室月氏の発言の問題点

列挙します。

甲状腺調査で見つかるものをがんと呼ぶのが間違いと言った
これは、甲状腺調査で見つかるものはことごとく無害である事を前提しないと成り立たない。そんな知見は無い。
乳頭腫と表現した
乳頭腫は良性腫瘍の事なのだから、がんは乳頭腫などと表現出来ない。※参考資料を文末に示す
名称の変更が真剣に議論されている事を、1番目の主張の論拠とした
他の専門家から指摘されているように、甲状腺腫瘍におけるNIFTPなどの概念は臨床方面から提唱されたものであり、そのような議論は前提されている。※参考資料を文末に示す
福島で見つかった全例についてがんではないものを「がん」と呼んでいると表現した
その後に、80%以上のひとが手術を受けてしまいと書いてあり、それは福島における甲状腺がん検診で見つかった例から導いている。
福島で見つかった全例について本来ならばまったく不要な手術と言った
これも、直後の文から解る。しかるに、全例について手術が不要である(すなわち全例が余剰発見である)とは言えない。
自分で、統計的にしか証明出来ないと言っているのに、全例を余剰発見として扱っている
全例を指していないのなら、そもそも甲状腺調査でみつかるがんはなどと表現できないし、すべきで無い。

全部そうだ、と乱暴な意見を言ったのだから、いや全部がそうであるとは言えない、と専門家から批判されるのは、当たり前の話です。強烈な一般化をした訳ですからね。それまでがんとされていたものをそう呼ばなくする(IDLEやNIFTP)という議論を、全例が余剰発見である事を主張する論拠とするのも、専門家からの強い批判を呼び起こした要因でしょう。NIFTPを提唱したのは臨床方面から(覚道らによる)、だからです。ちなみに覚道氏は、若年型甲状腺癌研究会(JCJTC)のメンバーです。要するに、高野氏らに同調する立場。ややこしいですね。本当にややこしい。覚道氏は室月氏の一連の主張をどう捉えているか、を知りたい気もします。

検診の有効性や実施の是非を論ずるのが重要な事は論を俟たないですが、それを議論するのに、対象とする専門分野の知識や知見を蔑ろにして良いとはならないでしょう。もちろんそれは、臨床方面の人びとは検診の有効性議論を蔑ろにしてはならない、という方向でも成り立つ話ですが、今回の室月氏の主張は、前者の意味で専門的知識を蔑ろにした事例である、と言えます。

これも室月氏の発言絡みですが、福島での甲状腺がん検診を休止する論拠について、がん検診の有効性評価の観点から論じた記事に張っておきます。私は福島の検診実施に反対の立場ですが、同時に、室月氏の主張は全く乱暴で根拠も整合性も欠くものであり、複数の専門分野にわたる建設的な議論を妨げるものだと考えています。

interdisciplinary.hateblo.jp

資料:

NIFTPについての解説↓

※注意。minaniyasashiku氏は、過剰治療を、がん検診の議論におけるそれと異なる意味で用いています。これは、逆方向の蔑ろです

甲状腺乳頭腫についての解説↓