が確認され、それが広く一般に用いられて効果が解ってきた、といった所です。いわゆるRWD(リアルワールドデータ)・RWE(リアルワールドエビデンス)が蓄積され、相当な効果のあるだろう事が言える、と。
対して、副作用(多義的ですが、狭めに取って、介入と因果関係にある有害事象としておきます)については、恐らくそれほど高頻度では無かろう、という感じでしょうか。ワクチンの種類や接種される人の特性(年齢や既往等)によってそのリスク(発生の度合い)は異なってきますが、膨大なデータから、かなり安全ではあるだろうと言えます。もちろん、こういうのはワクチンの保管や接種のオペレーション自体に影響を受けてリスクが変わる可能性があるので、日本におけるリスク評価を、薬剤疫学的にきちんとおこなう必要があります。
まとめると、現状は、
- 感染抑制や症状発現、重症化抑制について、相当高い効果をもたらす
- 短期的な副作用リスクは高く無い
このくらいの事が言えます。それを踏まえた上で、最初に書いたような、じゃあ長期経過はどうなるんだ、との懐疑は合理的です。まず、開発から時間が経っていないので、実際に観察された期間という意味での長期経過が不明なのは、これは単に事実です。ですから、その事実を押さえた上で、ではその介入をどうしておこなって良いのかを、専門家は丁寧に説明すべきです。
長期の経過は不明である事を認めた上での説明としては恐らく、
- 生物学的機構から言って長期安全が保証出来る
- 長期安全に未知がある事は否めないが、このまま感染爆発して死亡率が上がって死者が膨大になるより、未知な部分もあるが効果が認められたワクチンによって感染制御をおこなったほうが、トータルとしての害を抑えられる
こういった所ではないかと思います。前者については、そもそものワクチンの仕組みから、長期間を経てから害が発現するような可能性は考えにくい、というような説明です。これは、荒唐無稽の機構を前提してワクチンの害を論ずる意見などに対しては、カウンターとして有用だと考えます。しかるに、
未知のメカニズムによって時限的に害が発現する事は否定出来ないのではないか
といった懐疑に対しては、反論しにくくなります。何しろ、まだ解らない仕組みを前提しているのですから。
当然これは、際限無く適用すると、何とでも言えてしまう事になります。既知の知見からどんなに説明しても、いやまだ解らない仕組みがあるのではないか、と、いくらでもアドホックに言えてしまう。そういう意味での取るに足らない主張になりかねないものではありますが、しかし、何らかの未知のメカニズムがあるのではないか、との問いは、一般的に否定し切れないものです。何と言っても、薬剤の効能効果や害を評価する、曝露と帰結の因果関係を見出す、という事をおこなう時には、
メカニズムはブラックボックスのままにして関連を見て因果推論する
のが疫学的標準的な方法であるからです。未知の仕組みで効くのでは、と同じく、未知の仕組みで害を及ぼすのでは、との可能性は常に考慮すべきです。従って、先程も書いたように、現状のワクチン群について長期安全性について未知な部分は実際あるのを認めつつ、既知の生物学的知見からの説明や、長期安全は不明でも当座の感染爆発の抑制を優先する、という合目的性を求める事などを、正直に説明すべきと考えます。
要するに、長い期間で見たら解らない事があるんじゃないですか? と疑問を呈する人には、確かにそういう面がありますが、生物学的仕組みや感染制御の合理性を鑑みて大規模に接種をおこなっています、それを踏まえた上で受けるかどうか決めてください、といった風に説明する必要があると思うのです。それを誤魔化して、ワクチンはこういう仕組みだから長期的にも安全・安心だ、と言ったり、解らない部分があるにしても取り敢えずの感染拡大を防がなくちゃ駄目だろう、的な強い言いかたをすると、ディスコミュニケーションが起こってしまう危険がありますし、ある種のパターナリズムにもなりかねません。
ちなみに、厚労省による、ワクチン関連のQ&Aはこれです(安全性と副反応に関する部分)↓
「見やすさ・分かりやすさ・伝わりやすさ」をコンセプトとした
(新型コロナワクチンについてのQ&A|厚生労働省)と書いてあるように、UI等に工夫が見られますが、文章は固いままなので、読むハードルはそんなに低く無いように思います。と言っても、ここの噛み砕いだ説明をあまり求めると、結果的に分量が多くなったりもするので、難しい所ではあります。何か文句を言っているみたいですが、総じて丁寧に作られており、いわゆる役所のページとしては、よく作られたほうだと思います(厚労省のページは結構見ますが、読む人の事を考えているのか、と感ずる場合があります)。
長期安全性に関わる部分↓
先に書いたような、こういう機構によって危険が及ぼされるかも知れないのでは、との質問への回答。それに対しては、知られている機構はこういうものだから、質問のような仕組みでの害は働きませんよ、との答えで、それで良いと思います。
私が後のほうで書いたのは、こういう具体的な機構では無く、何らかの未知の仕組みによって長期間の後に害が出るのでは、という問いへの応えです。そういう疑問に対し、率直な答えが出せるか(可能性自体は認めた上で、推測を含んでいる事や合目的性を優先している部分のある事をきちんと周知出来るか)が、重要な所です。